ごはん

T◎-BUN

ごはん

 流していただけのニュースに視線を向けると、「金魚が1000万越え」とテロップが出ていた。

 特別な金魚というわけではなく、ただの金魚の数が急激に減ったために値段が吊り上がったのだろう。

 テレビでは金魚をリポーターが「流石1000万です」なんて軽い感想を言っている。

 観賞魚だけでは無く、食用の魚も漁獲量が減少し、

 スーパーで見かけるものは薄いものでも四桁以上は超える。

 食肉も同様の原因で減少し、薄い三枚切れがスーパーに並ぶぐらいでそれ以外は見たことがない。


 原因は数年前に急接近した隕石αが大気圏突入した際に発した光線である。

 光線は映像として残っており、太平洋をまっすぐ貫くように1秒間発せられた。

 その光線を受けた太平洋の動物から順に、死んでいった。

 浜辺では死んだ魚が連日山のように打ち上げられてるのがニュースになっていたが、7日以上経てば日常となり誰も何も言わなくなった。


 生物たちが死んでいったのは温暖化のツケという説もあったが、最近となって隕石αの欠片が発見され、それが発する光に生物を害する作用があることが研究でわかったらしい。


 その光は人間に作用することはないらしい。


 光線による死者数はいないことから分かっていた。

 だが決して無害ではないだろうというのが最新の学者の説らしい。どうでもいいが。


 そんなこんなで、食糧難になった人間は、動物を食べなくなったので、動物性タンパク質を必要としない体に進化した。

 それでも失った味を得ようと保存された動物の遺伝子を復活させて増やそうとしているみたいだ。

 そこまで食べたいという人間様の食欲には正直ドン引きだ。

 簡易食事に慣れてしまえば、味なんて忘れてしまうというのに。


 テレビでは未だに「貴方の忘れられない味は?」なんて街頭インタビューする番組がやっている。思い出とともに味を語る人たちがいいのか、忘れられないということを共感してるのか。どっちだかわからないが、定期的に見る。映画の宣伝でも次の瞬間には聞いているから全人類に関することがそれしかないって感じだ。

 本当にくだらない。


 昔から私は味に関心がなかったようで、真っ黒なホットケーキも焦げた肉じゃがも食べたし、大人の味といわれる特徴的な味のものも、激辛は流石に無理だったが他は特に何も感じずに食べた。

 昔はそれで共感が出来ずに友達から変な目で見られたことがあり、自分でもなんとか味を感じようと自分なりに努力した。激辛がダメだと気づけたときはそれはそれは嬉しかった。

 これで自分もみんなと一緒だと。

 まあ、友達には「努力の方向がおかしい」と言われてしまったが。

 だから、私にとっては味がそんなに幅が無くなってしまった今のほうがずっと息がしやすい。例えこの世界が元に戻ろうとしていても、今のほうがずっと楽。


 世界はそういうわけにもいかず、以前から酷かった貧富の差はさらに大きく開いた。

 肉や魚を直接摂取せずとも、動物タンパク質が材料に含まれる食材は多い。食材自体もかなり価格が高騰し、貧しい人は比較的安価の簡易食事ですら買えないらしい。

 その影響は日本にも大きく受けて、物乞いなんて珍しくもなんともなくなってしまった。

 もういつ世界が滅亡してもおかしくは無いらしい。

 いやあの光線を耐えきれたのだから頑張って歴史をつなげていこう!とテレビのチャンネルを変えるたびに言うことが違う番組が目に映る。


 がんばろう!世界なんて片田舎の田んぼに書かれているのをニュースで見たが、

 そんなニュースですら頑張っている人には、伝わっていないだろう。


 なら、早く滅亡したほうが、楽になれるんじゃないだろうか。

 私も、みんなも。


 テレビの向こうで金魚が口をパクパクさせて何十万もする餌を食べている。

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ごはん T◎-BUN @toubun812

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