Web小説をカクヨムするのはなぜ?

Han Lu

なぜかなー。

 ええっと。あーし、いつもは読むの専門で、ヨミセンっていうんだっけ、カクヨムで恋愛ものばっか読んでるんだけど、この『Web小説をカクヨムするのはなぜ?』っていう、自主企画っていうの? 自由に参加できるやつ、そういうの、たまたま目にして、最近ちょっと、ほんとにちょっとだけなんだけど、Web小説っていうのについて考えてたことがあったから、書いてみようと思って書いてみた。


 このあいだ合コンがあって、でも最近面倒だし、コロナも怖いしでそういうのあんま行かなくなってたんだけど、エリのお誘いだから断るのも悪いしで、一応行くだけ行ってみた。エリは遊んでる割には勉強もちゃんとできて、あーしの単位のこととか結構相談に乗ってくれてて、ほんといいやつ。勉強ができるっつっても、地方のアホアホ大学だから、たかだかしれてるだろうけど。


 女の子はエリのツテで集まった感じ。あーしとエリを入れて六人だった。男の子たちもエリの知り合いの知り合い、みたいな感じで五人。しばらくたって、席をシャッフルして、あたらしい男の子があーしの前に座った。その男の子と趣味の話になって、あーしが最近Web小説読んでるって言ったら、その子、異様に食いついてきた。彼、もう名前は忘れちゃったんだけど、あーしの隣の女の子がグラスを倒しそうになったときに「気を付けたまえよ」って言って、え、何この人、何時代の人? って思ったので、とりあえず、タマエヨって呼んでおく。タマエヨは、あーしが読んでるWeb小説のことをあれこれと聞いてきた。どういうサイトで、どういう内容なのか、とか。あーしがひと通り説明すると、タマエヨは、すっごい勢いでWeb小説をけなし始めた。何を言ってるのか、半分以上意味がわかんなかったけど、タマエヨが言うには、本になって本屋さんで売ってるような小説が本当の小説で、Web小説は本当の小説じゃないってことらしい。そんで、自分はたくさん本当の小説を読んでるってことが言いたいらしい。


 あーしにマウントとってどうすんのって思ったけど、とりあえずふんふん、へーそなんだーって聞いてた。あーしはタマエヨに関心はこれっぽっちもなかったし、別にWeb小説にこだわりもなかったから。あーしは本屋さんで売ってる小説って、教科書に載ってるのくらいしか読んだことなかったから、タマエヨに聞いてみた。「Web小説と、本当の小説と、どこがどう違うの?」って。タマエヨは「うっ」って言葉に詰まった。それからタマエヨはさっきまでとは違って、しどろもどろになりながら、いろいろと説明しだしたんだけど、やっぱりあーしにはほとんど理解できなかった。なんか、タマエヨはどんどん機嫌が悪くなっていくみたいだし、こっちが悪いことしちゃったような気になってきた。


 このあたりであーしはようやく、タマエヨのことをちゃんと観察し始めた。身なりは一応小ぎれいにしている感じだけど、なんとなくちぐはぐな感じがした。髪の毛はちょっと長めで無造作にセットしようとしているのに整髪料を付けすぎたせいでべとべとになっている。服もそれなりにおしゃれな感じのものを選んでいるけど、なんか、昨日買ってきた服を着てきました、みたいな感じだった。黒縁の眼鏡のレンズは指紋がべたべたとついていた。でも、肌は白くてすべすべしていた。


 話しているうちに、またじょじょに調子を取り戻したみたいで、タマエヨは、今度はしきりにあーしに読んでほしい小説をすすめてきた。よかったらオススメの小説教えるから、今度一緒に本屋に行こうって言い出した。あーしが、えーどうしよっかなぁとかなんとかテキトーに返事してると、突然スマホを取り出してあーしのスケジュールを聞いてきた。いいかげんめんどくさくなってきたので、トイレに立とうと思ったら、あーしの隣の席の女の子が、タマエヨに話しかけてきた。その女の子はめぐみちゃんって言って、そのときはじめて知り合ったんだけど、ちゃんと名前は覚えてる。っていうか、めぐみちゃんとはそれからもずっと付き合いが続いてるんだけど、とにかくそのときは突然あーしとタマエヨの会話に割り込んできて、あーしはちょっとびっくりした。それまでめぐみちゃんは別の男の子と話していたから。でも、どうやらあーしとタマエヨの会話を聞いてたらしい。それは後で知ったんだけど。


