第10話


ダンジョン五十五層、この階層は時間が経っても夜が明けない。地熱のおかげで気温は保たれているが星明かり以外に明かりはないので、ものすごく暗い。


「それにしてもこの悪魔とか天使とかが見つかったらどうなのかしら?」


あたりの探索を二人でしていると怪しまれると考えて悪魔を召喚したのだが、白葉は白葉で天使を召喚している。


「別にいいだろ、確かに珍しいスキルではあるけど俺たち以外にも天使とかと契約できる人間はいるしな」


「あら、あなた知らないの?地獄ノ覇王と契約ノ覇王を誰かが所持していると私たちが許可しない限り天使や悪魔は召喚できないのよ」


その言葉を聞いた榛恃はキョトンとした表情を見せる。


「え、それはやばいんじゃないのか?」


「そうね、現使王勲章位は悪魔の使役者だったから、次大会からは出れないと思うわよ」


「そうか、それはすまないことをしたようだな」


織守は悪びれた顔もなく答えた。実際罪悪感は感じていないのだ。


「全く反省する色がないわね。私はそれなりの覚悟を持ってこのスキルを取得したというのに…」


白葉が肩を落とし落胆する。織守に対して不満を抱いているのは誰が見てもわかるだろう。


「まぁ、言って仕舞えば使役術で悪魔を召喚しようと、ルシファーどころかバエルにすら通常の悪魔では勝てないからな。俺が出場したらその地位は崩れ落ちるだろ?」


「その人の戦闘能力にも支障がでそうだけれど?」


「そもそもそいつが地獄ノ覇王を取得しに、地獄を攻略しなかった時点でいつかそうなる運命だったんだろ」


「ご都合主義者は嫌いだったのではないかしら?」 


榛恃はご都合主義者が嫌いだ。その事を白葉は知っている。こう言えば本当の理由を教えてくれると考えたのだ。


「まぁ本音を言ってしまうと悪魔を使役はできないからね、召喚して契約することはできるけど使役はできない。だからそいつはルール違反さ。その罰だと思えば、戦闘面に関しても納得していただく他ないだろ」


この発言はかなりご都合主義的な発言に近いため、発言した本人は嫌悪感を感じた。実際織守はこの能力による他人の支障をあまり考えていなかった。


「あら、そこはちゃんと知っているのね」


「自分のスキルの能力程度は覚えているさ」


「それにしては他人が悪魔を召喚できなくなることを知らなかったようだけど?」


少し言葉に詰まる。舌戦は白葉の方が強いかもしれないと織守は感じた。


「自分のスキルの能力はだいたい覚えてるさ」


俺がそういいかえると、白葉がくすくすと笑った。

白葉は、若干Sっ気が強いく、意地悪なタイプに見えるが実際はただのかまってちゃんであるというのが俺の印象だ。なんだかんだ言って話しかけてくることは向こうのほうが多い。


かなり長かった五十一層を抜け、五十二層に足を踏み入れる。五十二層も五十一層と同じく夜の草原マップだ。


五十一層を歩いて思ったことはただ一つ、転移ないと攻略に用意している二週間の期限に間に合わない。


多少バレても、いいからとにかく転移しなければいけなそうである。ちなみに、転移の限界である500メートルは理の瞳の能力最大距離だがちょっとした裏技で魔法発動までの時間と移動距離を伸ばすことができる。


スキル 地獄ノ覇王のついでとばかりにあるが侮れない能力全能力1.25倍による、補正や視覚にまでの能力上昇だ。これらのスキルの能力を使うと体力的にも体内の魔素量的にも消費が早くなるためあまり使いたくはないが、ここに潜って三日、せめて五十六層に辿り着き宿やで一休みしたいものだ。


そう思いながら、効率が1.4倍ほどになった転移を繰り返し、死に物狂いでボス部屋にたどり着いた。



今回もボス戦でアルティメットスキルなどのぶっ壊れスキルは使わない。ダンジョン五十五層のボスはブラックナイト一体。、適正ランクは2ndと言われている。


2ndランクが一対一で良い勝負ができるレベルではあるのでパーティーで当たれば基本的には怖くない相手だが、ブラックナイトの奥の手として、体力が少なくなった時、バーサクモードになり攻撃力が増すというものがある。


