3
彼女が夜に舞う妖艶な蝶ならば、わたしは何だろう。
以前、彼女にそう問うたことがある。ベッドの上で彼女は細長い煙草に火を付け、一口吸い込んでからふっと笑って言った。
「あんたはただの女子高生よ」
「違う」
思っている以上に強い口調だった。彼女に馬鹿にされている気がして、相手にしてもらえていないような気がして、それがすごく嫌だった。
「違わないわ。あんたはガキなの」
「……うるさい」
「あたしに捕まっても、所詮あんたはガキなのよ。あんたは夢を見てるだけ」
目を微かに細めて笑みを浮かべた彼女はそう言って、わたしの手を取り続けた。
夜が明けた。
わたしは雨の中をひとり歩いていた。灰色と薄い緑色をした雨の街は美しかった。絶えず変化し続ける雨の生み出すノイズと匂いが心地いい。傘を差さなかったから雨粒が直接わたしの肌に届く。水分を含んだ髪が肌にへばりついていたけど、もうどうでもよかった。ずぶ濡れのまま、京急線のプラットフォームへと急ぐ。
電車の中で流れていたニュースでは、父親が事故死したことが取り上げられていた。わたしはぱっと電光掲示板を見上げて、すぐに視線を伏せた。こうしてわたしの計画は終わった。
ドアの近くに立って、雨粒が窓に当たっては流れ落ちていくさまを見ていた。
彼女が泣いている。
理由はないけど確信があった。わたしはやはりひどく腹を立てていた。
虎が雨 紫蘭 @tsubakinarugami
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます