第35話「昼食と予備戦」

「ところで昼飯はどうするんだ?」


 とライネが聞く。


「うん? 別に一食くらい抜いても平気だなーって思うので、これから魔法練習でもしようかと」


 ミゲルは魔法マニアらしい回答をする。

 彼にとって食事とは魔法を使うためのエネルギー補給だ。

 

 なくなると困るのだが、すぐになくなるわけではないだろうと考えている。


「食事は大切だぞ? とれるなら毎食きちんととらないとな」


 ライネは諭すように言うと、突然頬を赤らめてもじもじしはじめた。


「それはそうですけど、一食くらいなら大丈夫なんじゃ……」


 ミゲルはまったく気づいていない。


「だ、だからこれを食べろ!」


 ライネは腰につけていた革のポーチから木の箱を取り出し、彼に押しつける。


「昼食を抜こうとするお前を見かねて渡すだけだからな!!」


 赤い顔を横に向けて彼のほうを見ようとせず、ライネは力いっぱい叫ぶ。


「は、はあ」


 ミゲルはいきなりの展開についていけず、反射的に箱を受け取る。


「じゃあな! ちゃんと食べろよ!!」


 叫びながらライネはすごい勢いで走り去った。


「……何だったんだろう?」


 ミゲルは首をひねる。


 彼はラブコメ漫画とアニメも見ていたはずだが、それらといまの自分を結びつけることができなかった。


 自分には一生縁がないと最初から決めつけているので、可能性を考慮する段階に入ることさえ、脳が働こうとしなかったのだ。


 一応はと彼が思って箱を開けてみると、肉や野菜を挟んだパンが並んでいる。


「サンドイッチ……こっちの呼び方だとサンドだっけ?」


 世界は違っても似たような食べものはけっこうあるのだった。


「もらったんだから食べていいんだよな」


 ミゲルは自問自答して、かまわないと結論を出す。

 ライネがどんな意図でくれたのかは想像できなかったが。


 とりあえず面倒だからと近くの校舎に背中をあずけて、立ったまま食べる。


「美味しいな」


 意外、と言えば失礼かとミゲルは思う。

 ライネの手作りかどうかまではわからない。


 だが手作りだとしたら、けっこう料理が上手なのではないか。


(まさか女子の先輩から渡された食べものを食べる日が、俺に来るなんてなあ)


 ミゲルは他人事のように考えている。

 

「アニメの主人公が意外と淡白だったの、ちょっとわかった気がする。相手の意図がわからないと反応しようがないよ、これ」


 と食べ終えて出てきた最初の感想だった。

 

「いや、アニメっぽい体験ができたからいいのか」


 次に彼はそう思い、気持ちを切り替える。

 魔法ほどではないせようれしいことだった。



 そして放課後、ホームルームを終えたフィアナ先生にさっそくミゲルは話しかける。


「先生、アロサール先輩から聞いたんですけど」


「ええ、わたしも聞いています」


 フィアナはどこか疲れた様子で言った。


「職員室に行ってわたし以外ふたりの職員が必要になります。話はそのあとですね」


「はい」


 立ち合いが三人必要になるんだと思いながら、ミゲルは彼女についていく。


 職員室には三年らしき上級生の男子と、ふたりの中年男性教師が入り口付近に立っていた。


「みなさん早いですね」


 とフィアナが驚きをあらわにしたので、普通のことではないのだろう。


「こういうことはさっさと済ませるに限る」


 ひげをたくわえた厳つい顔つきの男性が、ぶっきらぼうに言った。


「その生徒ですか? ライネ・アロサールが推薦したという一年は?」


 もうひとりの男性教師は非好意的な視線をミゲルに向ける。


「ええ。転入生のミゲル・ボロンくんです」


 とフィアナが答えた。

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神速詠唱のマジックマスター~魔法狂の異世界無双。誰もついてこれない~ 相野仁 @AINO-JIN

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