期末試験と勉強会 ③

 美影と付き合っているといっても基本的に付き合う前とほとんど変わっていない。美影は普段から人前で俺との仲を見せつけるようなことはしない。賑やかで積極的な志保とは違い、基本はクールな感じで落ち着いている雰囲気だ。

 目の前で絢と親しそうにいろいろな表情を見せながら会話をしているが、学校ではここまでの顔を見せることはあまりない。俺の知る限りでは志保の前ぐらいのような気がする。


「どうしたの?」


 美影は絢との会話の途中で俺の視線が気になったのか、照れくさそうな顔をしている。俺もまさか話しかけてくるとは予想していなかったから焦ってしまう。


「ははは、い、いや……二人とも仲いいなって」

「えぇ〜、見惚れてたでしょう」


 俺が笑いながら答えると絢はからかうような口調だったけど目が怒っているように見えた。


(あれ⁉︎ なんで?)


 一瞬、俺の頭が混乱しそうになる。すぐに絢はいつもと変わらない表情をしている。


(俺の思い違いか……)


 そんなことを考えていると、再び絢が話しかけてきた。


「次の試合は年明けになるの?」

「えっ、そうだな、確か年内は公式戦がないよな」


 俺は美影に確認するように顔を見ていると、「違うよ」と首を振る。俺は意表を突かれた感じになり思わず前につんのめりそうになる。


「えっ、そ、そうなの?」

「うん、まだ確定じゃないみたいだけど、今年もあーちゃんの学校と練習試合するみたいよ」

「知らなかった……」

「試験明けに言うじゃないかな?」


 なんで顧問の先生は俺達に言わずにマネージャーに先に言うのかなと愚痴のひとつでも言いたい気分だったが、美影の隣にいる絢は嬉しそうな顔している。

 俺は昨年のことを思い出した。俺が絢の学校の校内を探したり、志保が大変なことになったりいろんなことがあった。絢らしき人影は見えたがハッキリとは分からないままだった。


「今だから聞くけど、絢は昨年の練習試合、観に来てたの?」


 もう一年前の話だけどきになったので聞いてみると、絢は美影の顔を窺って答えてくれた。


「うん……観てたよ」

「やっぱり、そうだったんだ……」


 俺よりも先に美影が驚いた表情で答える。


「みーちゃん、気が付いていたの?」

「うん、でもなんとなくだったから声をかけられなかったの、だってあーちゃんを見たのも中学の初めの頃以来だったから」

「そうだね、でもよく分かったね。あの時は隠れるようにして観てたから……」


 絢がそう言うと俺の顔をジッと見て微妙な顔をする。


(もしかして白川から聞いていたのか、俺が探していた事を……)


 でもあれからもうすぐ一年になるけど、まさかこんな状況になるとは想像していなかった。それを考えると怒涛の一年だった。


「でも私は観るだけだから、みーちゃんは大変でしょう。マネージャーの仕事は?」

「うん、大変は大変だけど……間近で見ることが出来るし、普段の練習も見ることが出来るからマネージャーやって良かったよ」

「そうなんだ、いいな……」


 美影の返事に絢が羨ましそうに呟いている。


「今度の練習試合は私達のベンチ側で見る? 私のジャージを貸してあげるよ」

「えっ、さすがにそれは出来ないよ、顔バレしちゃうよ」


 美影が冗談混じりに言っていたが、今回の学祭の件があったからあまり冗談には聞こえなかった。絢も学祭のことは懲りたみたいで笑って断っていた。


「おっ、何か楽しそうだな。ちょうどクリスマス用に試作品を作っていたんだ、食べてみてくれよ」


 マスターが試作品と言ってデコレーションした可愛らしいケーキを三種持って来てくれた。


「わぁ〜かわいい〜」


 美影と絢が二人揃って感嘆の声を上げる。


「顔に似合わず、さすがだね、マスター!」


 こう見えてもこういった技術は凄いと俺も声を上げるが、マスターは「ひとこと多い」とぼやいていた。


「ありがとうございます!」


 笑顔で二人が声を揃えてお礼を言うとマスターは嬉しそうな顔をする。


「それだけ喜んでくれたら、これでいこうかなクリスマス、うんそうしよう」


 そう言うとマスターは満足した表情で戻っていった。さっそく試作品を食べるが、試作品といったレベルではなく完成度の高いものだった。


(さっきはちょっと失礼だったかな、顔は関係なしにめちゃくちゃ美味しい……これだけの腕があればもっと都会でも活躍出来そうなのに……)


 それだけ美味しくて、美影も絢も「美味しい」しか言ってないが、それ以上に言葉が出ないのかもしれない表情をみれば一目瞭然だった。


「こんなに美味しいケーキが食べられるなんて思ってなかったよ。ねぇ、あーちゃん」

「うん、本当ね」


 美影と絢は嬉しそうに笑っていたが、俺は不意にもうすぐクリスマスなんだと考えていた。


(昨年とは状況が違うからな……今は美影の彼氏だし、やっぱり美影とデートを計画しないといけないよな……)


 そんなことを考えていると、美影も同じようなことを考えていたみたいだった。


「もうすぐクリスマスだよね。試験が終わったら三人でイルミネーションを見に行こうよ」

「え、えっ……」


 美影の言葉に俺と絢は驚いてお互いに顔を見た。美影は平然として「なんで?」という顔で俺と絢を見ているので、俺がもう一度聞き返す。


「三人で?」

「うん、そうよ」


 美影は何も疑うことのない顔で答える。俺は美影の表情を見て何も言えずに黙っていると絢が不安そうに口を開いた。


「みーちゃん、クリスマスだよ……」

「うん、分かってるよ。だから三人で行きたいの」


 絢も美影の真っ直ぐな表情にそれ以上何も言えずに最後に小さく頷いた。


「分かったわ、よしくんはいいの?」

「えっ、お、俺は……」


 いきなり絢が俺に話を振ってくるので返事に困り焦ってしまう。でも心の底で美影と二人だけで行くのはなんとなく迷いがあったので内心はホッとしていた。


(絢の気持ちもあるからな……下手な返事をしてこのバランスを崩すのは避けないといけいない)


 答えが纏まらずの沈黙が続きそうな気配があったが美影のひとことで思わず苦笑いをしてしまった。


「あーちゃんが心配しなくても、よしくんはヘタレだから大丈夫だよ」


 絢は美影の言葉に何かを察したみたいで不安そうな顔から笑顔になって肩のチカラが抜けたように返事をする。


「そうね、昔からあまり進歩してないみたいね、ふふふ」


 俺は絢の言葉を聞いて美影と絢の顔を交互に見るが、二人とも微笑んでいるだけでそれ以上何も言わなかった。


「そんなよしくんのことを私もあーちゃんも好きなのよね」


 美影が呟いた。


「えっ……」

「さぁ、勉強の続きをしよう!」


 美影は俺から聞かれないように勉強の続きを始めようとする。絢も美影の声が聞こえたのか一瞬、びっくりした表情をしたがそれ以上何も言わずに美影と同じように勉強を再開しようとしていた。俺は気になって仕方なかったが、聞き返す雰囲気ではなかった。そのまま諦めて俺も勉強を再開した。

 結局、最後までそのことを聞くことが出来ずに勉強会は終了した。

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ヘタレ野郎とバスケットボール 高校編 第二部 束子みのり @yoppy0904

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