攻略セオリーとしてはそうなる手前までけずり、ボスに一撃大ダメージを狙える攻撃を行うというものだ。


それでほぼ相手を削り切り、満身創痍の敵に総攻撃を仕掛けてゲームセットとなるのが攻略パターンとして認知されているが、俺はバーサクモードと経験を得るために戦闘する。



「こりゃだめだな、あんまり変わらないわ。」


バーサクモードになった黒騎士の速度は1.2倍程度だろうか、その程度ではこの実力差を少したりとも埋められない。


「さすがに疲れたから、さっさと宿戻って寝ようか」


「そうね、私は殆ど役に立っていないけれど、ついていくだけで疲れたわ」


「そーだな、あぁさっさと寝たいな」


そんなことを呟きながら黒騎士の首を跳ね飛ばす。そのまま次の改装に上がり、階段を登り切ったところにある56層ポータルで転移した。





織守達は、昼寝と呼ぶべき時間帯の睡眠、及び時間をへて、久々の食事と洒落込んだ。


「この間の報告書は見たのかしら?」


「あぁ見たよ、それがどうかしたのか?」


「貴方は勲章位戦に出るのかと思ってね」


白葉の声のとおんがおちる。


「勲章位戦の予選は今年の十一月、本戦は元旦からだろ、予選まで二ヶ月しかねぇじゃねえか」


「覇王と現人神戦ならいけるでしょ?」


「まぁ今んとこは出場する気はないよ」


「そう、そうなのね」


そう言って白葉の肩が少し落ちた。何を期待していたのだろうかと思案を巡らせるが、思い当たる節がない。相手が聞いてくるなオーラを出していないので率直に聞いてみる。好奇心は他人を不快にさせるが、今回はそう言った雰囲気ではない。わからないことは他人に聞く、俺は普段からそうするタイプだ。ただ、聞き方は考えなければいけない。


「何を期待していたんだ?」


(あ、地雷踏んだかもしれん。フラグとはまさにこのことか)


「期待?そうかもしれないわね、私は期待したのかもしれないわね、できる限り早く著名になれば今のようなことをしなくてもよくなるかもしれないと思ったのよ」


今のようなこと、とはダンジョンの攻略ではなく冒険者を指すのだろう。こう言った血腥いことを白葉は、元々嫌っている。医者となっても解剖(医学的用語の臓器の配置という意味ではない)や、臨床試験などを嫌ったことからも彼女が博愛主義であることが見受けられるように、今のこの仕事は彼女にとって辛いのだろう。


「なんだ、そんなことか。そうだな、だが、勲章位戦に出るにはランクが必要だし、大会予選前にランクをあげ切る方法はこれしかないだろ?結局は道中に出会ったモンスターもボスも倒さなければグダグダと今みたいな生活が続くぞ」


「そんなことって、それにそういって自分を騙しても精神的なダメージはごまかせないじゃない」


「まぁ言いたいことはわかった。俺とお前が勲章位戦に出る。出来れば優勝する。それが今の妥協ラインだな、耐えるしかないとかそういった綺麗事は好きじゃないから言わない」


感情と理論はどう足掻いても違う。綺麗事は所詮綺麗事でしかない。


「私もって、勲章位戦で勝てると思ってるの?」


「そのためになんかテイムしてくればいいだろ?さっさとダンジョンの七十五層をクリアして、主崇摩天楼とか世界樹とかに行こうか」


「デッドラインは世界の管理者の許可がなければが超えることを許されてないのよ?それでは私達が管理者ってことはバレなくとも、管理者を知っているとバレてしまうのではないかしら?」


「そりゃ、シェンロンとかを出せば一発でバレるけど、世界樹の周りにしかいない蒼天蝶とか、主崇摩天楼の桜龍とかはバレないだろ。誰も見たことすらないんだし」


「強さが桁違いじゃない、正体とかそういう問題じゃないでしょ」


「適当に天使でも召喚して神聖魔法のバフの力だって言い張ればいいだろ」


「神聖魔法って、クゲラ神皇国に目をつけられるじゃないの、それにそれが嘘だって見破る人間は必ず出てくるわ」


「天使も召喚できない神皇国なんて、笑い者じゃねぇか。向こうが聖女認定をして来ようが何をしようがこっちは関係ありませんって顔してればいいんじゃねーの?それに嘘だって見破った人間がいたってこっちが認めなければ大衆にとっての真実はこちらが言っていることだしな」


両者一歩も引かない。話は平行線だ。


「はぁ、駄目ね、貴方と舌戦しても勝てなそうよ。わかったわしばらくはそうしてあげる。全く他人事だと思って簡単に言ってくれるわね」


「普段のお返しだ」


そういうと豆鉄砲を喰らった鳩のような顔をした。これは一本とったな。


すっかりと、しんみりした空気とは打って変わって食事として食べているこのパンは口の水分を全て掻っ攫っていくように、この場の空気も拍子抜けするようなあっさりとした空気に変わっていた。日本やイギリスとは違いカラッとしたイタリアのような夏、残暑というべき辺りの気温ははちょうど良く、いや少しだけ暑いくらいに当たりを照らしていた。



