第20話 前世の記憶

『お前だけは信じていたのに!!』

『よくも、裏切ったなーーー!』


 ……俺こそ、お前を信じていたのに。


ーーー誰だ、こいつ?

 いや、俺は今、ーーー誰なんだ?

 

 気がつけば、知らない男になっていた。


 呆気に取られていると、目の前の景色が高速で逆再生されていく。


 うぉ!気持ち悪りぃ!



ーーーそして止まる。

 俺の記憶は再び、流れ始めるのだった。


………………

…………

……


 炎が扉から吹き出る中、1人の男が廊下を走っていた。

 男は黒色の厚着を着ており、頭には鉄製と思われる兜を被っている。


『誰かぁー!逃げ遅れた人はいませんか!』

『逃げ遅れた人は、返事をしてください!』


 男……いや、俺は炎が立ち込める部屋を1つ1つ見て回る。


『確認ヨシ!』 


 そして、廊下に続いた部屋を全て見ると階段を上がった。


『ーーー!こっちのフロアは終わったぞ!そっちはどうだ!』


 男は、扉を開けながら部屋の中にいた男に声をかける。


『!?

 …おい!お前、何してんだ!』


『チッ、見つかったか…』


『救助は……いや、その手にある財布はどういうことだ!』


『…これか?

 こんな燃え盛る炎の中で残るわけがないんだから、俺が貰ってもいいだろう?』

『それと、救助者の確認は既に終わったぞ』


『……お前、自分が何をしているか分かってるのか!!』


『ーーーあ?

 分かってねぇ、分けがないだろ』

『……別に良いじゃねぇか』


『泥棒……いや、泥棒より、達が悪い!』

『このことは、上に報告させてもらうからな!』


『ちょっ…、お前なら分かるだろ…?俺が借金を抱えていることを…』


『だから、どうした!俺は許さん!』


『分かった、分かった!

 やめる!やめるから上には報告しないでくれっ!』


 男は、土下座をして慈悲を求める。


『………お前と俺は、たった2人だけの同期だ。それに免じて見過ごしてやる』


 ……こうして俺と男は、炎が回る、部屋がいくつも集合した大きな家から出る。



ーーー刻は流れる。


『お前の部下のーーーが、現場で物を盗んで金に変えているという噂が流れているが、心当たりはあるか』


 俺は内心で驚いていた。


 …あの時、もうやらない!上に知られたら、俺の人生が終わっちまう!と、泣きながら訴えていたのに……。


『ーーーいえ、俺の部下でそんな事をする者はいません!』


『なら、いいんだ。すまないな、疑って』



ーーー俺は嘘をついた。



 そして、記憶は初めの頃に戻る。


………………

…………

……


『お前がチクったせいで、俺はクビになった!

 全部、お前のせいだ!』

『そうだっ!お前の…せいだ!

 そうだろう!?なぁ!?』


『お、…俺は言ってない……ぐぅっ!?』


 俺は火事の現場に着くと、火元と思われる場所で元同期を見つけた。

 彼がいることには驚いたが、正気に戻り、避難誘導をすることにした。

 話しかけると、元同期は手元にある、鉄製の先端が筒状になった物を俺に向ける。

 そして、筒から放たれた鉄の玉が俺を貫いたのだった……


『どうして、言ったんだよ!?』

『俺には金が必要なんだ!

 薬が切れて、もう限界なのに金がねぇんだよ!』



ーーー彼は叫びながら、鉄の玉を倒れた俺の身体に浴びせ続けて、自分は炎から逃げるために外に向かって走っていく。


 ……こうして、死んだのか俺。



ーーー俺は意識が戻る感覚を覚えた。




 マナの意識は精神空間に戻ったが、記憶には続きがあったのだった。


『ぐ、お、れは、帰らない…といげ、ないんだ…』

『家族が……待って…』


ポトッ…


………………

…………

……


『殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す』


 意識が精神空間に戻っ時、俺は全身が炎に包まれているのを自覚する。

 そして、感情の波に飲み込まれていた。


ーーーこれは、【怒り】だ。


 俺を殺したあいつを俺は、忘れなかったのだろう。転生しても、あの光景とあいつへの【怒り】がまだ残っていた。


『おいおい、それ以上燃えたら、灰になっちまうぜ?』


 俺が話しかけてくる。


『お前が【怒り】に飲み込まれるのは良いが、燃え尽きて廃人になったら【俺】はどうなる?』


ーーー知るか。

 あいつは、俺を裏切った。俺を殺したあいつを殺す殺す殺す………


『うわ、こりゃあ、ダメかもしれないな』

『しっかりしろ。

 その身体はお前のものであり、【俺】やマナ=フィルドーのものなのだから』


ーーーそう言って、俺は俺を殴る。


『くっ…!……てめぇ!!』


 俺は、笑いながら、

 

『ありきたりな言葉を言うぜ…』

『お前にはこの世界に【家族】ができただろ?

 このまま、死んでもいいのか?』

 

っと言った。


『…』


ーーーあいつは、俺だ。


 だから、あいつの考えていることは分かる。

 自分が、俺と一緒に消滅するのが嫌なのだろう。


 ……、


『フッ、そうだな。俺は死んだんだ。

 【怒り】に負けて死んでしまったら、父さんや母さんを置いてきてしまうな!』


ーーーこの時、俺は【怒り】を完全に支配したのだった。


………………

…………

……


 意識が、現実に戻る。


『よし、戻ってきた『【ファイア・ボール】!』…な!?』


ーーーマナは炎の玉に吹き飛ばされた。

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