エピローグ お説教タイム!
イルルゥたちに捕まってしまった魂はひどく落ち込んでいた。
「(はぁ、私はこれからサラマンダーのもとへ連れていかれるのか…。そして私もサラマンダーの眷属に…。はぁ…。)」
「ちょっとー、落ち込みすぎだよ魂くん。君、サラマンダーにずいぶん怯えてるみたいだけど…会ったことあるの?」
イルルゥは魂があまりにも落ち込んでいたので少し励ますために雑談を始めた。正直なところイルルゥは魂に対してそこまで説教する気はなかった。なぜなら、メリナが与えた斬撃は魂の本体そのものを傷つけており、彼女はそれが十分な罰に値すると考えていたからである。
先ほどは冗談のつもりでサラマンダーの眷属に~などと言ったが実際はどうなるかイルルゥ自身もわかってはいない。煉獄の鎌使いは別に誰に仕えているわけでもないため、サラマンダーが魂に対してどういった処分を下すかなんてわからないのである。
そして魂はイルルゥの質問に答えた。
「あ、あるわけないだろ!でも私はもともとラトル出身だ。サラマンダーの恐ろしさは子供のころから教えられてきている!きっと私は彼のもとで奴隷のように一生こき使われるに違いない!」
魂はそんなあることないことを想像しては嘆いていた。
ちなみに、イルルゥがなぜ魂をサラマンダーのもとに連れていこうとしているかというと、単なるチクリである。ナダラ火山で悪いことしてましたよーと報告に行くだけである。しかし、イルルゥが想像以上に脅かしたせいで魂はビビりあがってしまった。
そしてそうこうしている間にサラマンダーのもとにたどり着いた。
「サラマンダー様。既にご存じでしょうが、一応私のほうから事情を説明させていただきます。実は――」
―――――――――――――――――
「うむ。事情は分かった。して、そこの魂よ。何か弁明はあるか?」
真のサラマンダーの姿を見た魂はビビってしまい、すぐに答えることができなかった。それを見たサラマンダーは、
「うむ。弁明がないなら致し方なし。こやつは私の――」
「お、お、お、お待ち下さいサラマンダー様!この度はわたくしの不遜な行動があなた様の聖地を荒らしてしまい誠に申し訳ございませんでした!!! どんな罰でもお受けいたします!! ですのでどうか、どうか奴隷だけはご勘弁くださいいいいい!!!」
魂はまくしたてる様に答えた。そして、地面に体をこすりつけて許しを請う魂のその姿は実体がない火の玉状態であるにも関わらず、それはそれは見事な土下座姿が見えたと、のちにイルルゥは語った。そしてこの姿を見たサラマンダーは…
「…くっくく! はーーはっはっはっは!!」
なぜか大爆笑であった。イルルゥはそれを見てぽかんとしていた。
―――――――――――――――――――
「いやぁ、実に笑わせてもらった。こんなに笑ったのは何千年ぶりだ。」
魂はサラマンダーの反応があまりにも予想外であったため、燃え尽きて真っ白になってしまっていた。そこでイルルゥが代わりに質問する。
「あのー、サラマンダー様? 何がそんなに面白かったのですか?」
「ふむ、いやはやどうやらこの男はとんでもない勘違いをしているようだ。奴隷?いったい何のことだ? 私はこの男に罰を与えるつもりなど元からなかったわ。こやつは魂の実体化という人理を超えた快挙を成し遂げた。そしてこれを機に煉獄界中にいる猛者たちがこぞってこやつを狙いに来るだろう。だから私はそうなる前に保護してやろうと思ったのだが…。よもや魂の姿のままあんなにも見事な土下座を見せるとは恐れ入ったわ!! はーーはっはっは!!」
これを聞いたイルルゥはなるほどと感心した。確かに今考えれば魂の実体化とはとんでもない技術である。魂が実体を手に入れればそれは生き返ったこととほぼ同じことになってしまう。
そして幸いなことに今回このことを知っているのはサラマンダーとその眷属たちだけである。なぜならナダラ火山から現世を見ることができるのは彼らだけだからである。
だがイルルゥには一つ疑問があった。
「サラマンダー様。確かにサラマンダー様の言う通り、この男は快挙を成し遂げました。ですがこの男は文字通りあなたの聖地であるナダラ火山を荒らしたのは事実ですよ? 許してあげちゃうんですか?」
「うむ。それに関してはソナタと同じ考えである。かのものは既に深い傷を受けた。魂本体に与えられる傷は癒えるのに時間を要するだろう。罰はそれで十分だ。」
イルルゥはサラマンダーのその寛大さにとても驚いた。彼女の中で四大精霊はこの大地の支配者であったため、もっと傲慢で無常な大王だと思っていた。しかし実際は事情をしっかりと把握し先手を打てる賢王であった。そして彼女は理解した。彼らだからこそ中央大陸の頂点に立ちこの地を支配できたのだということを。
魂もすでに意識を取り戻し、サラマンダーの話を聞いて驚愕していた。そして、
「サラマンダー様。先ほどはお見苦しい姿をお見せして申し訳ございませんでした。サラマンダー様の思慮深さにわたくしは感動しました! つきましては、どうかわたしをサラマンダー様の眷属にしてください!」
魂はサラマンダーの人格を勘違いしていたことを謝罪し、その庇護下に入ることを決意した。
「うむ。そなたのその言葉を待っていたぞ。先ほど申した通り、貴様が発見したその技術はここでは過ぎた力となる。よって貴様を我が眷属として庇護下に置くことを約束しよう!!」
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
こうして魂は無事サラマンダーの眷属となり煉獄界で主に尽くし続けたという。
”神童”チルリルなのだわ! kinoko @shoyo0813
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