最終話 そして2人で1周年を祝う件
「…そっかー。もうあれから1年経つんだねー」
俺の肩に首をコテっと預けた佐藤が、しみじみと言う。
佐藤の部屋。
2人が付き合い始めた花火大会から1周年の日、長岡の花火大会の動画をiPadで2人で見ていた。屋台をイメージして、焼きそばを作って食べながら。1年前を疑似的に再現した形だ。
「今年の安倍川花火大会は、1週間ほど後ろらしいが」
安倍川花火大会でググったら、ホームページにそう書かれていた。
「…見に行きたいけど、むずかしいね。バイトもあるし」
「また天候不順で中止もありそうだしな」
週間天気予報では、来週末の静岡は天気が崩れそうだ。
「でも、わたしたちも付き合って1周年だよー。すごくない?」
佐藤が俺の方を見てにっこり笑う。
……かわいいな。相変わらず。1年前と同じように。
いや、大学生となってナチュラルメイクも上手くなり、色気というか綺麗になってきたと感じる。でも、そういう変化を感じられるくらいは長く付き合ってこれたわけで。
そのまま、佐藤にキスをした。
もう何回したかわからないが、いまだに嬉しい。
キスの味は、定番のソース味だが。
♢♢♢
もう分かるとは思うが、俺は本命の東工大に合格できた。
合格発表の時は、抱き合って喜んだ。佐藤は嬉し涙さえ流してくれた。何度もキスした。
その後は早急に東京での住む場所を決める事になり、できるならすでに住居を決めていた佐藤の近くと思ったが、もともと2人の大学がそれなりに離れていたし、俺の家の経済状態もあって、鉄道で40分ほどの場所となった。
プチ遠距離みたいになったが、もともと高校時代もあまりベタベタしなかったし、週末会うペースでも問題なかった。
なんといってもお互い独り暮らし、時間を自由に使えることは大きく、東京に暮らし始めてから程なくして、その、初体験を済ませた後は、週末はどちらかの家に泊まり込むのが日常化した。
佐藤は大学生活を満喫しているようだ。
福祉学部のためか3/4が女子で、真面目で優しく大人しい子が多く、新入生の中では姉御のようなポジションになっているらしい。まあいつものごとく外弁慶ぶりを発揮しているのは想像がつく。
「東京の大学生っていったら、ほとんどが彼氏彼女持ちかと思ったら、案外少なくて。高校からの彼がいるっていったら、どーしてもって言われちゃってさー」
と、一度佐藤の大学生仲間に紹介されたことがあったが、もう、キャアキャア言われて質問攻めされた。以後は恋愛相談に引っ張りだこらしい。
俺の大学生活も、まあ順調だろう。
工業大学だから男子が圧倒的で、他人には我関せず(つまりは俺のような)のタイプが多くてわずらわしさがない。課題や実習は鬼のようにあるし、バイトもやらないとで時間に余裕はないが、充実はしている。
…こうやって佐藤とも、一緒にいれるし。
♢♢♢
「レナと高橋君は、結局別れちゃったみたい。レナから連絡がきてた」
「そうか…」
卒業式の時にはもうギクシャクしてたからな…。俺には高橋からの連絡はないが、十分あり得る話だ。
「不思議だよね…。あの1年前の花火大会、主目的はあの2人をくっつける事だったのに、その2人は別れて、わたしたちはこうして付き合っていられるんだから」
「結局、相性が合うかどうかなんだろうな」
「相性か…」
そう独り言のようにつぶやいた佐藤は、俺の方を見る。
「ねえ、あらためて訊くけどさ、やっちゃんはなんでわたしを好きになったの?」
「なんでって…」
「わたしの大学仲間に紹介した時は、ハキハキした姿に惚れたって答えてたけど、本音が聞きたい。ねえ、わたしのどこが好き?付き合い続けた理由は何?」
「えーと、まずはかわいいから。次にかわいいし、3にかわいく、4にかわいい…」
…肩パンチ、入りましたー。
「まじめに!」
佐藤の顔が赤い。不思議なもので、いまだに「かわいい」がクリティカルヒットするんだよなぁ。綺麗でも美しいでもなく。
「わかったわかった。まじめに答えるから」
結構強めの肩パンチが来たから、これはあんまりからかわない方が良さそうだ。
「言っとくけど、ハキハキした姿とか、かわいいってのも嘘じゃないからな」
と、断っておいて、うーんと少し考える。
