第21話 彼女ができました!停学処分。

『え?』


ーーー俺は、意識を身体に戻した瞬間に攻撃された。

 【決闘】中なので、当たり前だったが、マナには、何がなにやら分からなかった。



ーーーマナは意識消失の前後の記憶が曖昧になっていた。


『痛っ!熱っ!アッチチッ!』

『なんで俺、魔法を当てられたんだよ!』


『……え?当たった…!』


 見ると、当てた本人のアレクシアが、へたり込みながら喜んでいる。


 なんて奴だっ!!


『なんで喜んでいるんだよ!頭おかしいだろ!?』


『はぁ!?おかしいのはあなたよ!!!』


ーーー俺がおかしい?

 何、言ってんだこいつ。


 ……ちょっと冷静になれ、俺。


 マナは、首だけ動かして周りを見渡す。


 ……今いるのは学園の屋上…えっ!?屋上!?


『なんで、屋上にいるんだっけ…?』 


『私とあなたの勝負のためよっ!』


 アレクシアが産まれたての小鹿のようにプルプルと立ち上がって叫ぶ。


 勝負?


 ……そうだ!

 俺は勝負で何かを決めていたんだ!……何だっけ?


『う~ん。

 手紙……告白……勝負……屋上……』


ーーーマナは、脳に残った記憶と言葉を思い出そうと唸る。


 確か、ミリアにアレクシアが俺にラブレターをくれたって言われて……屋上で何かを決めて、勝負になったんだ!



ーーーここから、導き出される答えは1つ!



『……告白イベント(ボソッ)』


 前世の少ない記憶の1つにそんなのがあったような…。

 

 告白イベントとは!

 屋上で!

 男または、女が異性に対して好意を示し!

 恋仲になる一世一代の勝負である!


『(そうか……俺がこんなにドキドキしているのは、【好き】…だからか!)』


ーーーマナの心拍数が上がっているのは、意識が戻った時に攻撃されたのと【写し身・濁】の暴走によるものだった…。


『アレクシアさんっ!いや、アレクシア!!』


『ーーーひゃい!?』


 アレクシアは突然、自分の名前を呼んだマナに驚く。


 父さんが昔、言ってたっけ……

 

『男なら!

 告白する時は堂々としろ!当たって砕けろ!』


 砕けたらダメだろ。


 そういえば、母さんも言ってたっけ……


『マナ、女は男から迫ってきて欲しい時があるのよ。そう、あるの。よろしい』

『もし、マナが彼女を…連れて……来たら、

 ーーーその女を殺す♪』


 ……俺に嫁ができる時は、無いかも。

 母さんに紹介はやめとこ。



『アレクシア!勝負の続きだ!』

『俺が勝ったら、付き合ってくれ!

 いや付き合え!アレクシア!』


ーーー自分が混乱しているのに気がついていなかった。


『……は?』

『誰があんたと!?

 私は、あなたのこと好きでもなんでもないのに!』


『ハハハッ♪面白い冗談だね!』


 ラブレターを送ったくせに~♪


『俺は好きだよ!大好きだ!愛してる!』


 この胸がはち切れそうなほどの鼓動は、アレクシアを愛してるからだ!

 ……どうして、好きになったかは分からないが、それは後で思い出す…はず!


『【好き】って!?

 …バカにするんじゃないわよ!』


 アレクシアが顔を真っ赤にして怒り、拾った剣で上段に斬りかかる!


『照れ屋なんだね!』


ーーーだが、興奮して斬りかかってきたアレクシアは、マナにとって隙だらけだった。



 俺は、父さんから習った護身術で剣を絡め取る。


『なっ!?…あっ』


 アレクシアは剣を取られるのは想定外だったようで、バランスを大きく崩した。


 俺はすかさず、サッと腰に手をまわし、顔を近づける。

 アレクシアに、この【愛】が伝わるように念を込めて…


『好きだ。俺と付き合ってくれませんか?』


ーーーアレクシアの顔が、さらに真っ赤になった。


『…』


『…』



 沈黙が流れ、マナが告白失敗か…と思った時……


『……はい。

 ……よろしくお願いいたします』



 まさかの成功で終わるのだった。


………………

…………

……


ーーーその日の夜。


『はぁぁぁ……。

 なんで、あんなことを言ったんだろ、俺…』



ーーー俺は、記憶が戻ったため、先ほどの自分の行動を思いだして後悔していた。


 あの後、屋上での魔力の高鳴りを感じた先生達が血相を変えて屋上に乗り込んできた。

 屋上では生徒が多数、気絶しており、魔法を使った形跡が見てとれ、先生達は異常事態だと判断するのだった。


ーーーそこは、学園長室。


『つまり、あなたたちが原因、なのですね』


 学園長室に連れてかれたマナとアレクシアは、教頭のリーバー=ロングコート先生に現状に至った説明をしていた。


『学園長、どうされますか?』


 横には、学園長が高そうな椅子に座っている。


『う~む。

 ……うむ。1ヶ月の停学処分で!』


『妥当ですな』


『君達は、しばらく大人しくしてるのじゃ』


『『……はい』』



ーーーマナは、学園長が『部屋に戻ってなさい』と言ったので、アレクシアと部屋から出ようとした。


『マナ君。お主は、残りなさい』


 まだ残れと言われる。なんだろう?


『……なんでしょうか?』


『ーーーお主~♪アレクシアと~♪付き合うことになったそうじゃのぅ~♪『学園長、さっさと本題に移ってください』……うむぅ』


 この人、絶対に楽しんでいるな。

 教頭が圧を出さなかったら、絶対からかってたな…。


『お主には、【暗黒の幻想林】に向かってもらう』


ドンッ!!!


『なっ!?

 旦那様が、なんでそんな危険な場所に!』


 アレクシアが部屋に突撃してきた。


『アレクシア君!

 勝手に入って来ない!聞き耳を立てない!』


 教頭が叱るが、俺にはアレクシアの発言のほうが問題だった。


『だ・か・ら!

 あれは、混乱していて暴走した俺が吐いた妄言だって言っただろ!アレクシア!』

『……てか、【旦那様】って何!?

 俺達、結婚してないよね!?』


『あれだけの【愛情】を私に送ってきて、妄言なんて言わせないわっ!』


『妄言だって、言ってるだろ!』


ーーーマナは知らないが、【写し身】状態の余韻が残っており、告白の時に、勘違いで生まれた【愛情】が無意識にアレクシアへ伝わっていたのだった。


『騎士の娘と恋人になるんだから、結婚まで一直線よ♪『ならねぇって!』なるのっ!』


『なら、アレクシア君も行けば良いんじゃないかのぅ?』


『さ、流石、学園長…!』


『学園長!?(教頭)』


『学園長!?(俺)』


 三者三様の反応を無視して、学園長が話を続ける。


『【暗黒の幻想林】には、儂の旧友が住んでいてのぅ。』

『お主の【暴走】を制御するのに、一番の適役なんじゃ』


『俺の【暴走】に……』



 こうして俺は停学の間、【暗黒の幻想林】に行くために、自分の部屋で旅の準備をしているのだった。


コン♪コン♪


ーーー誰が来たかは分かる。


ーーー奴だ。アレクシアだ。

 この、扉からでも伝わる【愛情】、アレクシアに違いない。


『チッ!遅かったか……。

 いや…!まだ間に合うっ!』


 自分の部屋の窓から飛び降りた。


『追いつかれる前に!【暗黒の幻想林】に行ってやる!』



ーーーこの日、暗闇の中で何かから逃げるように校門に向かうマナの姿を警備員が発見している。

 




 【暗黒の幻想林】まで、5日の旅路の途中で民宿に泊まったマナの部屋の前にアレクシアが立っていたのは余談……である。 

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心代わりの【精神】魔法使いは、壊れてからが本番です!!! 翡翠まな @takano1133

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