歴史を変えた奇跡を産む、2人の主人公の葛藤の物語

物語の始まりは、地表が魔獣に支配され、魔法を使える一部の人間だけが地下に暮らし、少しずつ滅びて行く世界。そこで産まれた双子の姉妹の1人であるリリアが、姉のアシュリーと共に穴倉から外の世界に飛び出して、世界を変える旅に出るのが、始まりの時間軸です。

もう一人の主人公は、平和な村に暮らしていた少年のユーリで、ある日・突如に村に寄っていた年長の美しい女性魔法使いに、家族も村人も全て奪われてしまいます。

一見して、最初は関係が無い様に見えた2つの物語は、魔獣フィンネルの正体や、何故?美しい女性魔法使いが村を滅ぼしたか?、…といった核心を巡り、複雑に張り巡らせられた伏線を通じて、謎解きがされて行き、やがて一つの物語としての姿の全貌を、徐々に明らかにして行くのですが、この過程が常に上質なサスペンスの様に読者をドキドキさせつつ、同時に描かれる人間の持つ醜い本質の重さも相まって、物語に重厚感を増しています。

最後には、リリアの起こした奇跡により、時間軸は修整されて、ユーリも憎しみから開放され、不幸を呼んだ古代の遺産は取り壊され、ユーリにより村は再建され、ささやかな人々の平和な暮らしが営まれる救済で、この物語は終わり、読後感を、とても良いものにしています。リリア(クアドラ)もユーリの記憶の中で生き続けます。

全体を通じての、私の評価としては、この物語は、他の凡百なライトノベルの類いと異なり、人間の愚かさや醜悪さから齎される残酷な結果の表現からも逃げてはおらず(それが逆に気楽なだけのライトノベルを求める軽い読者から避けられる要因になってしまうかもしれませんが)、その事が、常に世界と人間というものに付いて考える読者層の記憶には、消えずに残されて行く深みを持っている、稀有な物語として成功しており、無駄な表現の無い適度な長さの「小説」としてテンポも良く痛快な作品になって居ると、私は考えます。