学祭の終わりに ③【美影の視点】
【美影の視点】
学祭は無事に終了して、クラスのみんなで打ち上げをやって楽しく終わった。翌日、学校は振替で休みだったけど部活は大会が近いので練習がある。
志保と二人で準備をしてあると少し時間に余裕が出来た。体育館には一年生が数人集まっているだけで、二年生はまだ誰も集まっていない。
「ねぇ、美影」
「どうしたの?」
志保がなにか気になるような顔で話しかけてきた。
「昨日はどうだったの?」
「えっ、昨日?」
「だって笹野さんと由規の三人で回ったんでしょう?」
「うん、三人で回れて楽しかったよ」
志保に昨日のことは詳しく話していない。私が笑顔で答えると志保は何故か納得してないような顔をしている。首を傾げて志保の顔色を窺っていると志保はなにか考えているみたいで頭を抱える。
「楽しかった? 笹野さんも一緒だったのよね。彼女って……」
「知ってるよ」
私の返事に志保は驚いた顔をしている。予想外の答えだったのかもしれない。志保はあーちゃんと中学の時から面識がある。これまでも志保は私があーちゃんを誘うことに怪訝な顔をしてきた。
「ならどうして笹野さんを誘うの?」
「うーん、なんでだろうね。でもあーちゃんとよしくんを引き離したらいけないような気がするのよね」
志保はますます混乱したようで頭の上に?マークがいっぱい立っているみたいな顔をする。
「どう言うこと? 美影は由規と付き合っているのよね。彼女と彼氏だよね?」
「うん、そうよ」
「じゃあ、なんで?」
ちょっと強めの口調で志保が聞いてくるので、私は少しだけたじろいでしまう。
「えっと……う〜ん、なんて説明したらいいのかな……難しいよ」
「そ、そんな複雑なの三人の関係は?」
「いいや、そんなことはないよ」
志保が大袈裟な言い方をするので慌てて否定をした。でも志保は疑い深そうな顔をしている。
(さすがにここでは話したくないな……)
私が悩んでいる顔をしていると志保は小さなため息を吐いてあきらめた表情をした。
「私が悪かったわ。いきなり質問攻めをして……でも美影はそれでいいの?」
「ごめんね。いずれちゃんと説明するよ。でも今はこのままでいいから……」
「本当に大丈夫なの?」
「……うん」
志保は心配そうな顔をしていたが、私が最後に小さく頷くとやっと志保も微笑んで納得してくれたみたいで、それ以上聞いてはこなかった。
やはり志保から見ても少しおかしな関係なのかもしれない。でも今はここの関係を続けていくのが一番いいはず……もちろんいずれはきちんとよしくんとあーちゃんに話さないといけない。
(私ってずるい女かな? でも私が選んだのだからいいの)
そう自分に言い聞かせていた。暫くして志保が考えごとをしていた私に声をかけてくれた。
「あっ、やっと由規達が来たみたいよ」
志保がやれやれといった感じで二年生が体育館に入ってきたことを教えてくれて、準備を再開しようとしていた。私も同じように始めようとした時によしくんと目が合った。ついさっきまで考えていたので恥ずかしくなって思わず視線を逸らしてしまった。
(さすがに恥ずかしくて目を合わせられないよ……)
視線を戻すとよしくんはみんなの輪に入って会話をしていたので様子が分からなかった。
間もなくして練習が始まり、話す機会がなくなってしまった。でも練習が始まってからいつもと違って何度かよしくんが私を見ては不安そうな顔をしていた。私は微笑み頷いて相槌をしていたがあまり効果がなかった。
(悪いことしたな……すごく気にしているよ)
練習中に志保からも「なにかあったの?」と聞かれてしまった。それだけよしくんの様子がおかしかったみたいだった。さすがに心の中で反省していたけど、あのタイミングで目が合って恥ずかしいかったと言い訳をしていた。
部活が終わり帰る時に、よしくんに一緒に帰ろうと声をかけた。最近は学祭の準備があったのでほとんど一緒に帰ってなかった。一緒に帰るといっても私が徒歩でよしくんは自転車通学なのでほんの短い時間しかない。
最初に事情を説明すると、よしくんは笑って安心した顔をしていた。でもちょっとだけ怒っていた。
「でも俺が悪いことしたかなって考えていたんだよ」
「本当ににごめんね。だけどそんなに不安になるってことは何か心当たりがあるのかな?」
私が意地悪な質問をすると、よしくんは必死に首を左右に振っていた。
「あるわけないだろう、もう……」
「ふふふ、よかった」
少し困った顔をしているよしくんを見て笑顔で返事をした。練習で疲れているのに自転車を押しながら私の歩くペースに合わせてくれている。一緒に歩いて帰れるこの時間が私は嬉しかった。でもあっという間に終わってしまう。これ以上一緒に歩いて帰るとよしくんはかなり遠回りになってしまう。
「じゃあね、よしくん」
「あっ、そ、そうだな……」
「どうしたの?」
何故かよしくんはなにか悩んでいるような表情をしている。もしかしていじめ過ぎたのかと冗談で考えていたが、そうでもなさそうな雰囲気だった。
「なあ美影、なんで絢に……」
私が質問を聞いた瞬間に言いたいことが頭に浮かんでいた。でも私の表情の変化をよしくんは気がついたみたいで途中でやめてしまった。
「いや、いい、なんでもない。じゃあ、またな」
慌てたようによしくんは素早く自転車に跨り坂道を下っていった。私もその場に立ち竦んで後ろ姿を見送っていた。
ひとつ大きく息を吐いて、前を向いて歩き始めた。いずれはよしくんにも話さないといけない。
(よしくんもあーちゃんも大切な人だから……やっとみんな揃うことが出来たんだから……今は私が付き合っているけど、いずれはあーちゃんに……それが……決めたことだから……)
明日も練習があるけど、どんな顔をして会えばいいのか悩んでいた。
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