 めぐみちゃんは、タマエヨにスマホの画面を見せた。そこには、タマエヨがさっきさんざんけなしてた、あーしが好きなWeb小説のタイトルが書かれた本の表紙が映ってた。めぐみちゃんが言うには、そのWeb小説は本になって、本屋さんでも売ってるらしい。っていうことは、これ、Web小説だけど、タマエヨが言う本屋さんに売ってる本当の小説でもあるってことだ。あーしはそんなことちっとも知らなかったから驚いた。タマエヨはそれを見て、また「うっ」ってなった。それからめぐみちゃんはスマホを見ながら、なにかの文章を読み上げ始めた。あれ、なんかそれ、どっかで聞いたことあるなーと思ったら、さっきタマエヨが話してた、本屋さんに売ってる、本当の小説の感想と全くおんなじ内容だった。そっか、タマエヨはこれをそのままあーしに話してたんだ。それを聞いたタマエヨは顔を真っ赤にして、いきなり席を立つと、どこかへ行ってしまった。


 タマエヨがどっかへ行っちゃってから、めぐみちゃんは、「はーっ」って大きく息を吐いて、「余計なことしてごめんなさい、でも、どうしても我慢できなくて」って謝った。正直タマエヨはうざかったから、ぜんぜん大丈夫って、あーしはめぐみちゃんに言った。めぐみちゃんは、あーしとタマエヨの会話を隣で聞いてて、ずーっと気になってたらしい。めぐみちゃんも小説好きなの? って聞くと、言いにくそうに、「実はカクヨムで小説を書いてるの」って言った。


 それまであーしはめぐみちゃんを学校で見たことはなかった。めぐみちゃんは眼鏡をかけて、おばあちゃんが来てるようなヘンな刺繍の入ったセーターを着ていた。チャラい子が多いうちの大学には珍しいタイプの子だった。でも、よく見たらかわいい顔をしていた。この子、髪型と服を変えてちゃんと化粧したらめちゃ可愛くなる。そういうのって、たいていの男の子は気が付かないんだけど。あと、めぐみちゃんの眼鏡はぴかぴかで、レンズもほこりひとつ付いてなかった。


 これまで小説を書いてるなんて人に会ったことがなかったから、あーしはすごいなーって思った。だから、めぐみちゃんに、「小説書いてるんだ、すごいねー」って言った。そんで、どんな小説書いてるのって聞いた。めぐみちゃんは、ちょっと迷ってから、小説を書いてる時の名前と小説のタイトルを教えてくれた。あーしはさっそくカクヨムのサイトを検索してみた。したら、ほんとにあった。この小説を書いた人が隣にいるって、なんかすごく不思議な感じがした。「ほえー、ほんとだ、すごーい」って言いながら、あーしは小説を開こうとして、一応めぐみちゃんに「読んでもいい?」って聞いた。めぐみちゃんは恥ずかしそうに「うん」ってうなずいた。ふふ、可愛い。


 めぐみちゃんの小説は長編みたいで、目次にはたくさん番号が振られていた。とりあえず、あーしは最初のページを開いた。まず、うわって思った。文字がぎっしり詰まってる。あーしが読んでる小説は、文章と文章の間にたくさん間隔があって、すっごく読みやすいんだけど、めぐみちゃんの小説はそういうのがなくて、とにかく画面いっぱい、びっしりと文字ばっかだった。でもとにかく、あーしは読み始めた。どうやら、悩みを抱えた女の子が主人公のお話みたいだった。そんで、あーしにわかったのは、それだけだった。なんか、いつも読んでる小説とはまるっきり違ってて、何が書いてあるのか、ほとんどわからなかった。あーしは、ふと、画面の右端に出てるスクロールバーを見て、1ページの量がものすごいことになってるのに気が付いた。これ、やばいやつだ。でも、今さら途中でやめるわけにもいかなくて、あーしは意味がわからないまま、とにかくそのページの最後まで読んだ。こんなにも脳みそを使ったの、大学入試のとき以来な気がする。なんとか読み終えると、あーしは、目の前のモヒートをぐびぐびと一気に飲み干した。


 ちらっと隣を見たら、めぐみちゃんが心配そうに、あーしを見てた。やばいって思った。なんか、いい感じのこと言わなきゃって思った。でも、あーしにそんないい感じのことが言えるわけない。タマエヨなら言えるかもだけど。いや、どーだろ。ううん、やっぱり違う。あーしは、正直にこう言った。「ごめん、あーしにはよくわかんないや」。めぐみちゃんは、別段がっかりする感じでもなくて、「こっちこそ、無理やり読んでもらってごめん」って謝った。「自分でも、面白くないのわかってるから。へたくそだし。他人に偉そうなこと言う資格ないよね」って、めぐみちゃんは笑った。あーしは、もう一度、スマホの、めぐみちゃんの小説の画面を見た。


 たぶん、最後まで読んでも、何回読んでも、あーしにはわかんないと思う。けど、これまであーしが読んだWeb小説とはぜんぜん違ってて、それが嫌かっていうとそんなことなくて、なんかもやもやしたのが心ん中にひっかかってる、不思議な感じがしてた。Web小説を読んで、そんなふうに思ったのって初めてだった。そんで、その感じを、あーしは何とかしてめぐみちゃんに伝えなきゃいけないって、なぜか、そう思った。


