第1話 天照大御神 その1



「はぁ……」


 多忙な生活につい、ため息が出る。

 私、天照大御神は、人間調査という名の天界の人口削減で現代社会にいる。

 名前は天津 美香として、サラリーウーマンなるものをしている。


「下界の人間は、こんなに苦労しているのか……」


 天界にいた時は、やけに神頼みが多いなと思ったが、こんな世界なら当然だ。

 休暇は取れない、休憩時間すらない。正月休み以外ない。風邪をひけば有給扱い。神頼みして当然だ。


「はぁ………」


 そうこう言いながら、私は賽銭を投げ、鈴を鳴らして、手を叩き、目を閉じて祈る。


(どうか、休みをください)


 まさか、神が神頼みする日が来るとは……世も末だな。



 一方その頃、天界ではー


「天照様が神頼み!?」

「何があった!?」

「は、早く対応なさらないと!!」

「内容はなんだ!!」

「休みが欲しいとのことです」

「それはご本人が取るしかありませんな。私たちには何もできませぬな。せめて、何か送りましょう」


 天照大御神の神頼みで大騒ぎになったのだった。



「なんだこれ」


 家に帰ってみたところ、一つの包みが届いていた。

 それを開けると中には、肉や果実、魚に米が入っていた。


「これは求めてないぞ……休みをくれ」


 はぁ……休みが欲しい……。




「師走の25日あたりも、しんどかったなぁ……」


 くりすます?とかいうイベントで、休む人が多くて、何も予定がなかった私は強制的に仕事。納得がいかないぞ。


「私だって、くりすます?とやら、楽しみたいのに……」

「あ、天津さん。この書類、まとめてくれますか?」

「あ、は、はい……わかりました」


 またやっちゃったぁぁぁぁ……仕事増やしてどうするの私!?

 はぁ……頑張るしかないかぁ……。

 いっそのこと、転職しようかなぁ……。




「ただいま……」


 家に帰ると、この言葉を言う癖がついている。でも、誰も反応しない。誰もいないからだ。

 鞄を置き、スーツのままベッドに倒れ込む。

 そして、スマホを操作して、天界にいる仲間に連絡する。


『天照:疲れた』

『月読命:お疲れ様ですね♫』


 イラっ。


『天照:人間大変すぎ』

『月読命:ずっとそればっかり言ってますね。こっちだって大変なのですよ。土地代高いし、税金高いし。仕事しても時給低いし。それに、最近導入したインターネットもお金かかるし』

『天照:こっちは食費もあるんだけど?税金なんて、給料から引かれてくし、消費税とかもあるし、生活用品高いところ多いし……』

『月読命:あ、そういえば、仕送り。どうでした?肉と魚と米にしたのですが』

『天照:あれ、そうだったのね』

『月読命:はい。だって、神頼みされたのですから。神様が』

『天照:天界に返りたい』

『月読命:今どこも天下りで一杯です』

『天照:それだと空いてるじゃん!?』

『月読命:まだ、4割の神が住居を持ててないのですよ』

『天照:だからって、私を下界におろす?普通』

『月読命:家が大きすぎでしょ。その罰よ、多分』

『天照:だって、一緒に何十人も住んでたから!!』

『月読命:ま、私はこれから仕事があるので』


 スマホを投げかけて、すんでのところで止める。

 投げたって、壊れて金がかかるだけ。

 金はいくら貯まって……うわぉ……転職しよう。

 たしか、ここら辺にあの本が……。



 翌日ー


「はぁ、天津君。辞めるのかね?」

「はい。辞めます」

「本当にか?」

「はい」

「はぁ……君には、かなり大きな期待をしていたんだかなぁ……」


 私は断れる日本人。私は断れる日本人。きっぱり断らないと。


「ですが、もう決めたことは決めたことなんで。何があろうと、ここを辞めるつもりです。今までありがとうございました」


 上司に向かって頭を下げると、上司は徐に立ち上がって、私の頭を撫でる。そして、一枚の紙を渡してきた。


「あの、これは?」

「退職金についてだ」

「は、はぁ」

「ま、それじゃあな」


 案外、あっさりと終わった。

 これで、ホワイトな会社に入りさえすれば……。



「へぇ、んで、戻ってきたんだ」

「な、何か悪いのか?」

「悪いも何も、住む場所は無いわよ」

「どうせ、すぐに下界に戻るんだ。少しくらいここでゆっくりさせてくれ」


 今、月詠の家にいる。そう、天界に戻ってきているのだ。

 さて、次の仕事は何にしようかな、と考えながら、動画配信サイトで、気ままに動画を見る私だった。

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神様だって苦労する 紙鳶音虎 @shienneko

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