正義の味方は悪の戦闘員の夢を見るか?

茶猫

第1話 正義の味方、山奥で死にかける

 出張一日目、日は傾き始めた、今日の仕事を終え俺は心身ともに疲れていた。

 もちろん今日の食事など未だ食べていない、よって絶賛空腹でお腹の虫が大合唱していた。

「今日の任務もやっと終わった、早く旅館でも探して今夜はゆっくり休みたい」

 フラフラする足取りで町中をうろうろし、探しているが旅館らしきものは見当たらない。

 確かに山奥ではあるが、ここは建物も多く町であることは間違いないだろう。

 だが町は人が見当たらず静まり返っていた。

 不思議なのは建物は平屋の建物ばかりが目立ち高い建物は無い。

 そして看板など見つからず、宿泊所どころか食事が出来そうなところなど見当たらない。

「どうしたというのだ、この町はゴーストタウンなのか?」

 周りは暗くなった、そして街灯もない月明かりが頼りの暗い道を絶望的な思いで進んでいるだけだった。

 そんな時少し先に広場が見えたので向かったのだが、そこは公園のようだった。

 公園に着くとベンチに座り、スマホを手に取って何か情報を得ようとした。

「電波が届かないのか、なんだよ~今日はここで飯抜きの野宿か……」

 ベンチに寝ころんで溜息を付きながら悪態を付いていた。

「こんな辺境での任務は相手のあることだ仕方が無いだろう、だがこの状況はダメだろう事前に町の情報をくれよ、とにかく今日は寝て明日考えよう」


 もちろん疲れていたはずだが、眠ろうと考えても一日食べてないのだ、お腹が空いて眠れない。

 そこへ少し酔っぱらった男がふらふらと近づいてきた。

「兄ちゃん、よそ者か、こんなところで寝ると凍死するよ、この土地の『凍気降ろし』を知らないのか?ともかく俺の家に来い」

 普段はうざい酔っ払いが絡んできたと追い払うのだが、人に会った安心からか、男に付いて行くことにした。

 男の家は見かけは木造の平屋だが鉄筋らしきもので補強されたしっかりした家だった、しかし家の中に入ると何も無かった。

「ここは何かの倉庫か?」

 そんな言葉が出たが、男は酔っぱらっているにも関わらず、しっかりした口調で説明してくれた。

「この辺りは、後ろの山にある急斜面で発生する物凄い凍気が通過するんだよ地上では住め無いんだ、ここの住人は全員地下室で暮らしているんだよ」

「地下で暮らしているのか、なるほどだから地上には何もないのか?」

 男は小屋の中心に向かって歩いて行った。

「あの山は急激に立ち上がる垂直に近い斜面があって、その壁のような斜面に冷たい空気が当たって秒速数百キロで一気に降りてくる、その温度はマイナス60度だ、これを『凍気降ろし』というのだが、生き物はそのまま瞬間冷凍される」

 小屋の中央には鉄で囲まれた部屋があり、その中に入ると地下室への階段室への入り口になっていた。


 地下へは長い階段が続いた、下に行くほど暖かくなっていた。


「知らなかった、ありがとうございます、貴方は命の恩人です」

 男は照れながらも話を続けた。

「それより食事は済んだのか?、この街では看板も役に立たないから店の表示も無いからどこに何があるか分からないだろう」

 ありがたい言葉だ、上手くすれば食事にありつけるかもしれない。

「そうなんです、食事するところも見つけられなかったうえに、何にも知らないから、今日は野宿かと思い公園で寝ていたのです」

 やがて階段の踊り場に扉があり、その中に入ると部屋があった。

「奥にもう一部屋あるから、そこを使ってくれ今日はそこで眠ると良い」

 そう言うと男は押入れのようなところをゴソゴソと探し始めた。

「カップ麺しかないけど食べるか?」

 男はにこやかにカレーのカップ面を俺に差し出した。

「良いのかい、ありがとう」

 そして俺は、今日初めての食事となるカップ面にあり着くことが出来た。


 ウィーン、ウィーン……


 カップ麺を食べていると、警報のような音が鳴り始めた。

「なんだ?なんの音だ?」

「『凍気降ろし』警報さ、もう少し遅かったら今頃冷凍人間になっていたよ」


 そうだな、流石に今のこの姿ではマイナス60度は耐えられないだろう。

「本当に助かったよ、ありがとう、あなたは命の恩人だ……」


 それから俺たちは色々な話をした、男が今日職場で表彰されるようなことをしたらしい、そして報奨金を得たのでこの時間まで飲んでいたことや、俺は観光で初めてこの地方へ来たことなんかを話した。


 ただし観光と言うのは嘘だ。

 本当のことは言えない、何故なら俺は正義を守る秘密戦隊のひとりだ。

 それもリーダである『赤のレッドバトラー』なのだ。


 この地方で暴れる悪の軍団を殲滅させるためにこの地に来たのだ。

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