何の役にも立たない歴史よもやま

犬單于 𐰃𐱃 𐰖𐰉𐰍𐰆

第1話 突厥文字でパフラヴィー語を表記してみる

――突厥文字とは何か?

 まぁ詳しい背景は、Wikipedia等をご参照くださいませ。ここで概説するにしても、それらを要約した程度のことしか書けません。単刀直入に突厥文字から語ります。


 表音文字には、音節文字と音素文字の二種類が有ります。突厥文字は音節文字と音素文字の性質を兼ねています。その為、解読するにも表記するにも、独特の癖があってややこしいです。

 取りあえず、Talāt Tekin『A GRAMMAR OF ORKHON TURKIC』より、以下の通り引用します。



1.11. The Character


 オルホン碑文の突厥文字は三十八字より成る。その中の四つは母音である。それぞれの文字は二種類の母音を表す。これらの母音の一つが【𐰀】「a」と「ä」で、もう一つが【𐰃】「ï」と「i」で、もう一つが【𐰆】「o」と「u」で、最期の一つが【𐰇】「ö」と「ü」である。この中、【𐰀】「a」及び「ä」と【𐰃】「ï」及び「i」は、母音調和の法則によって見分けることが出来る。しかし、【𐰆】「o」及び「u」と【𐰇】「ö」及び「ü」は見分けることが出来ない。

 残りの文字の中、二十は二重の音素文字(音節文字)であり、前に「a」或いは「ä」を付け、後ろに子音を付けて構成する。それらは子音単独でも用いることが出来る。【𐰉】「ab」【𐰋】「äb」【𐰑】「ad」【𐰓】「äd」【𐰍】「aɣ」【𐰏】「äg」【𐰴】「aq」【𐰚】「äk」【𐰞】「al」【𐰠】「äl」【𐰣】「an」【𐰤】「än」【𐰺】「ar」【𐰼】「är」【𐰽】「as」【𐰾】「äs」【𐱃】「at」【𐱅】「ät」【𐰖】「ay」【𐰘】「äy」。

  円唇母音と結合した音節文字が二つある。【𐰸】「oq/uq」と【𐰜】「ök/ük」。そして、「ï」或いは「i」を伴った音節文字を表す子音も二つある。【𐰶】「ïq」と【𐰱】「iç」。

 子音文字の中、【𐰲】「ç」【𐰢】「m」【𐰪】「n͂」【𐰭】「ŋ」【𐰯】「p」【𐱁】「ş」【𐰔】「z」は、母音に対して中立である。それらは後舌音、前舌音の両方に使える。

 子音を合成した文字が三つある。【𐰡】「lt」【𐰨】「nç」【𐰦】「nt」。最初の一つは後舌音の時だけ使われる一方、残り二つは母音に対して中立である。

 最後に二つの音節文字がある。一つは【𐰿】「aş」で、もう一つは【𐱈】「baş」である。


 と、以上の通りです。音節文字の性格を持ってますが、基本的に音素文字の性格が強いです。アルファベット表記の用に逐一母音を表記しません。アラビア文字表記の様に母音を省きます。それだけなら好いのですが、音節文字の性格を持つため、屡々語頭の【𐰀】「a―ä」を省きます。例えば、【𐱃】「at」と書くだけで「馬」を意味します。【𐰀𐱃】「at」と書くと「名」の意味になります。これは短母音と長母音の違いを反映してると云われてますが、実際の所よく判りません。実例は以下の通りであります。


