ちょっと何言ってるかわからないんで、死んでもらっていいですか

葉月卯平

ちょっと何言ってるかわからないんで死んでもらっていいですか?

 先に言っておく。


 俺は異世界召喚者であり、最強の、いわゆる俺TUEEEE系主人公である。


というか異世界召喚者って俺が異世界から何かを召喚したみたいだな。なので正確には異世界“ 被” 召喚者というべきだ。






 事の始まりはありきたりだが、学校での授業中に足元が光ったかと思えばクラス全員で異世界のお城に召喚されていたのである。




 あれよあれよとお姫様や王様に引き合わされ(召喚していたのは聖女サマだったようだぜ)魔物が~、魔王が~、とお決まりのお話だ。


そして例にもれずそれぞれのステータスとやらの確認。なんかもっと俺の予想からずれた行動でもしてくれねぇかな。




 予想に反していたのは、勇者が担任だったってとこだな。


もちろん若くて優しくてかっこいい担任、ではなくいたって普通の俺らと同じ年の娘を持つおなか周りと頭髪と体臭を気にするアラフィフのおっさん教師である。一応補足しておくと、厳しいしめっちゃ怖い先生だがおそらく学校で一番俺たちに親身になって教育してくれてる人でもある。




 通常なら勇者に選ばれそうなイケメン君は賢者様だったみたいだ。んで、賢者に選ばれそうな眼鏡美人は暗殺者。暗殺者が似合いそうなチャラ男は神官だ。


それ以外にも予想と反した役割ロールを割り振られているやつが多い。




 おそらくだが、その人間が最も力を発揮しやすい役割ロールを割り振られたのだろう。




先生勇者様はおそらく召喚された俺らの中で最も頭がよく、責任感があり、また家族のために何としても帰ろうとするだろう。


イケメン君賢者様は爽やかで誰にでも優しい顔をしていたが、実は一つのことにのめりこむ性質である。こいつに神話の話をさせると3日はしゃべり続けるだろう。なぜ3日かって? 不眠不休でしゃべって最終的に倒れるんだよ。


眼鏡美人暗殺者はあれだ、こいつクラスで一番厨二病患ってるから。中学二年生から抜け出せていないから。


で、最後にチャラ男神官だけど、こいつ家が神社でしかも菜食主義。見た目と言動がチャラいだけで女子と触れ合うとか殺生するとか一切ないから。俺らの年考えたら多分一番ストイックな生活してんじゃねぇかな。




他にも色々あるけど今回は割愛。


俺?俺の役割ロールは――だ。


ほんと何言ってるかわかんねぇよな。俺もわからん。




 とか考察しているうちに、部屋から偉い人たちが出て行ったわ。で、どうやら俺たちもいったん部屋をもらって休むらしい。




 つっても、部屋の場所確認したら城の外に集合だとさ。まぁこんな異常事態だ、一人になったりはしないよな。
















 さて、お部屋確認して城の裏庭に集合して今後のことを話し合っているのだが。


まぁまとまらないね。いや、勇者や賢者とかの役割ロールを振られた奴らは比較的まともなんだが、それ以外の平民とか農民とかの奴らが……何というか、ありていに言えばすねちゃって。




 まぁ彼らの言い分はわからんでもない。せっかく異世界に召喚されて、魔法とか剣術とかで魔物倒したりしてかわいい女の子やかっこいい男の人なんかとキャッキャウフフしたり、英雄として大勢から尊敬されたりできるぜ!とか思ってたらまさかの平民・農民だもんなぁ。そりゃがっかりもするわ。




 しかも、今回そいつらの代表みたいになってるやつらが男子剣道部主将とチアリーディング部のレギュラーだもんな。そりゃ剣士の役割ロールを振られた奴はサッカー部のマネージャーだし、踊り子の役割ロールを振られた奴は保健委員ではっきり言って顔面偏差値もそこまで高くない奴らだからな。


まぁ俺からしたらそれも適材適所としか思わないんだけど。




 だって、この世界には魔物がいるんだぜ? そこの世界の平民の身体能力とか押してしかるべし、って感じじゃん? 顔面偏差値なんて、そもそも人種が違うからぶっちゃけそこまで関係ないし?


いやぁ、だれがこの役割ロールを振ったのか知らないけどマジぴったり!




 とまぁ、自分たちの役割ロールに納得できない奴らがいちゃもんつけてるわけなんだが。


だんだん声も大きくなってきて、そしたらまぁ、来るよね、お城の巡回してる兵士さんたち。


で、もめてるのが勇者御一行だから、偉い人――今回はお姫様ね――も来ちゃうわけで。


お姫様の提案で食堂でお茶することになりましたとさ。












 さてさて、お茶会の結果?オレたちはお城の兵士さんや騎士さんに修行をつけてもらうことになりました!いやぁもうなるべくしてなったとしか、ね? だって、勇者様たちは最初、ありていに言ってこの世界の人物――まぁオレたちが会った王様とお姫様なんだけど――は信用できないってスタンスだったわけだ。もちろんオレも同意見だね! にもかかわらず、お姫様同席のお茶会になってしまったわけで。信用できない人物の前で あなたは信用できません! なんて言えるわけもなく。




 まぁいろいろ頑張ってはいた。この世界の常識がないので、とかもっと情報を集めるために城下に下りてみたい、とか魔王に立ち向かうために旅に出る、とかとかとか。突っ込みどころ満載だけど、どうにか城から離れられるように言葉を重ねた。


でも結局は勇者たちは城での修行、その時間に平民・農民メンバー中心で城下町で情報収集って形に落ち着いた。勇者様たちは一目見たらわかってしまうから本格的に旅に出るまで城下には下りられないんだって。ほんとかな。