ダンジョン七十五層ボス部屋前、道中何組かのパーティーに出会い、話しかけられたりしたが顔などを隠して黙秘し、転移を繰り返した。


ここまでくるのにかかった時間はよく覚えてない。転移するだけの単純作業で、十五時間過ごすのはかなり苦痛だったが全てはこのためだ。このボス戦は普通に大半のスキルを使う。唯一使わないのは愛を謳う獣程度だ。普通は10人が最低ラインで挑むものらしいし、何よりウロボロスは化け物のように強い。アルティメットスキルを使わなければすれすれの戦いになる程度には


75層のボス、ウロボロスが目を開ける。最初の見た目はオレンジ色のヘビだが、空を高速で泳ぐように移動している姿は不気味だ。


こいつは悪夢の第八回層と言われた、ガスマスクが開発される前の毒ガス湿地帯を超える殺傷率を誇る。

ダンジョンでの遭遇死亡パーセンテージランキングぶっちぎりの一位、その殺傷率(死んだ人数÷遭遇した人数)驚異の47%、多くのパーティーを壊滅させ、また、多くのパーティーのメンバーを道連れにしたのがこのウロボロスというボスだ。


(あ、やべ)


余計なことを考えているうちにウロボロスがシャイニングレイという光魔法で範囲攻撃を仕掛けてきた。


俺の知ってるシャイニングレイの威力じゃねぇな。


そんなことを思いながら半透明のクリーム色の膜のようなものの中に逃げ込む。白葉の神聖魔法、真実の盾だ。魔法系のスキルに対してめっぽう強い。


シャイニングレイが止むと、オリジナルスキル綻に地獄魔法マカハドマを纏わせてウロボロスに投擲した。


綻は空間を割いて進むため空気抵抗を受けず、ものすごい速度でウロボロスに突き刺さる。更に纏わせたマカハドマがそこで能力を発動し、氷結された世界があたりに広がった。ボスルームは直径200メートルほどの円形でウロボロスまでの距離は160メートルほど、マカハドマの効果範囲が半径15メートルの球形だからここまでの距離は145メートルはあるが気温が一気に下がったことが感じられる。


ウロボロスはの体の色が赤に変化した。爬虫類の弱点の低気温は対策済みのようだ。動きが鈍っていない。そして部位修復能力も非常に高い。流石は生と死の権化とでもいうべきだろうか。


ウロボロスが地面に潜る、ヒーラー、白葉狙いか。


「防げ!」


その声に白葉は即座に反応し、物理結界シャミテトを張る。


ゴンッと大きな音がして、結界が崩れ去る。

かなり痛かったのか、ウロボロスは地面から出てきて急上昇した。


あいつを地面に叩き落したいが白葉の終焉契約は物理、精神干渉系のスキルであるので魔法で飛翔しているウロボロスには効かない。


「白葉はとりあえず防御に集中しててくれ」


俺はそういいのこして虚数空間を開きその中でウロボロスに向けて飛翔した。


首元に具現化した綻を突き刺す。さらにその距離で滅を使用し空間を歪ませた反動でウロボロスを地面に向けて吹き飛ばす。反作用で俺は思いっきり天井に飛ばされるが、ぶつかる前に虚数空間に逃げ込んだ。


あ、やべ、空気抵抗ねぇから飛ばされんじゃん。止まんねぇよおい。


そんなことを思いながら、虚数空間内で物理干渉、破を使い、俺の運動の向きを逆にし、再び虚数空間から出る。向きを180度変換したため、恐ろしい速度で下に飛ばされるが、ウロボロスに追突するようにそのままの勢いで地面に突っ込む。そして激突する寸前に再び綻で虚数空間に逃げ込み、破で運動エネルギーを消去する。

オリジナルスキルを同時に大量に使えば一々虚数空間に入らなくても運動エネルギーの操作はできるが、すぐに魔力不足に陥るので常時発動などは不可能だ。



して、相手はかなりのダメージを負っている筈だが相手はまだまだ動けそうだ。HPという概念で考えれば残り5から6割といったところだろう。


首や喉を攻撃してもすぐに回復されるため対人間のように一撃必殺とはいかない。 


「蛇の心臓ってどこ!?」


「え、ええと体の4分割目ぐらい!その下は肺よ」


「オッケェェ」


変な声を出しながら両刃槍をストレージに放り込み、中から神滅理剣を取り出す。


回復能力の高いウロボロスには細い槍を突き刺すより大きめの両手剣を突き刺した方がダメージが残ると考えたのだ。


ここまでの会話や思考時間ではウロボロスは復帰していない。


空間の移動ではなく、単純な転移で距離を詰め全力でウロボロスの内側、背骨のない方から突き刺す。


ウロボロスはのたうち回り、空に逃げ自分の尾を噛んだ。

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こんな世界の成れの果て〜転生した天才達はアルティメットスキルを手に入れ世界を手中に収めるようです〜 桃園 蓬黄 @N4Luto

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