あとがき

・はじめに


 この後書きは本編である『ナナハン』を読んだ後に読むものという前提の上に書かれています。

 なのでまだ本編が未読であるという方が読まれる場合、本編の読み味が多少損なわれたり変化する可能性があります。


・それから


 はじめに「一日に一度キスをする契約」というキーワードがあり、そこから書き始めました。

 テーマの「空」は「から」ないし「くう」として書くことに。

 それに合わせてナナハン(七海五十鈴)の人間性も組んでいくことに。

 初めはもう少し女性的な話し方をする予定だったのですが、契約を切り出す学生の頃のシーンでどっちから言い出したのかを不明瞭にするために九十九側に合わせてもらいました(それと個人的に女性的な話し方だと色々とよぎる組み合わせがあったので)

 空っぽだと自身を定義する彼女は自罰的ないし内省的な面の強い人として見えるように調整しました。

 ヒューマンマンというかつて川に流した作品では『承認されない』という現実との付き合い方のようなものを書いたりしましたが、七海五十鈴という人間も似たようなところがあります。

 彼女と自分を対比して感じる自分の至らなさのような感情が攻撃性として現れたりするという。

 あとはこの話を書く前に内面描写について褒めていただいた事があったのでそれを意識しつつ。

 特に気を付けていたのは七海は九十九を尊敬し、愛しているということで口ではお前呼びしつつも彼女の視点で九十九を指す時は常に彼女と呼び、何かにつけてフォローします。

 なので二宮一花が軽いと九十九を評する(これに関しては二宮が正しい)と露骨に機嫌を悪くしたり。

 彼女、というふうに呼んでいるのは一応九十九を女性としての部分を尊重しているというか『男性性の投影≒王子様』の否定と『ありのままの貴方を愛している』というのを想定しています。

 後はいわゆるカップリング的なニュアンスの話をすると七海が攻め側だったりします。

 二人で帰ったあとのシーンだと七海がされてる雰囲気はありますが彼女が言ったように「抱かれている」のであの日はたまたまひっくり返っていただけですね。

 そういうところも含めて九十九は満たされている実感を持っていたりします。

 九十九は作中において王子様という表現をされる人間です。

 ただ本人はそれに対して複雑な感情を抱いています。

 それと同時に演者としても悩みを抱えている。

 感情というものを理論的に理解しようとして壁にぶったっているわけですね。

 それでも周囲からはいい役者として認識されているので感覚派として切り替えればそんな悩みから開放されるのかもしれませんが。

 酒や煙草を覚えて七海に教えたようなので結構ストレスが溜まってたり娯楽の少ない生活だったのかも。

 

 さて、本編の展開の話に戻りますがお題の「空」は天気も含んで登場します。

 七海は曇り空が好き、それを綺麗というふうに表現しますが、作中においては彼女の精神の状態を表す役目を担っています。

 明らかに機嫌が悪い時に晴れてる、とかそういう表現ですが。

 これはいわゆる「お天道様が見ている」という表現も含んでいるもので、九十九に対して後ろめたい七海としては太陽を隠す曇りの方が好ましいです。

 二人の交際が秘め事であるという面からしても大事な事だったり、二人で帰るシーンの月に叢雲〜から始まるモノローグがそれを結構ストレートに表してたりします。

 同時に九十九を太陽に例えたりしてるので彼女にどんな顔で向き合えばいいのかという葛藤めいたものもあったりします。

 今回一番悩んだのは終盤の七海が打ち上げ終わりの九十九のところに行くシーンですが、初めの予定では二宮の狂言で浮気現場めいた仕上がりにするつもりでした。

 思ったよりも七海が自罰的だったので再起不能になりそうだったのと、そういう駆け引きをする人間の話でもなかったので。

 これは泣いて帰ってきた七海が自傷行為に走った後にネタバラシをされてもあんまり幸せな終わりにはならなさそうだったのが大きいです。

 二番目に悩んだのは書き上がった時の文字数が14000くらいあって削らないといけなかった時ですが。


・おわりに


 第3回こむら川小説大賞、選考員の皆様、参加者の皆様、その他感想勢の方々などお疲れ様でした。

 銀賞を頂いたことを光栄に思うと共に次への励みにしていきます。

 特に恋愛ものの作品で受賞できたので向こう半月はこれで承認欲求を満たしていきます。

 重ね重ねありがとうございます。

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ぬばたまの瞳、ぬばたまの心、ぬばたまの空蝉 鈴元 @suzumoto_13

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