第19話 最高の終わり
健仁は再び三瀬学園の広場の前で司を待っていた。
あの後色々とあったが、とりあえずその辺は穏便かつ円満に終わったとだけ言っておく。
特に語ることはないし、大量のフォールも全て駆除された。
というか、あの後、司は一人神殿を出て、残っているフォールをほぼ一人で全て片付けたのである。
もう彼女一人だけいればいいのでは状態。
そして、健仁は保健室で目覚め、戦功やらなんやらを色々支給されて今に至る。そう、お金があるのである。
特級ということもあってかなりの額。何があろうとも問題なくデートを遂行できる。
さらに――。
『あーあー、聞こえますかー健仁くん、オーバー?』
「聞こえますよ先輩。あとそんな風にそれっぽくしなくて大丈夫ですよ。無線じゃないんですし」
『こういうのはぁ、雰囲気が大事なのですよ』
今回はこういうことの専門家、ではなく未来視持ちの鏡花をアドバイザーとして招聘している。
というか、確実についてくるから、それならもうアドバイスくれと言ったのだ。未来視で直接未来を教えられるのはアレだけど、最善の未来に行くにはどうしたらいいかのアドバイスくらいならばいいだろうということでだ。
『はいはい。それより、何で制服なわけ?』
そこに割り込んでくるのは萌絵だ。もちろん彼女は野次馬ではない。恋バナになると見境なくなる鏡花のお目付け役兼ツッコミとして呼んでないが気がついたらいたのである。
「これしかないんだよ」
『買ってないとか、あんたの気持ちはその程度なわけ!』
「え、買えるとこあんの?」
『あんた……』
しんそこ呆れられた声色だった。
一応、言い訳をするがもちろん聞き入れられるはずもない。それに今回は、司の寮を選んだ。
現住所と彼女の部屋も知れる一石二鳥の作戦というなの手抜きである。
『まあまあ、いきなり部屋にいってぇ、もうあんなことやいろんなことをにゃんにゃんしちゃったり! というのがだいご味なのですよ!』
『ちょ、なななな、なに言ってんのよ!』
『およ? うふふふふ、この辺が弱点ですかぁ?』
『ち、違うし、わかるし、大丈夫だし!』
「とりあえず、騒ぐのはこれくらいで。ちょうど来ましたよ」
丁度司が待ち合わせ場所に来たところだ。
彼女はいつも通りの制服。
『ああん、なんで司ちゃんはいつも制服なのです! ちゃんと私服で来るように言ったのに! さあ、健仁くん、聞いてみてください!』
好奇心で人を動かさないでほしいなと思うが、一応は彼女の指示だ。聞いてみよう。
「……お待たせ」
「いえ、今来たところです。ええと、制服なんですか?」
「? 私服で来いといったから私服できたわ」
『じーざす。そうでした、司ちゃんはそういう子ですよね』
『まあ、これで健仁の馬鹿が制服でも問題ない理由ができたって思いましょう』
散々なことを言っているが、それはそれ。
「それじゃあ、来て」
緊張しながら司に続く。
やってきたのは高級マンションもかくやといいった風情の寮だ。流石、学園最強は格が違う。
案内されたのは屋上の一番豪華な部屋だった。
ただ――。
「おお……」
そこに広がっていたのは女子らしい部屋ではない。
とりあえず、一言で言えば汚部屋である。
『うわぁ、司ちゃん片づけできない子です?』
『伊瀬先輩の真実見たりってやつですね』
「とりあえず、空いてるとこに座って」
まずその空いているところがないのだが。というか、色々なものが置きっぱなしだし、武装やら防具類やらが散乱している。
女子の部屋要素ゼロのごみ屋敷にしか見えない。
「ええと……すごいですね」
「……ん、片づけた」
これでも片づけた方と言うのだから恐ろしい。
どうやら戦闘やらなんやらの才能はあったようだが、片づけの才能はなかったようだ。
「ええと、その片づけていいですか……?」
「……ん、良い」
許可をもらったので、健仁は片づけを行う。
塵やらなんやらも多く、時間ばかりが過ぎ去っていった。
「……床を見たのは久しぶり」
挙句司本人はこういう始末だ。
しかも手伝わせたら、手伝わせた分だけごみが増えていく。まず何もさせない方が良いのだと学んだ。
彼女は戦い以外させたらダメなのだろう。
「ええと……また片づけに来ますね……」
「……ん、わかった。ありがとう」
それで本日は解散となった。甘いことはひとつもない。ラッキースケベというお手軽展開もない。
本当にただ片づけただけだった。何か秘密の写真やらアルバム、秘められた趣味が明らかになったこともない。
明らかになったとするなら司のパンツの種類とかくらいだろう。それはそれでお宝情報であるが、もっと甘いのを期待していた健仁には全て余すことなく記録するだけで響かなかった。
というわけで、日が暮れたあとそこそこで別れて健仁は、とぼとぼと寮へと帰還する。
調理器具も食材もない司の部屋ではご飯を食べることもできない。彼女の食事はバランス栄養固形食品とサプリメントという非常に味気ないものであったので、もう健仁も寮に帰ることにした。
不思議なのはそんな感じでも憧れとか恋心は消えなかったことである。むしろ、俺がいないと駄目なのではとおもえて益々好きになった。
とかく、寮へと帰還するとそこには飽きれた調子の二人がいた。
「健仁くん、まさかお片づけだけで終わるなんて! もっとエンタメを提供してください」
開口一番、そんなことをいう鏡花はやはり性格が悪い。
「いや、先輩はわかってたでしょ……」
「ネタバレですからね」
「ま、まあ、元気出しなさいよ。うん」
萌絵も何か慣れない励ましかなんかをしてきた。それほど今の健仁は憐れに見えたようだった。
「はぁ、最高の日だと思ったのに」
最高と最悪は同時に来る。
何事にも最高と最悪は同時に来るものだ。
「安心して良いですよ、次は良いことがあります」
「本当ですか?」
「ええ」
「じゃあ、教えてください」
「ネタバレです。さあ、ご飯にしましょう。明日から討伐任務ですよ。頑張って寮の設備を豪華にします!」
「まずは個室を得られるくらい溜めるわよ」
「うん、個室はほしい」
男子高校生としての色々なものの為にも。
誰かの未来のためにも。
これは過去で未来を殺す物語。
未来殲滅の過去使い 梶倉テイク @takekiguouren
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