期末試験と勉強会 ①
新人戦の地区大会予選が始まった。今回はシードの為、二回戦からの登場で難なく勝利を収めることが出来た。いつもどおり絢は試合観戦に来ていた。絢は慣れてきたのか試合の前後に俺や美影に会いに来てくれる。次の三回戦は年明けにあるので年内の公式戦は最後だった。
今度、絢に会うのは年が明けてからになるだろう。来週末からは期末の試験週間になるので部活は休みになる。しばらくのあい間、落ち着いた雰囲気になるだろうと美影からある提案を受けるまでは想像していた。
部活休みになる日の朝、いつものように美影がやって来た。
「おはよ。ねぇ……ひとつ、お願いがあるんだけど、いいかな?」
「あぁ、いいけど、どんなこと?」
朝イチからのお願い事で美影は少し不安があったのか、俺があっさり返事をしたので嬉しそうな顔になる。
「今度の土曜日にあーちゃんと一緒に試験勉強をしようと話をしたの。それで、よしくんがバイトしている喫茶店で出来ないかなってことになって……」
「うん、いいんじゃないないの。お昼過ぎだったらきっと問題ないと思うよ」
「よかった……」
美影は安心した表情になる。
「俺がマスターに席をとってもらえるように頼んでおくよ」
「えっ……」
俺の言葉を聞いて美影は驚いた顔をする。なんで美影がそんな顔をするのか俺は分からずに首を傾げる。
「頼まなくてもいいの?」
「ううん、そうじゃなくて、よしくんも一緒だよ」
「……えっ⁉︎」
美影の返事がすぐに理解出来ずにポカンと口が開いてしまう。美影はムッとして頬を膨らませている。
「もう、よしくんも一緒だよ」
二度同じことを美影が言うとやっと理解出来たが、まだ把握していないことがたくさんある。この後、美影から話の流れを聞いて状況が分かった。要約すれば、絢達の学校もほぼ同じ日程で期末試験があって、昨日の夜の電話で一緒に勉強しようという話になったみたいだ。
「でも俺の都合は関係なかったのか?」
「うん、だって毎回私達と一緒に勉強してきたよね、だから問題ないと思って……」
美影は小さく舌を出して微笑んでいるが、俺から言われるまで考えていなかったようだ。
「……分かったよ、もともと用事もないし、大丈夫だよ。マスターには俺から話していい席を取っておくから」
俺はやれやれといった表情で返事をすると、美影は嬉しそうに大きく頷いた。俺はひとつだけ気になることがあった。
「なぁ、美影。志保はどうするんだ?」
「うん、用事があるみたいで今回はパスするって」
美影は残念そうな顔をして答えたが、多分志保は遠慮したに違いない。昔の志保なら乗り込んできそうだが、近頃の志保はなんとなくおとなしいような気がする。もちろん今日から放課後は、これまで通り図書室で一緒に勉強会をする予定にはなっている。
(確かめる必要はないか……俺が変に気をつかって志保に話すと美影に悪いよな)
あまり余計なことを考えないようにして、放課後の勉強会に参加することにした。
恒例の行事のように放課後、図書室に美影と志保と俺の三人が集合する。
「ごめんね、由規。これだけは私一人で出来る自信がないのよ」
さっそく美影から借りたノートを写している。
「いや、いいんだけど……志保は授業中いつも何をしてるの?」
気にはなっていたが、毎回美影のノートを写したり、間に合わない時はコピーしたりしている。
「う〜ん、なにしてるんだろうね……」
既に志保はノートを必死に写しているので俺の話をちゃんと聞いてはいない。これ以上聞いても仕方ないと俺も問題集を開いた。これまで志保とは比較的に席が離れている場合が多くて授業中に何をしているのかよく分からないが、明らかに寝ているなということは度々目撃していた。普段から夜遅くまで起きている話は聞いたことがある。
「そうそう、美影。今日、この二冊のノートを貸してね。明後日、行けないから帰りにコピーするよ」
「分かったわ」
志保が思い出したように美影に伝えると、美影は問題を解きながら小さく頷いている。
(あっ、絢と勉強をする日のことか)
俺も問題を解きなが何も言わずに聞き流していた。抜かりがないと志保を見ていると俺の視線に気がついたみたいで、志保はプイっとして顔を背けた。
(やっぱり志保は面白くないんだろうな……)
美影と絢の関係は志保からしても分からないことがあるのだろう。もともと志保と絢は中学の時の合宿でもあんまり相性が合っていなかった気がした。
その後は何事もなくお互いに勉強を続けて帰る時間になる。部活の時よりは時間が早いがもう外は暗くなっている。部活の時は、時間が遅いので別々に帰るが、勉強会の後は毎回のように途中まで三人で帰る。俺は自転車を押して、志保と美影が並んで歩いている。
「ねぇ、美影は由規を独り占めしようと思わないの?」
志保が何気に美影に呟いた。俺は驚いて自転車のハンドルを離しそうになる。
「どうしたの、急に?」
美影もさすがに目を丸くしているが、志保はいたって真面目な顔をしている。
「どうなの?」
「えっ……そうね、やっぱり違う女の子と仲良くしているとあまり面白くないわね」
少し恥ずかしそうに美影が答える。
「そうよね!」
志保は納得した表情をして頷いていたが、次の美影の言葉で表情が一変してしまう。
「でも志保とあーちゃんは別だよ」
美影は微笑んで満足そうな表情をしている。
「なんでかな……私はいいとしても」
半ば諦めかけたような顔で志保が呟く。
(なんで美影はここで絢の名前を出すのかな……俺もどんな顔をしていいのか分かんないよ)
俺はなにも言わずに黙って、微妙な笑顔をしていた。志保もこのことに関してはこれ以上深く聞いて追及しなかった。美影は小さく首を傾げて俺と志保を見ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます