第4話 魂を捕まえろ!

――時はさかのぼりヴァシューヌ山岳の中腹

アルドたち一行は逃走した魂を探していた。そしてついに、


「あーーーーー! 見つけたよアルくん!」


イルルゥが指さしたそれは青白く光る火の玉のようなものだった。それがふわふわと浮遊しているのである。


「あれが逃げ出した魂なのか?」


「うん! 間違いないよ!」


そしてイルルゥが鎌……ではなく虫取り網のようなものを構えた。

アルドは初めて見るそれに少し驚いた。


「な、なぁ、イルルゥ。いつもの鎌じゃないんだな。」


「それはそうだよ! 鎌じゃ魂を傷つけちゃうからね!これはね、魂専用捕獲網だよ!」


そう言って網を構えるイルルゥの姿が何というか、子どもが虫取りをしているような姿だった。そしてイルルゥが魂に向かって網を振った。が、しかし、魂もつかまってたまるかとあっちこっちに逃げる。そして…。


「フヒヒ、そんなのろまな網に捕まるわけないだろ。」


なんとその魂がしゃべり始めたのである。これにはイルルゥも驚いた。


「なっ!!? なんで君しゃべれるのーーー!?」


「魂は本来しゃべれないの?」


メリナがイルルゥにそう尋ねた。


「そうだよ。 本当なら普通の人の目に映る時点でおかしいんだけど…。まさかしゃべれるなんて。」


イルルゥは想定外の事態にとても混乱してしまっていた。


「アルくん、どうしよーー。」


「え、えぇ、俺に言われてもなぁ」


するとここでメリナが、剣を構えた。


「姿が見えて話すこともできるってことは、少なくとも実体があるってことよね? それなら多少痛めつけて弱ったところを捕まえましょう。」


なかなか物騒な案だが理には適っていた。アルドもこれが一番だと思い剣を構える。それを見たイルルゥも網からいつもの鎌に持ち替えた。そして、メリナが攻撃をしようと魔力を展開しようとしたその時、


「なっ!?(魔力がうまくコントロールできない!? そうか、今私の体はチルリルになっているからいつものやり方じゃうまくいかないのね!?)」


メリナも先ほどのチルリルと同じように魔力をうまく使うことができなかった。そのため空中に浮かべていた剣を落としてしまう。


「大丈夫かメリナ!?」

「メリナちゃんどうしたの!?」


メリナの様子に二人が心配して声を掛ける。しかし魂のほうはこれを好機と見た。


「フヒヒ、くらいやがれ!」


辺り一面が光に包まれた。ラトルの時と同じように三人ともあまりの眩しさで動くことができなかった。そして、光が晴れたころには魂はまたどこかに逃走していた。さらに…


「あああああーーーーー!? やられた!? 私アルくんになってるーー!」

「わっ! 俺はイルルゥになってる!」


二人ともまんまと中身を入れ替えられてしまっていた。メリナは無事だったみたいだが、自分の失敗が二人に迷惑をかけてしまったことに責任を感じていた。


「二人ともごめんなさい。私のせいで…。」


しかし二人はメリナのことを責めようとはしなかった。むしろ、


「いや、メリナは悪くないよ。むしろあの作戦のおかげで少しは魂を追い詰めることができたんだ。」

「そーだよメリナちゃん! どーせ捕まえたらみんな元に戻させるんだから気にしなくていいよ!」


二人は作戦を立ててくれたメリナに感謝した。メリナはそんな二人に少し驚いた様子だったが、すぐにありがとうと返してくれた。


「それにしても、魂見失っちゃったな。」


アルドは見失った魂がどこに行ったか考えた。考えられるのはナダラ火山だが、反対方向に逃げた可能性もあるためうかつに動くことができなかった。ここは二手に分かれて行くべきか?など色々考えていたその時