語頭の【𐰀】を省く場合。

adaq 𐰑𐰴 足

altun 𐰞𐱃𐰆𐰣 金

artuq 𐰺𐱃𐰸 余分な

ädgü 𐰓𐰏𐰇 善い

ämgäk 𐰢𐰏𐰚 苦労

ärän 𐰼𐰤 男達

eki 𐰚𐰃 二


語頭の【𐰀】を表記する場合。

āç 𐰀𐰲 飢え

āçsīq 𐰀𐰲𐰽𐰴 飢えている

āçsīq 𐰀𐰲𐰾𐰴 同上

āçsār 𐰀𐰲𐰽𐰀𐰺 飢えたら

āt 𐰀𐱃 名

ātīɣ 𐰀𐱃𐰍 名を

ātīn 𐰀𐱃𐰃𐰣 ~の名


 と、こんなところで御茶を濁そうと思います。突厥文字について、最後に一言付言しておきます。

 突厥文字の筆記法は音節と音素の混合である訳です。しかし、最後に使われてた頃、我々が知るアルファベットの筆記法に近づいたそうです。東トルキスタンで発見された写本では、母音記号が明確に使われており、ほぼアルファベットと言える表記法だったそうです。もしも、後世まで使用続けられたら、アルファベットを其の儘転写したような使われ方をしてた可能性がある訳です。


 ここで、「突厥文字でパフラヴィー語を表記してみる」という本題に入ります。

――そんなのパフラヴィー文字で表記すりゃいいじゃん?

 という突っ込みは御尤もと思います。

 しかし、そんなのマスターできるほど、自分は頭好くありません。折角覚えても、現段階でパフラヴィー文字を快適に入力できる環境もありません。それに、そもそもの目的は歴史学や言語学をやる訳じゃありません。突厥文字もパフラヴィー語も、異世界ファンタジー小説の装飾にすることが目的です。突厥文字でテュルク語を表記しつつ、パフラヴィー語の語彙を借用することが目的なのです。

――何故そんなことするのか?

 それは自分がやりたいからやるだけです。「其処に山が有るから登る」としか言いようが有りません。


――パフラヴィー語とは何か?

 これも詳しい背景は、Wikipedia等をご参照くださいませ。MacKenzie 『 A Concise Pahlavi Dictionary』から、パフラヴィー語の音韻を以下の通り抜粋します。


【母音】

ī  ē ā ō ū 

i (e)a(o)u

 長母音と短母音に分かれています。(e)と(o)という短母音は例外的に若干あるだけです。


【子音】

p t ç k

b d j g

f s ş x h

  z ž γ

m n

w r l y

 「ž」と「γ」は外来語や借用語に使われるだけだそうです。


 突厥文字と対照させると、突厥文字には「ē」「j」「f」「x」「h」「ž」が有りません。新たな突厥文字作るのは良い手ですが、非常に面倒で困難でもあるので早速諦めます。日本語では「r」と「l」の区別なくラ行で表記するように、音価の近い突厥文字に複数の音価を纏めてしまうことにします。そこで以下の様な文字表を作ってみました。


【𐰃】ī  i

【𐰀】ē e ā a

【𐰆】ō o ū u 

【𐰯】p f

【𐱃】t

【𐰲】ç j

【𐰚】k h

【𐰉】b

【𐰑】d

【𐰏】g

【𐰽】s

【𐱁】ş

【𐰶】x

【𐰔】 z ž

【𐰍】γ

【𐰢】m

【𐰣】n

【𐰋】w

【𐰺】r

【𐰞】 l

【𐰖】y


 そこでパフラヴィー語を幾つか突厥文字で表記してみましょう。

𐰓𐰀𐰤 dēn 宗教、信仰、死んだときに現れる守護霊

𐰯𐰀𐰑𐰶𐱁𐰀 pādixşa 支配者、力のある、権威のある

𐰆𐰔𐰢𐰉𐰺𐰑 uzumburd エメラルド

𐰶𐰋𐰺𐱁𐰀𐰓 xwarşēd 太陽

𐰖𐰆𐰔 yōz チーター

𐰾𐰀𐰤𐰢𐰺𐰋 sēn murw シームルグ

𐰀𐰔𐰑𐰚𐰀𐰏 azdahāg アジダハーカ、ザッハーク


 以上の様になります。自分の定めた規則から外れて、前舌音系の子音も入れてしまいました。まぁ古代中世の言語なんて、そんなもんです。


 おいおい自分なりに更なる改良を加えていきたいと思います。本稿は、取りあえず此処までにいたします。

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