 そう思ったら、いつの間にかあーしはしゃべりだしてた。「全然関係ないかもだけど、あーし、読みながら思い出したことあって、高校んときのことなんだけど、あーしの行ってた高校、すっごく頭悪い子ばっかで、そんで、机とか、すんごい落書きとか、彫刻刀で変な絵彫ってたりしてて、で、視聴覚室ってあるじゃない、化学の授業とかでビデオを見るときに視聴覚室を使うんだけど、あーし、お気に入りの机があって、あ、視聴覚室使うときは席が自由で、自分の好きな席に座るのね、その机も、やっぱりいっぱい落書きされてるんだけど、左端の一部分だけ、十センチくらいだったかな、その四角い部分だけ、きれいになってたの、最初に見たときそれくらいで、それがね、だんだん大きくなっていくの、きれいな部分が、視聴覚室に来るたびに、たぶん誰かがきれいにしてるんだと思うんだけど、誰がなんでそんなことしてるのかわかんないんだけど、とにかく、きれいな部分が少しずつ大きくなっていって、あーし、三年間ほとんどその机を使ったんだけど、とうとう三年生の時に、机の上ぜんぶがきれいになったのね、で、ふしぎなことに、誰もそこに落書きしないの、きれいなままで、結局、誰が何のためにそんなことしてたのかわかんなかったし、今の今までそんなことがあったの、あーし、すっかり忘れてたんだけど、めぐみちゃんの小説読んだら、なんか突然あの机のこと、思い出しちゃって、あの机、今もあのままあるのかなーって、あのまま誰も落書きしないままあるのかなーって、ごめんね、なんかよくわかんないこと言って、ますますごめんだけど、って、あれ?」めぐみちゃんは、ものすごく驚いた表情を浮かべて、あーしの手をぎゅって握った。「ど、どしたの、めぐみちゃん」ってあーしが言うと、慌ててめぐみちゃんはあーしの手を離した。「ううん、な、なんでもないの。あの、ありがとう。すごくうれしかったから、つい」って、めぐみちゃんは言った。あーしは、何がどう、うれしいのかわかんなかったけど、とりあえず「いえいえ、そんな、どういたしまして」と言っておいた。


 しばらくあーしたちは無言になって、あーしは飲み物のお代わりをたのんだり、めぐみちゃんはすっかり冷めてしまってる揚げ出し豆腐をちまちまと食べたりしていた。「あの」めぐみちゃんがお箸を動かしながらこちらを見ずに言った。「もしよかったらなんだけど、私、文芸部っていうところに所属してるんだけど、一度遊びに来ない、かな」。文芸部って何するところなのか、あーしは知らなかったからそう言うと、小説を書いたり、読んだりするところなんだそうだ。「や、でも、あーし、ほんと、小説ってよくわかんなくて」ってあーしが言うと、別に小説のことはどうでもよくて、ただ覗きに来るだけでもって言うので、まあ、めぐみちゃんがそう言うんなら行ってもいいかな、って思った。


 それから、あーしは何度か文芸部の部室に行った。あーしは最初、小説について、部員たちが難しい顔して討論みたいなのをやっているのかなと思ったら、ぜんぜんそんなことはなくって、めちゃくちゃゆるーい雰囲気の部だった。たまたまあーしが行くときは女子ばっかで、実際部員のほとんどが女子らしいんだけど、本を読んでいる人もいれば、ただおしゃべりをしているだけの人、コーヒーを飲んでるだけの人、ぼーってしているだけの人、みんなてんでばらばらで、最初、がちがちに緊張してたあーしは、なんか、がくってなった。


 文芸部の部室は居心地がよくて、それからあーしは何回も行って、そこで何人かの子たちと仲良くなった。その子たちから、小説、本になって本屋さんで売られてる、タマエヨが言ってた本当の小説を借りたりした。今読んでいるのは、アメリカの人が昔書いた短編集で、合唱団にいる女の子とその弟が出てくるお話が気に入ってる。そういう本の小説と、相変わらずWeb小説も読んでる。Web小説は恋愛ものだけじゃなくて、いろんな種類のものを読み始めてる。どちらもあーしには難しいし、面白い。たぶん、あーしは文芸部に入部すると思う。めぐみちゃんは、あーしに、しきりに小説を書けばいいのにって言ってくる。小説なんて書ける気が1ミリもしないんだけど、めぐみちゃんにそう言ってもらえるのは正直ちょっとうれしい。なんとなく、ほんとになんとなくだけど、あの日、合コンで、あーしの話を聞いてめぐみちゃんがうれしいって言った気持ち、わかるようになってきた気がする。そんで、そういうの、いつか小説に書けたらいいかもって、ちょっとだけ、思ってる。


 以上が、最近ちょっと、ほんとにちょっとだけなんだけど、Web小説、っていうか、小説っていうものについて、あーしが考えたことでした。おしまい。

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