第20話 兎への敬い
結末はあっけなかった。
「ごぉぉ……」
突撃。突進。突貫。
私の攻撃はまるで弾丸のように。
妖狐の身体を貫通し突き抜ける。
鮮血が噴き出て、現実を受け止めきれないようなうめき声を出しながら妖狐は死んだ。
私はその光景と結果を見て。
……びっくりした。
確かに、ステータスは読みとれたし不思議と負けない気はした……けども。
まさかこんなに簡単に勝てるとは思わないじゃんか。
「ぶぅ」
なにはともあれ、私の実力はステータス上に現れないとはいえメキメキと上がっていたということだろう。
「ぶぅ」
とりあえず私は妖狐の懐へ潜り込んで皮膚と肉と骨を嚙み砕きながら、魔核を取り除いて首に下げた鞄へと入れる。
上位種の魔獣の魔核なんて食べたことがないから味は興味津々だったし今にでも食べてしまいたかったけど。
今一番に心配なのはミリムなのだから、お食事タイムは後回しだ。
(ミリム大丈夫?)
(ママ―いたいよー)
ミリムは涙声で私にテレパシーを送る。
___解析。
[ミリム]
[種族]:魔天兎(上位種)
[状態]:火傷(小)
[加護]
『――』――解析不可
[
『跳躍』
『魔導之教え』
『氷魔法(上位)』
『火魔法(中位)』
『風魔法(中位)』
『闇魔法(低位)』
ステータスを確認したところ、苦しそうだけどとりあえず命に別状はないみたいだ。
とりあえず安心。
でも、あまり傷ついている姿は見たくないから早くリアの下に連れてって直してもらわないと。
「ひっ」
小さな悲鳴。
あ、忘れてた。
私とミリムの間に二人の冒険者。
確かリアと山川健吾。
『鑑定』を用いてステータスを覗き見る。
ふむふむ。山川健吾が火傷を負っているけど命に別状はなさそう。
リナは……魔素欠乏一歩手前ってところかな。
山川健吾は気を失って、リナは彼を抱きとめながら私を見て震えていた。
さて。
私は考える。
リナに関しては次見つけたら殺すと考えていたけど傍にいるのは山川健吾だ。
彼は転移者ということもあって勝手に仲間意識も芽生えているし……妖狐を押し付けたのも悪いと思っている。
でも、最近どうも冒険者の動きはきな臭い。
ヒマもなんにかの冒険者に会ったって言ってたし、出入りも激しくなっている。
加えて、この子たちのステータスは今まで見てきた冒険者の中じゃ高い部類だ。
特にリナに関しては初めて会った駆け出しの頃から比べると成長も著しい。
山川健吾が『地球神の加護』が微妙にレベルアップしている。
いずれ私たちの脅威になる可能性があるなら。
……ここで始末したほうが楽かな?
「あ、や、ひ……」
リナは私の殺気に気が付いたのか、身体を震わせながら顔を強張らせる。
リナは私の生前とそんなに歳は変わらなそう。
そんな女の子の恐怖に満ちた泣き顔を正面から見てしまうと、多少心は苦しくなるけど。
ごめんね。私達も安寧の為に余計なリスクは捨て去りたいんだ。
私は再び突進して二人を始末しようと後ろ足に力を込めて……。
(ママ―人間さんたちいいものー)
ミリムのテレパシーで込めた力を抜く。
良い人?やっぱりミリムのことを守ってくれたのかな?
でもなんで冒険者が魔獣を?
(魔核くれたー)
餌付けされてる……。
なるほど、兎がこの世界で舐められているのを再確認させられる。
魔核を貰ったくらいでこんなに懐くなんて。
(あとね、痛いの少し直してくれたー)
(む?)
痛いのを治してくれた……?
それは恐らくリナの回復魔法によるものだろう。
しかしなんでミリムに回復魔法を……?
妖狐は恐らくミリムを狩ろうとしていたのだから、この二人は見捨てて逃げても良かっただろうに。
じーっと私はリナを観察する。
怯えているが、昔のような敵意はない。
すると、一瞬びくっと震えたかと思うと焦りながら鞄をごそごそを漁り、中にあった魔核を私に向けて差し出した。
それは、複数の剛火猿の魔核……くれるのなら貰うけど。
私は首にぶら下げた鞄の中に魔核たちをしまって。
集中して、もう一度リナを『鑑定』!!
――解析
[リナ]
[種族]:人
[職業]:冒険者―魔法使い
[状態]:良好
[加護]:『雪之加護・改』_氷魔法強化(小)・魔素貯蓄量UP
[能力スキル]
『氷魔法(中級)』
『水魔法(中級)』
『回復魔法(低級)』
『魔導強化』_魔導強化(中)・魔力回復(中)
[兎への敬い]大
むむむ?
よく見たら[兎への敵意]だった欄が[兎への敬い]に変わってる。
なんだろう……兎(私)にこてんぱんにされて兎に敬いを覚えたのかな……?
この魔核は貢物……的な?
よくわからない。
よくわからない……けど、兎を敬っている人間を殺すほど私も鬼じゃない。
それに、ミリムを見捨てずに助けてくれようとしてくれたのだから見逃してあげるのもやぶさかではない。
ヒマなら多分二人とも殺されてただろうから、私がこの場に参上したのは運がよかったね。
仕方ない。
山川健吾も同郷出身だし妖狐と闘ってくれてたみたいだし、おまけで見逃してあげよう
私はリナの肩に飛び乗って、感謝の意を表す動きとしてほっぺをぺろりと舐める。
兎だから会話もできないし……ほら、動物に舐められたら嬉しいでしょ。
ほわん、とリナのほっぺが光った気がする……え、異世界人のほっぺって光るの?
そのままミリムの下に潜り込んで、ミリムを持ち上げる。
魔魔兎が持ち上げる巨躯。
すっぽりとミリムの毛で私の身体は覆われてしまう。
まぁ、筋力も上がってるから多少バランスは悪いけど気を付けながらいけば巣へと運んでいけるだろう。
(人間さんありがとー)
ミリムがテレパシーを私に送るのと同じように、リナ達に回復のお礼を送ろうとしてる。
まぁ、リナに『同族の絆』が発動するわけがないので通じてるわけがない。
リナを見ると私と運ばれているミリムを見ながら呆然と眺めていた。
(ママ―。痛いからおうちかえりたいー)
(はいはい。今から帰るからリアに治してもらおうね)
(わーい)
私よりも何倍もでかいミリムの身体を背負いながら、私たちは帰路に付くのであった。
―――――――――
―――――――
―――――
―――
――
「兎にお礼言われちゃった……」
白子とミリムが去り、山川健吾を回復させている最中。
リナは呟いた。
その頬には、兎のような痣が浮き上がっていた。
野兎転生~無気力兎が行く異世界攻略。転生したくなかったけどもう遅い。とりあえず優しくてお金持ちなご主人様に飼われて悠々自適な兎生を送りたい~ @DayDreamRabbit
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