「ねえちゃんかなぁ」

「は?」

「ん、なんでもない。レイジさんから返事来た?」

「そんな暇じゃないだろ、あの人も」

 兄に見えていて俺に見えないものは世の中に山ほどあるけど、俺に見えていて兄に見えないものが唯一ひとつだけあって、それが死んだ姉だ。死んだ時はほんの子どもだったけど俺たちの成長とともにすくすく大きくなって、今は立派な成人女性の姿で俺たちの行く先々に姿を現している。兄がでかくてやばめの悪いやつを祓ったりする時に、姉が後ろから手を貸しているのも、俺は知ってる。兄には言ってない。この人基本的にはすごい怖がりで霊の話とかしたがらないから、わざわざ言って怖がらせる必要はない。


 実家ではばばちゃにだけ見えてるらしい。父も母も姉のことはあまり話題にしない。年末年始の帰省の時に俺とばばちゃがふたりきりになると、姉もふわっと現れて澄まして座っていたりする。


 ねえちゃん、なに考えてるんだろう。どうして俺たちに能力を残したりしたのかな。なんで俺にだけ見えるんだろう。


 俺は、俺とばばちゃだけに見える姉のことを怖いとは思わない。けど、俺と兄が好きになる人間の傍にはいつも姉の気配があって、それはレイジさんの時も同じで、それだけは少し怖いし意地悪だなぁと思う。

 ねえちゃん、大丈夫だよ。俺たちちゃんと市岡を終わらせるよ。だからそんなに見張ってなくても平気だよ。

 今も、ソファの肘置きに腰掛けた姉が俺と兄のことをにこにこ笑いながら見詰めている。なんだよもう、心配性だなぁ。

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インスタントな世界 大塚 @bnnnnnz

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