The Real_End.
目を覚ますと、そこは見知らぬ場所だった。
だけど、室内に充満する薬品の匂いが教えてくれた。
ああ、そっか。
どれくらい眠っていたのだろう。身体が動かない。
私が意識を取り戻したことが知れると、なだれ込むようにお母さんが病室へ飛び込んできた。
お母さんはぐしゃぐしゃになるほど、泣いていた。己を、責めていた。後悔を重ねに重ね、朽ちかけの母がそこにいた。そんな母を、初めて見た。
母は、強い女性だと、そう思っていた。
父がいなくなったときも、兄がいなくなったときも、決して泣かなかったから。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
自分の愚かしさを、知った。心が解けるのを、感じた。
もう二度と、この人を泣かせてはならないのだと思った。
それから、幼馴染の彼が来た。
その時にはもう、私の言葉は決まっていた。
「ねえ、あなたに言いたいことがあるんです」
「なんだ?」
ベッドに横たわる私に、優しい彼はそっと耳を寄せる。
私は静かに、深呼吸をする。落ち着け。大丈夫。
語らなければ、始まりもない。
だけど、語らなければ、終わらないんだ。
「……好きです。ずっと、好きでした。愛していました」
「……え?」
「驚き、ましたか……?」
その表情だけで、すべては分かる。
私は込み上げるものを抑え込み、微笑を浮かべた。
「ふふ、ごめんなさい。困りますよね。忘れてください――――」
「――――いや」
「……っ!」
話を打ち切ろうとした私を、彼は遮る。
「忘れられない。忘れられるわけがないよ」
「そう……ですか。それなら……」
なおさら、ごめんなさい。やっぱり、言うべきじゃなかったね。
「ありがとう。その気持ちがすごく嬉しい」
「ぁ……」
ありがとう。感謝の言葉。なぜだか、涙が溢れた。
「でも、ごめん」
「……うん」
「おまえの気持ちには、答えられない」
「……うん、知ってました」
「だから……」
苦渋の表情を浮かべて、己の今までの行動を悔いるように、彼は震える声で告げる。
「ありがとう」
「うん」
さようなら。
私の初恋が今、終わった。
「あの」
「なに?」
「もう少しだけ、いいでしょうか」
本当に、あと少しだけだから。
「あと、少しだけ、あなたを好きでいても、いいですか?」
ずっと、夢を見ていた。逃げていた。
でも、それでも、私のこも想いは枯れ果てそうにない。未練がましくも、マグマは燃え続けている。
「俺がその気持ちに答えることは、ないよ」
「はい。それでも、です」
「それなら、俺からこれ以上言えることなんてあるわけがない」
「ありがとう、ございます」
これはきっと、誰もが経験すること。特別などどこにもない。
至ってふつうの、失恋。つまらない物語だった。
ごめんね。ありがとう。
迷って、足掻いて、間違えて、幻想に溺れて。
大切な人を泣かせて、傷つけて。
後悔を引きずりながらも。
私はやっと、やっと――――――――。
「答えを見つけたような気がするよ」
夢はいつか、醒めるもの。
キラキラと煌めく虹色の蝶たちは、青空の彼方へ儚く消えた。
『幼馴染』-物語の終わりにて永遠を誓う- ゆきゆめ @mochizuki_3314
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