第3話 ずっとそばに


 ある日の帰り道。わたしがコンビニで買ってきた二つのメロンパン。二人で一つずつ取り出してまずひとくち。そしてまた歩き出す。

わたしたちはメロンパンを食む、食む、食む。そして無言。先に沈黙を破ったのはマコトだった。

「⋯⋯話し、あるんじゃないの? 」

「あ、えっとね。わたし、メロンパンはつぶして食べるの」

「は? 」

「そうすると体積が増えた気がして、得した気分にならない? 」

わたしはなんの話をしてるんだろう? メロンパンどころじゃないのに。

「⋯⋯そんな話なら僕から話す。ユミ、引っ越すんだろ? 」

「えっ⋯⋯ 」

「知らないとでも思った? ちょいちょいうわさになってるよ」

「⋯⋯ごめん、言い出せなくて」

「ほんとだよ、まったく。ユミの口から聞きたかった。それも誰より早く」

「でも、わたし⋯⋯ 誰よりも」

わたしが言いかけた刹那、マコトが足を速めて前に出た。わたしは慌てて追いかける。追いついたところでマコトが切り出した。

「離れるのは仕方ない。でもユミをはなしたくない! あのとき言ったじゃないか、僕がそばにいるって! どんなに遠くても、どんなかたちでも僕はずっとそばにいたい。きみのとなりで笑っていたい。僕はユミのことが好きだから」

言葉が出なかった。いろんな感情が、一度にあふれてきた。だからーー

「ありがとう」

この言葉にすべてをこめた。



 台所から心地よい音が響く。トントントン、トントントン。今日はわたしの代わり

に彼が晩ごはんを作ってくれている。わたしたちはあれから付き合いはじめた。高校時代まで遠距離恋愛だったけれど、卒業後、わたしがこっちに戻ってきて就職した。引っ越してまだ日が浅く、荷解きを後回しにしているものがあると言ったら彼がーーマコトがうちまで来てくれたのだ。優しい。わたしはクリスの入ったダンボール箱を探していた。クリスとは今もずっと一緒だ。

「あった! 」

うれしくて思わず声をあげてしまった。

「どうしたの? 大声出して」

「ああ、ごめん。ぬいぐるみが見つかって。ほら」

テーブルに皿を置くマコトにクリスを見せる。

「それ前に話してた、ずっと大事にしてたっていうぬいぐるみ? 」

「そう。この子ね、ときどきお話してくれるの」

「うそだ~ ぬいぐるみがしゃべるなんて」

「マコトには、純粋な気持ちが足りないみたいね」

わたしはクリスを胸もとに見つめ、心の中で「わたし、やるよ」と呟いた。クリスが「うん」と言った気がした。 

「ねえ、マコト。座って」

「ん? 」

マコトが席に座る。

「なに? 」

わたしはクリスをテーブルの上に座らせた。

「わたしと家族になってください」

「ユミ⋯⋯」

わたしはマコトをみつめた。

「うん、もちろん」

わたしはしずかに涙を流し、呟いた。

「ありがとう」と。

(了)




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きみのとなりで 紙野やま @ka3no

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