「アルド、ここはノアにまかせてくれないかしら?」


メリナがそう言った。


「いいけど、ノアは魂の居場所がわかるのか?」


「さっきあの魂には実体があるって言ったでしょ。その時あらかじめノアに匂いを覚えてもらっておいたのよ。」


アルドはなるほどと思い、やはりメリナはこういった事態に柔軟だなと改めて感じた。イルルゥも


「すっごーい! ノアちゃんそんなこともできるんだー! てことはモケちゃんも?」


そう言ってイルルゥはモケに視線を向けた。しかしアルドとメリナは知っていた。モケがノアほど優秀ではないということを。


「モケは…うーん。」

「…厳しいんじゃないかしら」


「も゛っっ!!?」


なぜかとんでもないとばっちりを受けてしまったモケは声にならない声をだした。


「それで、魂はどっちに行ったんだ?」


アルドがそう言うとノアはナダラ火山の方向へと歩き出した。


「それじゃあ行きましょうか。」


メリナはそう言って歩き始めた。それにアルドとイルルゥの二人もついていく。












「……アルくん私の体にエッチなことしないでね?」

「す、するわけないだろ!? 早く追いかけよう!」


イルルゥはたじたじになったアルドを見てニヤニヤしていた。


―――――――――――――――――

――ナダラ火山 中腹

三人は再び魂を探していた。そして今度はメリナが


「! 見つけたわ!」


「ッ! やっべ。もう追いついてきやがったか。」


魂はそう言うと、すごいスピードでナダラ火山の頂上に向けて飛び始めた。さすがにこれはメリナでも追いつくことができなかった。だがしかし、魂の目的地は把握することができた。


「メリナ! 見つけたのか?」

「どこどこー?」


メリナの声を聞いて二人も合流したが既に魂はいなくなっていた。


「ごめんなさい。逃がしてしまったわ。でもあいつの目的地が頂上だってことはわかったわ。とても急いでる様子だったから何か企んでいるのかもしれない。」


メリナが冷静に情報を分析してくれたおかげで予想以上の情報が手に入った。なにを企んでいるかはわからないが何かろくでもないことな気がする、とアルドはメリナの説明を聞いて感じた。


「よし! それなら頂上に急ごう!」


「ええ!」

「うん!」


三人と二匹は頂上へと駆けて行った。


――――――――――――――――――

――ナダラ火山 頂上

そこには案の定あの魂がいた。


「やっと追い詰めたぞ! 観念して捕まれ!」


「フヒヒ、もう遅い!」


そう言う魂の周りに精霊の力が集まっていることにイルルゥは気が付いた。


「何を企んでるの魂くん! いたずらはだめだよ!」


イルルゥが魂に対してそう言うと魂は激高した


「これはいたずらなんかではないわ!!! いたずらなんかするためにわざわざ煉獄界を脱走するわけないだろう!!」


魂はひとしきり叫んだあとぽつりぽつりと語り始めた。


「私は生前、星の塔で魂の研究をしていた。そして長い年月をかけて私はついに魂を実体化する方法を発見した! それは精霊の魂の欠片と人間の魂を融合することだ! これによって魂は幽体から実体へと変化することができる。そして寿命を迎え魂となった私ははコリンダの原にいた精霊を捕まえて手に入れておいた魂の欠片と融合し実体を得ることに成功した。残念だがそこで私は煉獄の鎌使いである貴様に捕まってしまったが、何とか逃げ出すことに成功した。そして今! 私はこのナダラ火山の頂上で新たな実体を得る! それは何かわかるかな諸君?」


魂はむかつく声色で三人に質問してきた。そしてアルドは気が付いた。ここはかつてサラマンダーがいた地であるということを。


「お前まさか、サラマンダーの魂の欠片と融合する気か!?」


「ご名答だ! 私はサラマンダーと融合することで新たな生命体となるのだ! 煉獄界なんぞに行くものか!」


魂はそう言ったとたん火の玉のような形からどんどん巨大化していき、最終的には大きなトカゲのような姿になった。そしてその姿は完全にサラマンダーそのものであった。アルドはその姿を見て剣…ではなく鎌を構えた。


「サラマンダーはこの地を守るために命を落としたんだ! それを冒涜する気か!」


「そんなもの知るか!!」


魂はそんなことお構いなしに攻撃をしてきた。


「くっ!! みんな!」


それを聞いた二人もそれぞれ武器を構える。


「「はあぁぁぁぁっっ!!」」


アルドとイルルゥが攻撃を仕掛け切りかかった。しかし、敵は実体と幽体を自在に操れるため物理攻撃が効かなかった。されに魔力を使おうとするもアルドとイルルゥはまだ入れ替わったばかりだったため、魔力をうまく使うことができなかった。