 で、平民・農民メンバーは異世界の知識を教えてほしいってお姫様にお願いされてたよ。勇者様たちのための情報収集だけってことで不満が顔に出ていたのがばれたんだろうね。お姫様に あなた方しか知らない知識や情報を教えてほしいのです。勇者様方が修行されている間だけでも良いのでわたくしの部屋でご教授いただけますでしょうか。 とか言われて鼻の下伸ばしてた剣道部主将改め平民は気づいているのかな?結局城下に下りられなくなってるんだけど。まぁ最初から下りるつもりがなかった人たちだからしょうがないんだけど。








 で、結局お城での修行と異世界の知識の吸出しは無事終了して今から魔王を倒す旅に出るわけだが。


いやいや修行ってほんの1か月足らずですけど?もっと言うとその間に勇者様たちも若干お城の人たちにほだされかけてますけど?ほんと大丈夫かな……


勇者様は城のメイド長(娘あり、未亡人)に自分の妻子のこと重ねちゃってなんだかんだほおっておけなくなってるし。


賢者様はオレたちを召喚した聖女様とこの世界と元の世界の神話について考察しているうちに深い仲になっちゃってるし―っていうか、いいの?聖女様とやらが深い仲になっても?あ、賢者様ならいいの。そう。―


暗殺者は……内なる自分が恐ろしい?あ、そう。ガンバッテネ。


神官様は、まぁ日本は多神教だもんね。自分の家の神様は特別だけど、それとこの世界の神様を信じないのは別だよね。物の数だけ神様いるもんね。大事にしなきゃいけないよね。うん、なんか新しい宗教みたいになってるけどガンバッテ。


平民・農民の皆様は……へぇ、お城に残るの。足手まといになるから?へぇ。




 まぁそんなこんなで、今日は出立の儀式―― 形式上しとかないといけないんだって。勇者様たちの権威付け?らしいよ――があるわけで。そこで勇者様たちに伝説の武器を授けてくれるらしいよ。


ここまで来たらなんとなくわかるよね、それって本当に伝説の武器?ってやつ。平民・農民の方々のいかにも企んでます、っていう二ヤついた顔からもわかる。ほんと人間の程度が知れるよ全く。


彼らはさ、結局、良くも悪くも普通の人間だったってことだよね。自分を特別だと思ってて、自尊心が高くて、朱に交われば赤くなっちゃう人間。




 まぁそんなことより今日の儀式をどう乗り越えるかが本題だよ。






















 さてさてさて、やってきました。儀式のお時間です。国民に広く見えるように王城の大きなテラスで行うようです。勇者様を先頭に王様の前に跪いてます。王様はいったいどうするのでしょうかっ?


なぁんて言ってはみたものの想像はつくってもんだ。おそらくこの場で俺たちを隷属させて、さらには国民という名の善意の監視者を大量に作る。いいねぇ。わるいねぇ。


もちろん?俺はそんなことはお見通しってやつだ。王様もお姫様も自分たちに都合よく進むと思ってやがる。国民に監視されてるのはあんたらも一緒だってのにな?




「異世界より呼び出されし者たちよ。我が国はそなたたちを勇者と認め、その証をここに授けんとす。」




 たいそうな言い回しでもって人数分の腕輪らしきものを乗せた台が王の目の前に運び込まれる。


明らか怪しすぎんだろ。まぁでも? みんなおとなしくひとりひとり王の前に行って恭しく腕輪を受け取りはめていく。んで、あと一人で俺の番だ。さて、俺はほかの奴らとは違うっていうのを見せつけようかね。王にこの腕輪をはめようか? それとも殺してこの場を恐怖に陥れようか? こういう場合の王道ってだれか一人が生き残って復讐するんだったか? まぁいい、早く俺の番が




「ほんと、バカばっかりだよねぇ」


「は?」




はやる気持ちを抑えながら腕輪を受け取りに行こうとしたとき、横をすれ違う俺より先に腕輪を受け取った奴がぼそりとつぶやいた。




と同時に、王様の首が跳ね上がった。




「え?」




 おかしいだろ!王様のたくらみとか気づいていたのは俺だけで、王様を殺すのも俺で。


この後は王道にのっとって奴隷とか手に入れて、ほかの国を蹂躙したりして。


そうやって俺の世界作って、女侍らして男はこき使って。でもそんな俺を一途に愛してくれる奴が大勢いて。




それなのに王様の首が跳ね上がる? 俺の筋書きを横取りしやがって!




……いや、逆だ。王様の首は床に落ちたのだ。絨毯の上を数回はねてとまる。


跳ね上がったように見えたのは、俺の視界が上下反転し、t




「いやぁ、ほんとにさ




ちょっと何言ってるかわからないんで、死んでもらっていいですか」
















































































































































え?結局あんた誰って?


オレはオレだよ。なんの役割ロールも割り振られなかったただのモブ。




まぁ、だからこそ隷属の腕輪にも支配されないし、王様とか勇者とか殺すことができたんだけどね。




この世界は物語だよ。役割ロールがすべて。


だから、魔王は勇者にしか倒せなくて、王様は平民でないと殺せない――だって革命は民衆が起こすものでしょう? ――


奴隷を開放するのは英雄だし、賢者は英知を深め、神官は信仰を広げるもの。


暗殺者は……


とにかく! この世界は役割ロールがすべてだからその台本に乗ってないことはなーんにもできないの。


だからね、たとえ“神様”っていう役割ロールを与えられても、君が思うようなことは何もできなかったんだよ。


ざーんねん!


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ちょっと何言ってるかわからないんで、死んでもらっていいですか 葉月卯平 @pharm23101

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