春の嵐

星影葵

序章 全ての出会い

第1話 お絵描き少年

 5月の柔らかい日差しが差し込む図書室。

 私星野ほしの美咲みさきは、友人の韮川にらかわ沙夏さなちゃんと、迫り来るテストのために勉強をしていた。

「誕生日なのにテスト勉強なんてはかどるわけがないじゃない」

 沙夏ちゃんはそう伸びをしながら愚痴をこぼす。彼女は今日、13歳の誕生日だ。

「でも、このままだと私赤点取っちゃうよ・・・」

 私はそうぼそりと呟く。

 私は勉強が苦手だった。決して嫌いというわけではなかったが、机に向かうこと自体が得意ではなく、小テストからもう限界を感じていた。

 沙夏ちゃんは私の言葉に納得したのか、

「そうだね。最初のテストはせめて良い点取りたいしね」

「でもなんか集中力切れちゃったなぁ。小休憩しよ!」

「あんたそう言ってさっきもしてたよね?でも賛成」

「ふふん。休憩も大事だよね!でもいいなぁ、沙夏ちゃんはもう13歳でしょ。羨ましい」

「美咲だって、誕生日は来るでしょ」

 苦笑いしながら沙夏ちゃん。

「でも私誕生日3月だよ?前やっと12歳になったのに。あー、いいなー。13歳ってかっこいいじゃん。私小学生と間違えられるんだよ?これは年齢のせいだ」

「うーん。年齢のせいっていうか、それは美咲が小さいからじゃない?」

 私の身長は150㎝もない。しかも顔つきも幼いから、よく幼く見られていた。クラスでもいちばん背が低い。

「そこまで言わなくてもいいじゃん!」

「はいはい、ごめんね」

 沙夏ちゃんはそう意地悪く笑う。こうやって馬鹿にされても、私たちは幼稚園からの友達だ。何を言われても笑って許せる。本当はそう思ってないってわかってるから。

 すると、沙夏ちゃんは自分たちが座る席の向こうに一人の少年がいることに気がついた。

「あ、あの人・・・・・」

 そう言って沙夏ちゃんの目線の先をみると、絵を黙々と描いている背の高い子が。

(あの子は確か・・・米津よねづ玄師けんし君だったよな)

 身長測定の際学年でいちばん背が高いっていわれていていいなぁって思った記憶がある。同じクラスにもかかわらず話したことはないけど。

「あの子も背、高いよね。いつも絵描いてる子。話したことないけど」

「私も話したことない」

「何考えてるかわかんないし、怖いんだよね。しかも、小学校の頃いじめられてたらしいよ」

「えっ、そうなの?」

 よくそこまで知ってるな・・・と思ったが、すぐに沙夏ちゃんには友達が多いことに気がついた。おそらく他の友達から聞いたのだろう。

 案の定、

「あの子と同小の子が言ってた。だから、正直私、関わりたくない」

 一刀両断である。そういう所は彼女は少しドライだ。

(でも・・・そういうものなのかな・・・?)

 いじめは酷いし、正直聞いたときも驚いたが、あくまで米津君は被害者のはずだ。いじめられる要因が米津君にあったとしても、それが彼を避けたりする理由にはならないんじゃないのか。

 そう疑問に思いつつも言葉には出さずに、私たちは勉強を続けた。しばらくして、

「私そろそろ帰ろっかな。パパとママが誕生日会開いてくれるって言ってたし!」

「あ、そうなんだ!私はもうちょっと勉強していくね!」

「おっけー。じゃ、また明日ねー」

「ばいばーい!」

 そして、図書室には私と米津君の2人だけになった。最初は気にせず勉強していたけれど、だんだん疲れてきた。

(私もそろそろ帰ろうかな)

 そう思って帰り支度をし、立ち上がると同じタイミングで米津君も立ち上がっていた。

 えっ、なんか、すごく気まずいんだけど・・・。

「あっ、お疲れ・・・・・・様」

 何か言おうと思ってとっさに掛けた言葉だった。彼は私の方を見ずに、

「・・・・・・お疲れ様」

 てっきり無視をされるのかと思っていたけど、米津君はしっかりと返事をしてくれた。

「絵、描いてたの?」

「勉強もしてた、一応」

「そ、そうだったんだね・・・・・・」

 気まず・・・。どうしよう、このあと「俺の話してたの?」って言われたら。

 そうおろおろしている私をよそに、

「でも勉強飽きたから絵描いてた」

「あっ、そうなんだね!何かいてたの?見たいな!」

 とっさに食いついちゃったけど、大丈夫かな。初対面でドン引きされてないよね・・・?

「そんな・・・。そんな上手くないよ」

「大丈夫!見せて!」

「わ、わかった」

 半ば無理矢理である。少し申し訳ないなって思いながらも、米津君のノートを見せてもらうと、頭に花を乗せて笑顔を浮かべている女の子の絵が描かれていた。

 凄く可愛くて、素敵。こんな凄い絵を描いてるとは思わなかった。

「えっ。これ米津君が描いたの?」

「うん」

「めっちゃ凄いじゃん!しかも超可愛い!」

「そうかな・・・?」

「そうだよ!お花とか超リアル!ホントに凄いよ!」

 米津君はずっとはにかんでいるようだ。

 さっき噂話をして本当に申し訳なかったけど、でも、本当にこの絵は素敵だ。繊細で、壊れてしまいそうなくらいにはかない絵。

 後になって考えてみれば、これが、私と米津君を繋いでくれたものだった。

 

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春の嵐 星影葵 @Destroykarin63

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