第3話 ずっとそばに
一
ある日の帰り道。わたしがコンビニで買ってきた二つのメロンパン。二人で一つずつ取り出してまずひとくち。そしてまた歩き出す。
わたしたちはメロンパンを食む、食む、食む。そして無言。先に沈黙を破ったのはマコトだった。
「⋯⋯話し、あるんじゃないの? 」
「あ、えっとね。わたし、メロンパンはつぶして食べるの」
「は? 」
「そうすると体積が増えた気がして、得した気分にならない? 」
わたしはなんの話をしてるんだろう? メロンパンどころじゃないのに。
「⋯⋯そんな話なら僕から話す。ユミ、引っ越すんだろ? 」
「えっ⋯⋯ 」
「知らないとでも思った? ちょいちょいうわさになってるよ」
「⋯⋯ごめん、言い出せなくて」
「ほんとだよ、まったく。ユミの口から聞きたかった。それも誰より早く」
「でも、わたし⋯⋯ 誰よりも」
わたしが言いかけた刹那、マコトが足を速めて前に出た。わたしは慌てて追いかける。追いついたところでマコトが切り出した。
「離れるのは仕方ない。でもユミをはなしたくない! あのとき言ったじゃないか、僕がそばにいるって! どんなに遠くても、どんなかたちでも僕はずっとそばにいたい。きみのとなりで笑っていたい。僕はユミのことが好きだから」
言葉が出なかった。いろんな感情が、一度にあふれてきた。だからーー
「ありがとう」
この言葉にすべてをこめた。
二
台所から心地よい音が響く。トントントン、トントントン。今日はわたしの代わり
に彼が晩ごはんを作ってくれている。わたしたちはあれから付き合いはじめた。高校時代まで遠距離恋愛だったけれど、卒業後、わたしがこっちに戻ってきて就職した。引っ越してまだ日が浅く、荷解きを後回しにしているものがあると言ったら彼がーーマコトがうちまで来てくれたのだ。優しい。わたしはクリスの入ったダンボール箱を探していた。クリスとは今もずっと一緒だ。
「あった! 」
うれしくて思わず声をあげてしまった。
「どうしたの? 大声出して」
「ああ、ごめん。ぬいぐるみが見つかって。ほら」
テーブルに皿を置くマコトにクリスを見せる。
「それ前に話してた、ずっと大事にしてたっていうぬいぐるみ? 」
「そう。この子ね、ときどきお話してくれるの」
「うそだ~ ぬいぐるみがしゃべるなんて」
「マコトには、純粋な気持ちが足りないみたいね」
わたしはクリスを胸もとに見つめ、心の中で「わたし、やるよ」と呟いた。クリスが「うん」と言った気がした。
「ねえ、マコト。座って」
「ん? 」
マコトが席に座る。
「なに? 」
わたしはクリスをテーブルの上に座らせた。
「わたしと家族になってください」
「ユミ⋯⋯」
わたしはマコトをみつめた。
「うん、もちろん」
わたしはしずかに涙を流し、呟いた。
「ありがとう」と。
(了)
きみのとなりで 紙野やま @ka3no
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