期末試験と勉強会 ②

 美影と絢が来る前に、俺は早めにお店に来ていた。事前に連絡していたので、マスターが気を遣ってくれて長居しやすい場所を取ってくれていた。


「あの場所でいいか?」

「はい、いいですよ。ありがとうございます」

「でもお前が女の子と一緒に勉強するとはね〜」

「なんですか、意味ありげな言い方は……」


 マスターはニヤリと笑いながら俺を見ているので、なんとなく嫌な気がする。


「だって、今カノと元カノだろう一緒に勉強するのは?」

「なんなんですか、その言い方は、もう勘弁してくださいよ」


 予想が当たり、俺が呆れたような口調で言うと、マスターは真面目な顔をして問いかけてきた。


「でもなんでそうなったんだ?」

「よく分からないですよ、俺も。いきなり決められていましたから」


 当たり前だが、返事を聞いてもマスターは理解出来ていないような表情をしている。この状況を第三者に説明することは困難なような気がする。第一に俺自身も美影の考えがよく分からないところがある。今日は、確かめるチャンスではあるが……出来るだろうか。

 とりあえずマスターには、余計なことを言わないでと釘をさしたが、不安が残る。約束の時間の少し前に美影と絢が一緒に到着した。途中で一緒になったみたいだ。


「こっちだよ」


 俺が二人を案内する。美影と絢が笑顔で頷き、嬉しそうについて来た。美影は落ち着いた感じのパンツスタイルですらっとした雰囲気で身長があるので余計に似合っている。絢はふわっとした雰囲気でロングのスカートで美影と違い背がそんなに高くないので可愛らしい感じだ。そんな二人の中で俺は肩身が狭い。


(もう少しちゃんとした格好すれば良かったかな……でも今日はここで勉強するだけだからいいか……)


 席に着くとお互いノートや問題集など出し始める。学校は違うが同じ普通科なので勉強内容は似たような感じらしい。だから一緒に勉強しても大丈夫だということらしい……


「おっ、もう勉強始めるの?」


 マスターが人数分のコーヒーと焼菓子を持って来てくれた。あれだけ言ったのにさっそくやって来た。すぐに美影は何かに気が付いたようだ。


「あれ⁉︎ まだ注文してないですよ」

「いいんだよ。コイツのバイト代から引いておくから、遠慮しないで食べてちょうだい」


 マスターの返事を聞いた俺は、ジッとマスターの顔を睨んでみたが全く効果なく機嫌良さそうに笑っていた。


「いいの?」


 美影が心配そうな顔で窺っている。俺は諦めた顔をして答えた。


「もういいよ……心配しないで大丈夫だよ」

「そう、よかった」


 美影と絢は顔を見合わせて胸を撫でおろす。二人の表情を見て俺はほっと安心していた。


(でも今日はお互いに距離が近いよな、どんな反応したらいいのか)


 この前の学祭はなんとなく勢いで一緒に行動できたが、今日は静かな空間で美影と絢の前でどんな顔をして過ごしたらいいのか悩んでいた。

 俺の心配をよそに美影と絢は勉強を始めようとしていた。


「あーちゃんの学校はここまで進んでる?」

「うん、ここは試験範囲だよ」

「この問題を教えて」

「ええっと、あ、うん」


 こんな感じでお互いに教えあったり、黙々と問題を解いたりして時間が過ぎていった。美影の成績がいいのは知っているがこれまでの様子からすると絢もやはり成績がいいようだ。


(う〜ん、これならここで勉強しなくてもいいんじゃないかな……)


 そんなことを考えていると、絢が気がかりな顔で俺を見ていた。


「もしかして、お邪魔だったかな?」

「えっ、そんな顔してた⁉︎」

「いや、そういうわけじゃないけど……」


 絢は遠慮がちに答える。俺と絢の会話を聞いていた美影が手を止めた。


「あーちゃんは心配し過ぎだよ。もうこの前も言ったでしょう」

「そうだけど、やっぱりね……」


 問題ないと言い切る美影を絢が俺の顔を見て首を傾げている。俺は空気を変えようと考えた。


「ちょっとひと息いれようか?」

「うん、そうしようか」


 美影が答えると同時に俺は立ち上がり飲み物でも持ってこようとカウンターに向かった。

 俺がカウンターの奥で紅茶の準備をしていると、美影と絢が楽しそうに会話をしている姿が見えるた。暫くして俺は、紅茶の入ったポットとティーカップを持って席に戻ると美影と絢が待ちかねた表情をしている。


「お待たせしました」


 そう言って俺はティーカップを並べて注いでいくといい香りがする。美影がジッと俺の動作を見ている。


「すごいね! まるでお店の人みたい」

「いやだって、俺ココでバイトしてるから……」

「あっ……そうだった……」

 美影が珍しく興奮気味に言うので思わず冷静に答えると、美影は気が付いたみたいで顔を真っ赤にする。俺が普段着だから美影は忘れていたのだろう、絢も隣でクスッと小さく笑っていた。


「ありがとうね……」


 まだ美影が恥ずかしそうに俯いたままで、絢が小さな声で呟いた。美影は顔を上げて俺の顔を見ている。俺もなんのことか理解出来ていない。


「どうしたの?」

「みーちゃんとよしくんのおかげで楽しい時間を過ごせてるから」


 絢が嬉しそうな表情で答えると美影もそれを聞いて嬉しそうな顔をした。


「でもそもそもあーちゃんが言ったのよ」

「えっ、あ、あっ、そうだっけ」

「そうだよ、あーちゃんが毎回よしくんと試験勉強をしてるよって言ったら『いいなぁ』て言ってたからね」


 美影がそう言うと今度は絢が顔を赤くして俯いてしまう。俺は以前怪我をして絢がお見舞いに来た時のことを思い出した。


(そうだ、ここでその話をして絢は同じことを言っていたな……)


 俺は絢の顔を窺っていたら、目が合って多分絢もそのことは覚えていたみたいで、さらに恥ずかしそうにしていた。絢を見ていると何故か中学の時の光景が思い浮かんだ。身近に絢の存在を感じていた頃に戻ったようだった。


「よかったね、あーちゃん。これから、時間さえ合えばいつでもいいよね‼︎」


 美影が楽しそうに俺を見て同意を求めてきた。俺は一瞬、どんな顔で返事をしたらいいのか迷ったが、あまり間を置いてはいけないとすぐに返事をした。


「あぁ、美影がいいならいいぞ」

「ほら、あーちゃんいいって言ってるよ」


 美影にそう言われて絢が顔をゆっくりと上げると小さく頷いて嬉しそうな表情をする。俺は美影の手前あまり顔には出さなかったなかったが、心の中では嬉しかった。


「本当にいいの?」


 絢が顔を赤くしたまま俺に確認をしてきたので、俺は笑顔で頷いた。


「俺が言うのなんだけど、いいじゃないか」

「うん、ありがとう」


 絢の返事を聞いて、俺は美影の表情が気になり目をやると美影も笑みを浮かべて嬉しそうだった。その表情を見て俺は安心した。


(あの顔だと本当に嬉しいに違いない……でも話を振ってきたのは美影だよな……)


 マスターの言葉じゃないけど、俺は美影の現在の彼氏だ。絢とは友達以上の恋人未満な感じだったことは美影は知っているはずだ。付き合う時にも美影から「絢の変わりにはなれないよ」と言われていたからこれでいいのか本当は迷っていた。

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