「くそっ! どうすればいいんだ!」


アルドとイルルゥにはやつを倒すための策がなかった。万事休すかと思われたその時、




「アルド!イルルゥ! しゃがみなさい!!」




そこではメリナが物凄いエネルギーを剣に溜めていた。そしてその暗くも眩しい輝きはまさしくチルリルが使っていた陰属性の魔力そのものであった。


「あなたは今、精霊の魂の欠片を土台にしているわ。それならこちらも精霊の魂の欠片の力を魔力に込めればいい!」


「ばかな!ただの小娘が精霊の魂の欠片を扱えるはずがない!!」


「お忘れかしら? 私の魂はあなたのおかげで既に実体化中よ! つまり私の魂にはすでに精霊の魂の欠片が含まれている!」


「!!?(確かに奴の魂には入れ替えるために使った精霊の魂の欠片が入っている!? だがそれを扱えるかどうかは話が別だ! こいつ一体どんなセンスしてやがる!?)」


「これでもくらいなさい! イクリプスブレイドォォォ!!!」


メリナが放った陰属性と精霊の魂の欠片が融合した魔力による斬撃は奴の魂そのものに大ダメージを与えた。そしてその影響で敵の姿は最初の火の玉に戻っていた。


「えーーいっ!」


そのときイルルゥがすかさずあの魂専用捕獲網を振り下ろした。実は事前にアルドがイルルゥに渡しておいたのである。


「やったー! ついに捕まえたぞー! 観念しろー!」


「っ! くそっ!!……イテテテテテテテ!」


イルルゥは魂を捕まえたことではしゃいでいる。その一方魂はメリナから受けた傷が痛むのかうめき声をあげていた。しかし、アルドにはまだいくつか疑問があった。


「なぁ、なんでわざわざメリナとチルリルの魂を入れ替えたんだ?」


アルドとイルルゥを入れ替えたときは追い詰められていたのでまだわかるが、メリナとチルリルを入れ替えた理由がアルドにはわからなかった。


「はぁ、はぁ、そりゃぁ煉獄界から追手が来るのはわかっていたからな。あらかじめ騒ぎを起こすことで時間稼ぎしたのさ。 まぁ、とんだジョーカーを引いちまったみたいだがな! イテテテテテッ!」


なるほど。この魂、元研究者なだけあって結構頭がいいみたいだ。まぁしかし、この魂の言う通り相手がメリナだったのが運の尽きだったみたいだ、とアルドは思った。


「はいはーい。次は私が質問するね! どうやってあんなにピカピカ光ってたの?」


イルルゥは魂が二人の中身を入れ替える際に発したすごい光の原理が疑問だったらしい。


「私は実体化する際、火の精霊の魂の欠片を取り込んだからな。その力の応用で光を出すことができたわけだ。 イテテテテテテッ! おいお前ら! あまりしゃべらすな、傷が痛むだろ!?」


「じゃあ最後に私から質問。」


メリナが魂のその言葉を無視して質問した。


「入れ替えた魂を元に戻すことはできる?」


「ひっ!! で、できますできます。すぐにやります!」


魂はメリナのあの斬撃がトラウマになったのかとてもおびえた様子で答えた。そして再び辺りが光に包まれると…


「あーー!戻ってる!イルルゥ復活だよーー!」

「あ、俺も元に戻ったみたいだ。」


どうやらアルドとイルルゥの魂は無事元に戻ったらしい。あとはメリナとチルリルの魂なのだが、


「…私戻ってないんだけど。」


「す、すいません! さすがに戻す対象が近くにいないと無理です!」


元に戻ってないメリナが魂に対してすごむように言った。魂はすっかり怯えきってしまっている。だがどうやら、チルリルも近くにいないと戻せないらしい。


「それなら一旦ラトルに戻るか。チルリルの仕事も多分もう終わってるだろうし。」


「ええ、わかったわ。」

「りょーかーい。」


三人はラトルに向かって歩き始めた。こうして魂捕獲作戦は無事成功したのであった。


                      

最終話 メリナ”なのだわ”

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