お泊まり(1)

 異性とお泊まりってカップルでいったらもう大人な行為に発展するのだろうか。いや、するに決まっているか。

 

 井早坂さんとセックスをするわけないのだが、嫌でも考えてしまう。部屋のら聞こえるシャワー音など、井早坂さんの部屋のベッドに座っているのが原因だろう。

 

 もふもふした女子らしく可愛い柄の毛布の匂いを嗅いでみよう。


「クンクン」

 

 ああ、フローラルな匂いだ。姫乃さんとは違う。

  

 姫乃さんは石鹸の匂いがする。石鹸の匂いはかなり男子受けがいいらしい。姫乃さんも異性からの目を気にしているのかもしれない。

 

 それが僕だったらいいなと思った。


「てか広いなー」 

 

 井早坂さんの部屋はものすごくデカい。それでもって高級感がある。僕のアパートとは全く違う。


 こんな部屋に住んでみたいというのが理想だが、到底、僕には無理そうだ。

 

 と、廊下から足音が聞こえてきた。


 僕は急いで匂いを嗅いでいた毛布をベッドに置き、普通に座る。


「上がったわよ」

 

 肩にタオルをかけ、温泉やホテルにあるようなゆるっとした浴衣を着ている。 

  

 警戒心のない服装じゃないか? とも思ったが、距離感の近い井早坂さんはなにも気にしていないのだろう。

 

 なので、僕は平然とお風呂に入る準備をした。


「じゃあ僕も入ってくるね」


「うん、待ってるわね」

 

 そう動こうとしたところ、あることに気づいた。


「風呂場ってどこ……?」

 

 この広い家の中でお風呂の位置が分からない。


「ああ、そうね。あたし案内するわ」

 

 どうやら案内してくれるらしく、一緒に部屋を出た。親切な対応、というよりも、逆にお泊まりをしていいのか不安になってくるほど井早坂さんは平然としていた。

 

 このままお泊まりをしてもいいんだよな……? いくら異性との距離感が近くとも、異性と2人でとなると井早坂さんも思うところがあるはずだ。

 

 もしかしたら僕だからなんも警戒心も無く、やっているのかもしれない。


「ここよ」

 

 そうして後ろをついて行くと、僕はお風呂場に到着することができた。

 

 覚えることはできなそうだ。


「ありがとう。じゃ……」


「あ、うん……」

 

 ここからは裸になるので見せれない。案内してから一向に動こうとしないので僕はそう促すと、あ、そうだったと気づきその場から離れた。


 チラホラと、お父さんのパンツや、お母さんのか井早坂さんのか分からない下着が見られたが、僕は気にせずすぐにお風呂場に入った。

 

 案内してから動かなかった理由が、下着とかそこら辺に置いてないかなという井早坂さんの不安だったらと思うと、少し申し訳ない気持ちになった。 


 そこまで気づけていればと思ったが、そこまで頭が回らなかったのだ。そこは許して欲しい。


「お風呂も広いなぁ」 

 

 そう呟きながら僕はお風呂場に足を踏み入れた。

 

 温泉とかではないが、湯船には4、5人入れるくらいの大きさがある。


「ふん、ふふふ〜んふ〜ん」

 

 適当に鼻歌を歌いながら、体を流して湯船に浸かった。

 

 井早坂さんが浸かった湯船に、僕は入っているのだろうか。

 

 そう考えると僕の頭がおかしくなりそうだ。嫌でも変な想像をしてしまう。

 

 お風呂に上がった後はなにをするのだろう。ご飯か? さっき美味しそうな香りがしたから夜ご飯は家で食べるのかもしれない。

 

 その後は? 寝る? 寝るとしたら一緒のベッド? 僕は床? でも井早坂さんのベッドは3人くらいは入れるベッドだ。

 

 優しさが出てしまい、床は悪いからと一緒に寝ることになるのか? どうしよう、一緒に寝るとなったら緊張しすぎて寝れるのか? 

 

 いや……これだけは考えても意味がない。全部井早坂さんの指示の元動こう。一緒のベッドで寝るわと言われたらそうするしかないし、床で寝てと言われたら素直に床で寝る。


 よし、もう考えるのは辞めよう。


 そうしてお泊まりのことについて色々考えることが多かったが、少しのぼせてきたのでシャワーを浴びることにした。

 

 シャンプーの香りや、リンスの香り、ボディーソープの香りも全て井早坂さんの匂いがする。

 

 なんで覚えているかって、それはもう、それほど井早坂さんの距離感が近いということだ。

 

 毎回話しかけてくるときには、僕の肌に触り、どこかに誘導するときには、腕を引っ張って体と体をくっつけたり、ときには僕の膝の上に座ってきたりと、ほんとに距離が近いのだ。

 

 膝の上に乗ってきたときなんかは、僕の息子が立ってしまうことがとにかく心配だったが、なんとか理性を保って頑張った。

 

 何回か立ってしまったときもあったが、井早坂さんにはバレていないだろう。

 

 バレてたらマジでやばいけど……。

 

 まあそれほど距離感が近いからこそ分かることが多いのだ。


 井早坂さんの匂いや、どんな香水を使っているのか、今日の口紅の色や、前髪を少し切っているとか、いろんなことに気づくことができる。 

 

(ざあああああああああああ————————)

  

 そうしてシャワーの音が鳴り響く中、僕は洗い終わったのでシャワーを止めた。

 

 そしてお風呂を出ると、井早坂さんが用意してくれたのか、下着や部屋着の浴衣、タオルがカゴの中にまとまって入っていた。

 

 井早坂さんの物と思われる下着類もいつの間にか無くなっていた。おそらく片付けたのだろう。 

 

 僕は用意されていた素材がとても良いタオルで髪や体を拭き、ドライヤーをして、浴衣に着替えた。

 

 とても寝やすそうな浴衣だなと思いながら、僕は井早坂さんの部屋にとりあえず戻ることにした。

 

 この後何するかは井早坂さんが教えてくれるだろう。

  

 任せっきりで申し訳ないが、ここは井早坂さんの家なので勝手に動くことはできない。 

 

 そうして僕は井早坂さんの部屋に戻っていった。

 

 


 

 

 

 

 


 

  


 

 

 

 

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髪を伸ばしていた陰キャ、髪を切ったら人気者になりました 春丸 @harumarusan

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