きょうだい
「ヒサシ」
「あい」
「おまえ、*****、レイジくん誘うなよ」
「……」
読まれてた。レイジさん。
「俺、お守りだから、レイジさん連れてっても守れるよ」
「あそこは駄目だ。絶対駄目だ」
「じゃあ稟ちゃんも来ればいいじゃん」
「誘うなっつってんだよ! 話聞け!」
レイジさんはライブハウスが好き。映画館も劇場も好き。そういうハコ系には面倒なものがふわふわしてることが多いことを、レイジさんは知らない。実際俺と初めて会った時、つまり兄との初対面の日でもあるんだけど、彼女は山ほど訳の分からんものを背負ってた。兄がその場で全部追っ払った。
姉が死んだ時、見る力と祓う力は兄の稟市に受け継がれた。そして俺、弟のヒサシにはお守りの能力が宿った。お守りとしか言い様がない。俺がいると、大抵の悪いものはその場を去る。おまえからはそういう匂いみたいのが出てる、と兄が昔言っていたことがある。ちょっとした悪事をはたらく程度の悪霊とかは、俺の放つそういうのに耐えられないみたい。だから、兄が大きめのお祓いの仕事に挑むときには、大抵俺も同行する。俺には見えないけれど、俺がいることで兄は本命だけに対峙することができるから。
で、なんだっけ?
「レイジくんをスノーなんかに会わせんな」
*****のやべーやつじゃなくて、スノーかよ。レイジさんはたぶんスノーさんの好みのタイプじゃないけど、スノーさんは女体ならとりあえず口説くみたいな向きがあるからな。
俺はレイジさんが好きだけど、兄もレイジさんが好き。俺たち兄弟に駄目なとこがあるとしたらこれだ。人間の好みのタイプが完全にかぶってる。レイジさん以前にもこういうことは何度も起きた。男も女も、俺が好きになるやつのことは兄も好きになるし、兄が好きになった相手は俺も絶対夢中になった。
兄は絶対に結婚しないと宣言してる。市岡は自分の代で絶つと言い切ってる。俺も、あんまり結婚とか子どもとかには興味ない。恋愛はそこそこしてるけど。市岡はたしかに、俺たちの代で末代になるだろう。でも別に、それでいいと俺たちは思ってる。
「はあ。分かったよ。分かりました、ひとりで行きます」
「……レイジくんに連絡しとく。おまえに誘われても行くなって」
「信用ないな!」
「ねえよ」
兄は鼻で笑って自分のスマホを手に取る。俺はもう一度うちの実家のWikiを見る。
【市岡神社の血統は、狐に呪われていると言い伝えられている。】
別に狐には、呪われてないと思う。兄は狐に力を借りて悪いものを祓ったりしてるけど、俺はその「狐」を見たことすらない。
でもそうだなぁ。俺たちが誰かに呪われたり、ずっと見られたりするとしたら。
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