学祭の終わりに ②【絢の視点】
【絢の視点】
学祭の帰り道、見るからに由佳ちゃんの機嫌が悪そうだったが、原因は分かってる。なんとなく気まずい空気の中、無言のままで歩いていたけど耐えられずに話しかけた。
「……ねぇ、大仏さんとどこか回ったの?」
「そうね、絢がなかなか戻って来なかったからゆっくりと回れたわよ」
意外と普通に返事を由佳ちゃんがしてくれたので少し予想外だった。
「そうね、あと未夢にも会ったわよ」
「……えっ⁉︎」
「そんなに驚くところ? 未夢もこの学校だったじゃないの……」
私の反応に由佳ちゃんが驚いているが、まさかあの制服を着ていたことがバレたのかと焦ってしまった。
「そ、そうだったね……」
「あれ? 絢は会わなかったの」
由佳ちゃんは少し残念そうな顔をしている。由佳ちゃんの表情を見て私は安心する。
(よかった……未夢ちゃん黙っててくれたんだ……後でお礼をメールしよう)
私の顔を見て由佳ちゃんは不思議そうにしている。
「うん、そうね。見かけなかったけど、他に何人か見かけたかな……」
「ふ〜ん、そうなの……」
由佳ちゃんの返事が私の言葉を疑っているような気がした。私は焦ってしまい、言わなくてもよかったことを言ってしまう。
「あっ、あの後輩の子に会ったわよ」
「えっ、もしかしてあの宮瀬くんに迫っていたあのキレイな後輩の子?」
「う、うん……」
由佳ちゃんが難しい表情をして私を見ている。
(あぁ、また失敗しちゃった……)
顔に出さないようにしたけど話が思わぬ方向に向かってしまう。
「なにか話したのあの後輩の子と?」
「ううん、話してないわ。みーちゃんが助けてくれたから……」
「そう、山内さんがね……」
由佳ちゃんは意味深な返事をするので、少し嫌な予感がした。無言の圧力の後に由佳ちゃんが険しい目つきで問いただしてきた。
「ねぇ、今のままの関係で宮瀬くんのことはあきらめるの?」
「……う、うん……」
私は俯き気味に小さく返事をしたけど由佳ちゃんは納得した顔をしていない。
「そんなことはないでしょう……だったら今日だって行かないんじゃないの?」
「……」
「山内さんに誘われた、からだけじゃくて、宮瀬くんに会いたかったからじゃないの?」
「そ、そんなことは……」
否定しようと私がすると由佳ちゃんが大きくため息を吐いて呆れた顔をしている。やはり由佳ちゃんには隠せないのだろうか……私は俯いたまま返事が出来なかった。
「まだ好きなんでしょう。宮瀬くんのこと」
「……みーちゃんと付き合っているから……」
真剣な目で由佳ちゃんが私を見つめている。言い訳のような言い方をした私は俯いたままで続きの言葉が出てこない。
「でも山内さんは絢のことをすごく気をつかってくれているよね」
「うん……」
「ねぇ、過去に絢と山内さんの間でなにかあったの?」
「ううん……」
私は首を左右に振り、考えてみたがやはり思いつかない。
「そう、あんなに気をつかうのは普通じゃないよ。絢のことが大切だからかな……」
難しい表情で由佳ちゃんが考え込んでいる。私はもう一度過去のことを思いだそうとしたがそう簡単には思い出せない。
(写真とか見ればなにか思い出せるかも……さっきもみーちゃんは言っていたよね、私のこと大事な人だって……)
二人ともそのまま考え込み暫く沈黙が続いた。私は由佳ちゃんが言った「まだ好きなんでしょう」て言葉が頭に残っていた。意識しないようにしてたけど、今日は本当に危なかった。
(……あんなに間近に、それも普通にいると勘違いをするよ)
さすがに制服姿は恥ずかしかったけど、すごく楽しくて、中学時代の一緒にいた頃を思い出した。何度か手が触れたり、肩が当たったりして同じ学校だったら当たり前なんだろうけど、とても嬉しかった。
(よしくんも何度か驚いた顔してたよね……)
さっきからなんとなく悩んでばかりだったので学祭での出来事を思い出して少しだけ気持ちが和んでいた。
「あれ⁉︎ なんか絢の顔、嬉しそうじゃない?」
「えっ、あっ、そ、そんなことないよ」
すぐさま由佳ちゃんから追及されてしまい顔が熱くなってしまったけど、表情は怒っていないのでほっとした。
「でもここで私があれこれ言ってもね……絢自身がどうなのか大事なのよ。暫くこのままでいいと言うならそうしなさい。だけどいずれは決着をつけないといけないわよ」
「……うん」
「もう中学の時みたいに中途半端は出来ないよ、山内さんの存在があるからね。でも宮瀬くんも煮え切らないからな……ほんと似た者同士だね」
「……」
言われる通りで何も言えない。返事が出来ずに黙っていると半ばあきらめたような表情で由佳ちゃんが私を見ている。
「宮瀬くんは絢が学校で何人かに告白されたりしてるのを知ってるのかな? それを全て断っている絢だけど、もったいないわよね、誰かいい男子はいなかったの?」
からかうように由佳ちゃんが言うので、私ははっきりと否定する。
「いいの、知らなくて……誰が告白して来ても付き合わないわ。よしくん以外は……」
私の言葉を聞いて由佳ちゃんが大きくため息吐き、ジッと私の顔を窺っている。
「ほら、やっぱり好きなんでしょう宮瀬くんのこと」
「……」
由佳ちゃんは『はいはい』と言った感じで呆れて果てている。なにも結論が出る訳もなく悩むだけ無駄だったみたいな雰囲気なってしまった。焦って言い訳しようとしたけど、『絢のことだから……』と言って由佳ちゃんの口元は緩んでいた。
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