第1章「私の事象」その9


防具を着て、竹刀を持っていることは分かった。


こちらに気づいていないようだったので、私も気づかれないように携帯を探そうとした。


でも、彼女が竹刀で空を切る音は私の何かを引きとめた。


気づくと、私は彼女に近づいていた。


「誰?」


怪訝けげんそうな顔をして、竹刀を振るのを止めた。


「…私に…剣道に教えてください!」


本当に恥ずかしかった、涙が出そうになった。


でも久しぶりに自分の本当の声を聞いた気がする。


「えっと、まず、あなたは誰?」


頭の上に大きな「はてな」が見えるほど、彼女の顔は私の言った言葉の意味を飲み込んではいなかった。


顔が真っ赤になった、そりゃそうだ。


一人で練習しているところに、いきなり声をかけたんだから。


「えっと、2年3組の佐々木茜です」


「どうして剣道を教えてほしいの?」


「えっと、それはですね…」


「敬語はやめて、私も同級生だから」


「そっか、えっと…」


「2年4組の宗則、宗則菊一のりむねきくいち


「佐々木さん、スポーツ経験は?」


「いや、まったく…」


そういった瞬間、彼女の眉間にシワが寄った。

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初金星 淡女 @kuramaru1024

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