最終話 メリナ”なのだわ”

再びラトルへと戻ってきたアルドたち。チルリルに会うために来たのだが、


「チルリルはいったいどこにいるんだ?」


「まだお仕事が終わってないのかなぁ。」


アルドとイルルゥとメリナはチルリルを探すがなかなか見つからない。


「ちなみに何の仕事だったんだ?」


アルドがメリナに尋ねた。


「それは――」


――――――――――――――――――――

「「えっ!?」」


二人はその仕事内容を聞いて驚いた。


「多いな」

「多いね」


二人とも同じ感想だった。やはりメリナの仕事量は傍から見るととても多いのである。


「いつもこんなに多いのか?」


「いいえ。今日はいつもより少し多い日だったわ。だからチルリルにはあとで謝らないと…。」


メリナはたくさんの仕事を全てチルリルに引き受けさせてしまったことを申し訳なく感じていた。すると後ろから特徴的な語尾の声がした。


「その必要はないのだわ!」


仕事を終えたチルリルも無事ラトルに戻ってきたのである。


「あの程度の仕事量、剣持つ救世主であるチルリルなら楽勝で片づけてやったのだわ! そんなことより!」


チルリルはずずいっと顔をメリナに近づけて言った。


「入れ替わりの元凶は捕まえたのだわ?」


「え、ええ。この通り。」


メリナは捕まえた魂をチルリルに見せた。チルリルはそれを見て安心した様子で言った。


「良かったのだわーー。これで元に戻れるのだわ。」


チルリルもなんだかんだ言って元に戻れるか不安だったのである。


「さぁ、そこの火の玉みたいなやつ! 早くチルリルたちを元に戻すのだわ!」


チルリルはそう言うと魂が入っている網を強くゆすった。


「イテッ!? イテテテテ! お、おい!わかったから網をゆするんじゃねぇ!」


魂がそう言うと辺りは光に包まれた。そして今度こそ…。


「戻ったのだわーーーーーーー!!」

「はぁ、長かった。」


メリナとチルリルは元の体に戻ることができた。チルリルはそのことにはしゃいでいる一方、メリナはやっと解放されたかのように安堵した。


「それじゃあ私はこの魂くんを煉獄界に連れていくねー。」


イルルゥは魂の入った網をゆすってそう言った。中からは相変わらずうめき声が聞こえてくる。しかし、アルドはそこで一つイルルゥに質問した。


「なぁ、その魂は結構特殊みたいだけど、どうなっちゃうんだ? そのままにしたらまた実体化して逃げ出しちゃうんじゃ…。」


アルドはそれが心配だった。入れ替わり事件などこれっきりで勘弁してほしいのである。


「えーとね、それに関しては大丈夫だと思うよ。 この子はすでにサラマンダーの魂の欠片をたくさん取り込んじゃったから、煉獄界に行ったらサラマンダーの眷属にされちゃうと思うよー。」


なるほど、それなら安心だなとアルドは思った。なにせサラマンダーの管轄下におかれるのだ。相当のことがなければ脱走なんて不可能だろう。するとそれを聞いていた魂が騒ぎ始めた。


「お、おい!そんなの聞いてないぞ!サラマンダーの眷属になんて私はなりたくない!」


「自業自得だよー。帰ったらサラマンダーと私でお説教だからね! それじゃあ、私はそろそろ煉獄界に帰るね! アルくんにチルリルちゃんとメリナちゃん、それにノアちゃんとモケちゃんもバイバーイ!」


そう言うとイルルゥは斧寺さんのもとへ行ってしまった。おそらくそこから煉獄界へ帰るのだろう。


「あーーー!そういえば! チルリルはメリナに一つ文句があるのだわ!」


「な、なにかしら?」


メリナは今回に関しては心当たりがありすぎて何とも言えなかった。そしてアルドもなんとなくその内容は察していた。


「メリナは働きすぎなのだわ!! チルリルは余裕だったけどメリナは少し頑張りすぎなのだわ! だから今回は特別に…。」


しかしチルリルは決して怒っているわけでもなく、また文句を言いたかったわけでもなかった。ただ単純に…。


「本っ当に特別の特別にチルリルがいいこいいこしてあげるのだわー!」


彼女はただ単純にメリナが心配だっただけなのである。”神童””翼持つ子” どちらも素敵でかっこよくてうらやましい言葉である。だがチルリルはその言葉の重みも知っている。だってそれがチルリルが”剣持つ救世主”であるための信念でもあるのだから。


チルリルはまたずずいっとメリナに近づくと、その頭をわしゃわしゃとなで始めた。


「ちょ、ちょっとチルリル!?」

「えらい、えらい。メリナはとってもえらいのだわーー!」


メリナはとても恥ずかしそうにしていた。そしてアルドはそれをほほえましそうに見ていた。


そして一通りなで終わり、やっとチルリルがメリナから離れた。そして、


「チルリルもメリナに負けてられないのだわ! 頑張るのだわーーー!!」


そう叫ぶとどこかへ走り去ってしまった。きっとメリナに対抗して仕事を探しに行ったのだろう。メリナはチルリルのそんな素直で真っすぐなところが少しうらやましく感じた。


「良かったな、メリナ。」


「べ、別になんてことないのだわ。」


そう言うメリナの顔はいつもより少し嬉しそうだった。迷惑をかけてしまった、きっと文句を言われるだろう、そう思っていた相手が自分の苦労をわかってくれ励ましてくれたのである。うれしくないはずがない。


「それにしても、今日は本当に疲れたのだわ」


「(…………ん?)」


アルドはメリナのそのセリフに少し違和感を覚えた。何かいつもと違うような…。


「早く帰って休みたいのだわ」


…………あ。アルドは今のメリナの言葉で完全に気づいてしまった。


「……なぁメリナ。」


「どうしたのだわ?」


アルドは言おうか少し迷った。だがこのままにするわけにもいかないと思い言った。


「口調が、その、なんていうか…チルリルみたいになってないか?」


「何言ってるのアルド。そんなわけないのだ…わ…。」


メリナもこれは完全に無意識で言ってしまっていたため気づくことができなかった。


「「……。」」


「入れ替わっていた反動かな? チルリルのしゃべり方が体に馴染んじゃってたみたいだな。きっとすぐに戻るさ。 ははは…。」


アルドはそう言って乾いた笑みを浮かべた。


「…んっん!! ………わすれなさい///」


メリナはそう言うとうつむいてしまった。だがアルドは気が付いていた。うつむいたメリナの顔が真っ赤になっていることに。


思わぬ形でアルドに弱みを握られてしまったメリナであった。



-Quest Complete-

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