第18話 王都でゲリラ活動(アイドルプロデュース)

 パッカパッカ、と蹄の音が響く。

 馬車を引いているとは思えないくらいの軽い足どりだ。


「う~ん、やっぱり見た目は本物の馬にしか見えないねー。これくらい近くだとなんか変だなっていうのは分かるんだけど」


 リリの言葉通り、馬車に乗っている僕らから見ても馬車を引いている馬は本物にしか見えない。

 因みに、御者台にはミライが座っている。


「いい材料をつかいマシたからね。残っていた資材の中でも」


 ミライ曰く、そういうことらしい。

 要するにこの馬は人工物……馬形魔導人形といったところか。ミライの馬版みたいなものである。

 なんで僕らが馬型ロボに引かれて馬車移動をしているのか?


 ミライを起動した後の顛末だが――。


『おおぉ! 本当にリリの歌って踊ってる映像がそのまま見えますね! しかも立体映像で!』

『音質の再現度も90%以上のクオリティを誇りマス』

『うわぁ……ウチってこんな風なんだ……なんか、こうやって見るのは恥ずかしいかも』


 ミライが残っていた資材や制作機器を使って作ってくれた映像再生用の魔導機械は、掌に収まる程度の大きさの立体映像投影装置みたいなモノだった。


 僕の感覚でいえば、Blu-rayディスクから直接立体映像が浮かび上がってる感覚に近い。

 もちろん音付きで、さっき撮影したリリのダンス映像がそのまま投影されている。

 ディスクに魔力が付与されており、魔力が切れるまでは単体で再生できるというわけだ。


 ビデオカメラに近い機能を持った魔導機器は作らなくても元々在庫があった。

 もしかして、この施設をくまなく探せばミライのいた時代のことが記録されている何かが残っているのかもしれない。

 とはいえ、かなり膨大な資材や機材が残されたままになっているし、全てを探しているととんでもない時間がかかりそうなのでそれは止めておく。


『この録画機材と再生ディスクがあれば……パフォーマンス映像を撮って町にばら撒くだけでも結構なファンを獲得できるのでは……!?』


 いきなりライブをするのは色々な意味で結構な無謀さがあるしな。

 そういった形での布教は有効なはず。


『それはつまり、この機材を持ってどこかの町に乗り込み、当機とリリティパ様のパフォーマンス映像を売りさばく……ということデスか?』

『あ、あの、ミライちゃん。さっきも言ったけど、ウチのことはリリでいいよ?』


 僕が気絶している間に自己紹介をすませていたらしいリリが愛称呼びを推奨しているが。


『いえ、当機はマスターの所有物デスので。マスターの契約者の方は敬わなくてはなりまセン、形式上は』

『あぅ……』


 ミライは愛称で呼ぶ気はないらしい。っていうか敬うの形式上なのかよ。

 まぁ僕のこともマスターとしか呼ばないしなぁ。


『呼び方とか愛称はまた追々で。ミライの言うとおり、どこか大きな町に行ってファンを増やすゲリラ的な活動をしようと思っています』


 ファン数を増やすことは、僕らの目的にも、強さを得る為にも必要だからな。


『了解しました。デハ、機材を持ち運ぶ為の機材を用意する必要がありマスね。残っている資材で運搬車の制作を提案しマス』

『いや、今の時代にそんなモノで移動してたら死ぬほど目立っちゃいますから……』

『フム? では、現在の技術水準を教えてください。可能な限り目立たない擬態をした移動、運搬の手段を考案できるかもしれまセン』


 ――といった感じで、ミライの作った馬ロボにひかれて移動しているというわけである。


 馬の擬態に関しては、いってしまえばリアルな着ぐるみみたいなものであるらしい。

 その辺も含めて『いい素材を使った』ということなのだろう。


 因みに、機材を色々と持って移動しているので馬車は二台分だ。

 本物の馬ではなくロボなので、ある程度自動で動いてくれるから別に御者をしなくても馬車は勝手に走ってくれる。

 なので二台目の馬車は機材を満載しているが、実は誰も乗っていない。

 もし誰かに見られそうな状況になったら、僕が御者台に座りにいくことにしよう。


「ねぇねぇレーム君。結構な距離移動してきたけど、結局どこの町に行くつもりなの?」

「あ、言ってませんでしたっけ? 王都ですね」

「なるほど。王都か~。……王都!? って、あのすっごくおっきい町だっていう、王都?」

「そうです。何しろファンを増やすなら人口が多い方が都合いいですし」

「ほ、ほぇ~……なんか、いきなりそんな大きな町にいくのは緊張するけど、うんっ、そうだよね……。なるべく沢山の人にウチとミライちゃんのぱふぉーまんすを好きになって貰わないといけないんだもんね……!」


 うむうむ。

 リリもアイドルとしての意識がしっかり芽生えてきているようで何よりだ。


 さて、王都か。

 リターンも大きいがリスクも大きい場所だろうし、僕も気合いをいれていかないとな。プロデューサーとして。







 何日かの旅を経て、僕らは元いた国の王都付近へと辿り着いた。

 まだちょっと距離はあるが、既に町の巨大さゆえ視界に入っている。


「……ウチ、こんなにおっきい町はじめてみた」

「これが今の時代の最大規模の町デスか。やはり、文明がかなり後退しているようデスね」


 なんつーか、対象的な感想だなぁ。

 まぁ二人の立場だとそうなるだろうけども。

 僕の感想としては、なんというか、まぁ『ファンタジーな王都』のイメージそのままとしかいいようのない見た目だ。つーかゲームそのままだ。


 普通の馬車だったらもっと時間がかかった所だろうが、案外早くついたな。

 こちとら魔力の補給さえあれば休憩なく動き続けるロボ馬車さんのお陰で夜だろうと走り続けられるからだが。


 道中、盗賊に襲撃されたり検閲があったりとかもしたのだが、並の盗賊くらいじゃこの馬車には追いつけないし、よしんば追いつけても並の攻撃では通用しない。何しろ見た目と違って素材が木とか布じゃないしな。

 馬車の中身も樽とか木箱に入れて偽装しているだけだが、そもそも機材を見たところで何かよく分からんガラクタにしか見えないだろう。

 余程オーパーツに詳しい研究者なら別だが、そんなヤツが検閲やってるわけないので、普通に通れたわけだ。


「さて、まずは活動拠点を作りましょうかね」

「町に入って宿をとるってこと?」

「いえ、宿だと色々都合が悪いことが多いですから。もっと町の外れ~の方にある廃墟とか探したいところですね」

「それは不法滞在にあたるのではないデスか?」

「これからする行為がどのみち犯罪者に近い行為だから、そっちの方が都合いいんですよ」


 アイドル活動を王都でするとなると、バレたら絶対に教会とかに目を付けられるからね。


「廃墟か~。ウチとしてはおっきな町の宿とかだと緊張しちゃいそうだから、そういう場所の方が落着くかも」


 うちのアイドルは逞しくて助かるなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異空のアイドルプロデューサー~ファンタジーRPGの悪役に転生した男が「ここには生きがいの推したちがいない!?なら生み出すしかない!」とスカウト育成を始めたら最強の職業が誕生した~ 佐城 明 @nobitaniann

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