第4話 髪から蘇る記憶
「紅さん、森川さん、ご気分はいかがですか?」
女の子が口を開いた。
「えっと、あなたは、誰?」
リンが聞き返す。
「初めまして、2人のクラスの学級会長の
そう言うとキイは私たちに封筒を差し出した。
「ありがとうございます。」
「ありがとう!」
お礼を言いながら封筒を受け取った。
「それにしても災難でしたね。入学初日に事故に遭うなんて。」
「でも、死ななかったから大丈夫、です!」
リンはこんな時でも明るかった。
「確かにそうですが・・・ニュースで見ましたけど、直径10メートルほどの大歯車ですよ?それに足を挟まれたって言うのに、よくそんなに元気でいられますね。」
「でも、過去のこと考えてもそれが変わるわけじゃないんだからさ、これからをどれほど楽しく過ごせるかだよ!元気に楽しく!」
リンはベッドからガバッと起き上がった。が、
「痛っ、たたた・・・。」
右足を押さえながらうずくまってしまった。
「言わんこっちゃない!ほら、まだゆっくり寝てて下さい。担任の先生も、怪我が治ってからゆっくり来てくれれば良いと仰っておりましたので。」
キイはリンの背中を支え、リンを寝かせた。
「そういえば、部活ってここは強制?」
私はキイに尋ねた。
「いえ、自由ですよ。」
「良かった。部活に入る気、無かったから。」
するとリンが、
「えー、春夏ちゃん、部活入らないの?一緒に入ろうと思ってたのにー!」
と言ってきた。
「だって部活・・・面倒ですし。」
「1つくらい入っておいた方が良いと思うよ?部活で友達もできるだろうし。」
リンは一歩も引かずに薦めてくる。
「でも私なんかに、友達なんて・・・。」
「できるよ!なんでできないなんて考えてるの?」
「だって私、昔から誰かと話すのが苦手で、友達と呼べる人は小学校に2人いたくらいで中学ではいませんでしたし・・・。」
「じゃあ、なんで私とは普通に話せるの?」
「え?それはリンさんが話しかけてくれるからで・・・。」
「いや、違う。春夏ちゃんはちゃんと話せるはず。話しをするのに、何にも特別なことなんていらないよ。きっと春夏ちゃんは、今まで自分から話しかけようとしなかっただけ。」
リンはじっと、私を見つめて言った。
「私も部活にはなるべく入っておいた方が良いと思います。案外、部活で生まれた人間関係は後々役立つとも聞きますし。もし部活で話せなくて困るのが心配なら、リンさんと一緒に入れば助けてくれると思いますよ。この様子だと、2人はすでに打ち解けてそうですし。」
キイも入部を薦めてきた。
「わ、分かりました・・・。」
2人に押し切られ、入部を決めた私だった。
(やっぱり面倒臭い・・・)
内心ではそう思いつつも、口から出てしまった言葉を無かったことには出来ない。
(私ってやっぱり、気が弱いな・・・)
一つ静かにため息を吐き、ベッドに寝転んだ。
「痛た・・・」
少し体を動かしただけで左足がひどく痛んだ。痛み止めは打っているらしいが、効き目なんて微塵も無い様に思えた。
「最後にこれ、私の連絡先です。もし何かありましたら連絡ください。」
そう言うとキイはメモを私たちに手渡した。
「ありがとうございます。」
「では、失礼します。ゆっくり休んで下さいね。」
キイは私たちのベッドを離れ、出口の方へ向かっていった。キイの髪の黄色い部分が、病院の白い照明に照らされ輝いていた。
私はその時、その黄色い輝きに既視感を覚えた。それは単調な黄色ではなく、ほんのちょっぴり橙と白の混じった、温かみのある柔らかい色だった。その時浮かんできたのは、あの夢のような場所で見た、明るい花畑の風景だった。あの場所で周りを包み込んでいた優しい光の色、それがキイの髪の色にそっくりだった。
(そういえば、あの場所に戻ってきて欲しい、って誰かが言ってたっけ。)
あの世界は何なのだろう。あの人達は誰なのだろう。私の中で膨らむ謎は、あの場所への好奇心を膨らませた。
(退院したらまず、あそこに行こう。)
そう心に決めた。
ギア・ラウンド・エヴリデイ 添野いのち @mokkun-t
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ギア・ラウンド・エヴリデイの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます