逆襲のジャア

若生竜夜

逆襲のジャア

 米炊いたんだよ、米。珍しく自炊しようと思って。俺普段家で飯食わねえんだけど、たまには健康に気を使ってみようかと思ってさ。

 それで炊いた米を炊飯ジャアに入れっぱで、うっかり十日ばかり家に帰らなかったんだ。や、だって仕事が立て込んで、社に缶詰めだったんだよ。仕方ないじゃん。そうだよ、社畜寝袋ご体験してたんだよ。

 ようやく帰宅できて思い出した炊飯器の中身は、みごとにカビだらけ。腐ってんの。夏だからもたなかったんだよな。

 すげえぞ。赤だのピンクだの緑だの物凄い色の塊。ところどころデロッとブヨっと茶色いもんが見えるの。見た目も臭いも、オエッて感じ。

 洗やぁ使える? や、無理。気持ち悪過ぎて超無理だから。

 蓋閉めて、テープでぐるぐる巻きにして、指定ゴミ袋に突っ込んで、潔く捨てたよ。

 ……んだけど、朝、出勤しようとドア開けたら、玄関の前にあるんだよ、あれ。

 ああ? あれってあれだよ、ぐるぐる巻きの炊飯ジャア! 決まってんだろ他になにがあるのさ。

 俺が捨てるところ見てた誰かが、うちの前に戻したのかと思ったんだ。悪戯かよクッソ腹立つってさ。

 しょうがねえから、もう一回捨てにいったった。朝っぱらからめんどくせぇ。遠いんだよゴミ捨て場。

 で、次の朝だ。

 また戻って来てんの、玄関の前に。

 おい、って思ったね。ふざけんな、こっちは忙しいんだ。なんの嫌がらせだよ、て。すげえムカついた。

 けどさ、何か変なんだよな。気のせいかそいつ、前よりでかくなってんの。炊飯ジャアがだよ? 三合炊きのが五合炊きくらいに。

 いやいやいやいや、ジョークならもっとマシなの言うって! 笑い事じゃねえから。おい、聞けよこんちくしょう!

 そのモデルにデカイの? ねえよ! 一人暮らし向けのラインだよ! マックスが三合炊きッ!

 なあ、気持ち悪いだろ? 俺マジ気持ち悪いんだけど、なんなんこれなあ?

 や、もちろん捨てたよ、もう一回。置いときたくねえし、やだろ気持ち悪い。

 でもな、それが今朝また……。

 ……っ、なあ、マジこれ笑えないんだけど、どうしたらいい? 捨てたけど! ばっちり捨ててきたんだけど! ひと抱えあるようなヤツ!! 育ってんの! ジャアなのにマジ怖ええよ!!

 今なんかふっと窓から外見たら、玄関の前にデカイ影が見えたんだよ。あれの形してた、あれだよ絶対。

 なんかさっきからガポガポいう音してるんだけど、なにあれ、蓋開け閉めするみたいなさぁ。

 俺、どうしたら……俺、俺……、どうしたら……、や、ちょっ、……マジ?! ……えっ…! えっ…あっ、ッたす……(ブツッ………………お客様の電話は現在電波の……)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

逆襲のジャア 若生竜夜 @kusfune

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