(2022/8/18執筆)
貴族の長男ながらも、記憶喪失の治療に明け暮れる主人公、穂積宗次郎。
そんな彼が、事件をきっかけに第二皇女、皇燈と出会うところから物語が始まる。
その出会いはと言うと、燈が宗次郎の事を国家反逆罪で逮捕すると言い出すとんでもないものである。
しかし、物語を進めていくと、宗次郎と千年前の戦いとの関係、皇女としての燈の覚悟が徐々に明かされ、事件を解決していくうちに互いを信頼できる関係になるという、まさしく2人に焦点を当てた物語である。
勿論、物語を彩るのは2人だけではない。
2人に協力する者、2人に敵対する者それぞれに背景があり、それぞれの考えの下動いているというのが面白い。
そのため、物語が進むに従って関係性が変わったり、敵対する者だとしても、その考えには同情してしまうところがあった。
更には、直接的なバトルだけではなく、政治面での戦いも掘り下げられているのが特徴だ。
その中には、国としての在り方についても考えさせられる場面もあり、思わず感心してしまった。
国を巻き込む壮大な展開を楽しみたい方に是非!
【簡単なあらすじ】
ジャンル:ハイファンタジー
舞台は皇歴1024年。この国では1000年前に英雄・初代王の剣は魔神・天修羅を倒し、大陸に平和をもたらしたとされている。主人公はその物語を母から読み聞かせられ、自分も英雄になりたいと夢を抱いていた。しかし、ある時事故で記憶を失ってしまう。治療により夢を抱いてきた記憶を思い出し、初代王の剣が使った刀が祀られている神社へ向かうのだが……!
【物語の始まりは】
主人公が母より、物語を読み聞かせして貰う所から始まっていく。まだ子供だった主人公は読み聞かせてもらった絵本により英雄になりたいと夢を抱く。だが大人になった主人公は英雄になるどころか……!
【舞台や世界観、方向性】
皇国が唯一この大地を収める国であり、その統治は1000年以上続いている。
『王国記』王子と剣士身分の違う二人が協力し合い、国に平和を取り戻すまでの物語であり史実のようだ。
妖も存在する世界。
この物語は両サイドから語られており、主人公の境遇や過去については両視点からわかって来る。
【主人公と登場人物について】
本編に入ると主人公は21歳へと成長。何か事情があって記憶を失ってしまっているようである。
記憶を失った主人公ではあるが、近所の人や家の者との関係は悪くはない。
門……見た目は女性のように美しい男性で子供たちに剣術を教えている。主人公にとっては記憶を失った自分に色々と教えてくれる恩師である。
【物語について】
プロローグの後21歳へと成長した主人公は、記憶を取り戻すための治療を受けているところから展開されていく。何故記憶を失ってしまったのか? 冒頭の方ではまだ理由は明かされてはいない。記憶の一部は取り戻せたようなのだが、あまり嬉しそうではない。彼にとっての恩師曰く、記憶が戻った時の方が落ち込んで見えるらしい。その日に題材を聞いた恩師は、主人公に外で授業を行おうと別荘の外へ連れ出すのだった。
建国の歴史と関係のある刀預(とうよ)神社。それは二人が現在生活をしている市に存在している。そこへ二人が向かうと不自然な人だかりができていたのである。この物語では、記憶を失った主人公と共にこの舞台の背景や設定について学ぶことができる。そこである事件が起きてしまうのだが、同時に主人公がある記憶を取り戻したきっかけともなっている。主人公たちは、この日たまたまここに来たため、巻き込まれ王女殿下に協力することになる。まだ部分的にしか記憶を取り戻していない主人公だが、どう関わっていくことになるのだろうか?
【良い点(箇条書き)】
・読者というのは、物語に対して無知な存在である。ファンタジーを含む物語での難点は舞台設定が細かければ細かいほど説明が多くなるところである。この物語では主人公が記憶喪失な為、教わるという形でこの世界のことを学んでいく。それは読者にとってもわかりやすいスタイルとなっている。
・プロローグが何処に繋がるかは、物語によって違う。この物語では主人公はどうなってしまうのか? という謎を残したまま始まっていくが、意外な展開でその先に繋がっていく。
・誰が正しくて誰が間違っているのか? 物語が進むにつれこの国の真実に近づいていくのも面白い。
・主人公の記憶に鍵があるのではないか? と先の展開が予想できず気になる。
・疑念を抱かずに読み進めてしまったが、後から伏線に気づき驚かされる。
【備考(補足)】22ページまで拝読
【見どころ】
この物語は国家と反逆者、どちらが敵で味方で、どちらが正義で悪でという単純な物語ではない。主人公の失った記憶に大切な何かがあり、そこに真実が隠されているように感じた。物語が進むと明かされていくが、主人公が記憶を失った経緯を考えると、もしかしたら回避の出来るものだったのかも知れない。しかし彼の能力はレアなものであり利用される可能性はあった。結果失敗に終わったということである。冒頭の方では明かされてはいないが、主人公は想像以上に長い間の記憶がなく、思い出せるのはその事件より以前のことだけのようだ。そして彼が真に知りたいことが、真実や核心に繋がる可能性はある。恐らくそれは、これから徐々に分かって来ることなのだろう。伏線が散りばめられており、謎のめいた部分がどういう形で明かされていくのかも見どころの一つである。
あなたもお手に取られてみてはいかがでしょうか?
記憶を失くしても、英雄になりたいという気持ちを持ち続けた主人公。彼の記憶からどんな真実が明かされていくのだろうか? この先の展開をその目で是非、確かめてみてくださいね。おススメです。
ご縁があり、この物語に出会いました。更新分まで読み終えましたので、レビューさせていただきます。
千年もの昔。英雄・初代王の剣は魔神・天修羅(あまつしゅら)を倒し、大陸に平和をもたらした━━━そして現代には、記憶喪失の一人の少年がいました。そんな彼がひょんなことから皇王国の第二王女と出会い、そして全てが動き出すというボーイミーツガールから、この物語が始まります。
情景描写からうかがえる、綿密に形成された世界観。その上で動く、様々な登場人物達。そんな中で一人、
「むしろ主人公は後ろ向きなのでウザく感じると思います。」
あらすじの注意書きでも、わざわざこう書かれてしまっている記憶喪失の主人公。
しかしそれは、後半への布石。物語を大きく魅せる為の、溜め、チャージでした。
彼の記憶喪失の秘密と彼自身について……それら全てが明らかになる第一部の終わり。私はここで、一気に物語の魅力に心を掴まれてしまいました。
もちろん、彼だけではありません。それぞれの登場人物は皆、バックボーンがあります。それは物語において、当たり前のことなんでしょう。しかしそれを魅力的に表現されている所に、作者さんのワザマエがあります。
個人的には、第二部に出てくる玄静君が大好きです。ザックリ言ってしまうと、斜に構えている天才型なのですが、そんな彼には実は……是非皆さんの目で確かめてくださいませ。
王道、重厚。そしてスカッとさせてくれる、和風ファンタジー。
他の皆様も是非読んでみてください!