「はっきりと自分の意思を伝えてくれるところは助かったな。俺、あまり空気読むとか他人の思いを察するってのが苦手だからさ。あれは嫌だとかこうして欲しいとか、言葉にしてくれるのが良かった」
「…でも、それってこざかしいとか、言わなくても分かるとか思われたりしない?」
「だから、相性なんだよ。そう思う男もいるだろう。けど、俺にはそれが良かったんだ」
『それ』を強調しながら言う。
「あとは…、いつも好きだと言ってくれてた。ストレートに。あれにはいつもやられていた」
「…わたしは、好き好き言いすぎて、重い女って思われているかもって反省してたんだけど」
「好きでもない奴にいわれたら、そりゃうっとうしいだろうけど。いーさんはそうじゃないから」
「……も〜っ」
軽い肩パンチが2発ほど。照れ隠しのパンチだ。
「そんなこと言うから、こっちも好き好き言いたくなっちゃうんだよっ」
抱きついてきた。そして熱いキス。
「いーさんの理由は?」
キスの後、抱き合いながら訊く俺。
「えっ何が?」
「俺を好きな理由だよ。俺だけ答えるのは不公平だろう」
「やっちゃんのいいとこなんていっぱいあるよー。自立してて、頭良くて。有言実行するし嘘はないし優しいし。ちゃんとわたしのこと考えてくれてるし。あとは…」
「褒めすぎだわっ」
「え〜、まだまだ足りないけど」
「聞いてるこっちが恥ずかしいからっ。そんなに立派じゃないからっ」
ほんと、誉め殺しかよ。
「それくらい好きってことだよ。だから…これからもよろしくお願いします」
ハグを解いて、ペコリと頭を下げる佐藤。
「俺もだよ」
佐藤の頭が上がるのを見計らって、俺も頭を下げる。
「こんな俺を好きになってくれてありがとう。俺もいーさんが好きです。愛、してます」
そう言い切って頭を上げると、赤い顔の佐藤が口を押さえていた。
「…愛してるって言われたの、初めてかもしれない…」
「…俺も、初めて言ったかも…」
正直、ちょっとハズい。
好きっていう感情はわかるが、愛っていうとそれこそ重い感じがしている。
でも、この佐藤を思う気持ちが愛でなければ、何が愛と言えるのだろう。
「あ、でも俺はI love youを意味する言葉を言われたことはあるかなぁ。女の子に」
「えっ!」
最近見たことないくらい、佐藤の目が見開いている。
「だ、誰に⁈いつ⁈子供時代とか、そーゆー話⁈」
「いやあ、ここ1年くらいの話だけど」
「誰よ⁈も、もしかして、わたしの知ってる人⁈」
「あー、うん、いーさんは間違いなく知っている人」
「誰⁈やっちゃん、全然言ってなかったよね⁈」
狼狽する佐藤をにやにやしながら見ている俺。
「いーさんだよ」
は?と間抜けな顔を浮かべる佐藤。
「いーさんが俺に言ったんだよ。覚えてない?」
「えっ?えっ?わたし、I love youなんて、言った??全然記憶が…」
「意味する言葉だよ。ほら、大阪の夜に」
「え〜っ、好きとは言ったけど…」
「いーさんがわからないのは無理ないかな。『月が綺麗だねー』がそうなんだよ」
夏目漱石の超訳の話をする。
「でも…、わたしはそんな意図で言った訳じゃ…」
「同じだよ。一緒に月を見て、そういうことを言うのはもう愛し合っている関係だったんだよ。漱石はそう言いたいんじゃないかなぁ」
「…そっか。でも…」
パシッと肩パンチが入る。結構痛い。
「今の話し方は、絶対わたしをからかってあたふたさせようとしてたよねぇ⁈」
…あ、ヤバい。目がマジだ。
「そんなやっちゃんは…、こうだーっ!」
そう言いながら、ベットになだれ込む2人。
…すいません、プレイの一環です。
了
〜あとがきにかえて〜
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。(ペコリ)
更新のたびに読んでいただける方がいるというのは、とてもよいモチベになりました。
拙い文章にも星やハートがもらえることが、こんなにも嬉しいと実感しました。
謹んで、感謝申し上げます。(最敬礼)
キスから、始まる 墨華智緒 @saku-taro
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