友達の弟が可愛すぎる件。

太陽

第1話 友達の弟が可愛すぎる件。

 友達の弟が可愛すぎる件。


 私は木器由比(こうずきゆい)。


 ごく普通の高校二年生……十六歳である。


 私には親友が一人いる。その親友の名前は町村恵子(まちむらけいこ)。


 私の隣を歩くケイコに視線を向ける。


「今日はケイコの家で勉強をしようよ」


「今日も私のウチ? 良いけど……。アンタ、私の家に来ても、ケイスケをからかっているだけで全然勉強進まないじゃん」


 ケイコは疑念を持った目で私の方を見る。


 ケイスケとはケイコの五つ下の弟である。うん、この子が可愛いんだ。


 髪の毛がさらさらしてさ。


 目がくりくりしてさ。


 もう本当に可愛いんだから。


 ただ、私が抱き付くときょどきょどして、すぐに顔を赤くなっちゃうんだけど。


 まぁそこもまた可愛い。


 私が一人っ子で弟や妹に憧れていたってのもあるんだけど。


 うん、可愛い。


「そ、そんなことないよ?」


「そんなこと言って……三日前だって」


「そうかな? そうじゃない気がするけど? あ……アレ。あの後ろ姿はぁぁぁあぁぁ!」


 私の少し前には黒いランドセルを背負った少年が!


 よく見慣れている後ろ姿が目に入った。


 そしたら、私は走り出した。


 そりゃあもう、陸上部並の全力の全力で走った。


「ケーイちゃん!」


「あ」


 走った私はケイちゃんに接近して、後ろからランドセルごと抱き付いた。


「お帰り。ケイちゃん」


「あわあわ、ゆ、ユイさん」


 私が抱き付くとやっぱりケイちゃんは赤面して動揺した声を上げる。


「ケイちゃんも今帰りなんだぁ」


「ユ、ユイさん、あわわわ」


「ふふふ、ケイちゃんは相変わらず可愛いよね」


 私がケイちゃんの柔らかいほっぺたをつんつんする。


 そうしていると、不満げな様子のケイコが後から追い付いてきた。


「もう! ユイったらそんな急いでどうするのよ?」


「ハハ、ごめんなさい。ケイちゃんが可愛いから……つい」


「何がついよ。いつもそうなんだから。ほら、道の真ん中で何やってるのよ? ほら私の家に行くんでしょ?」


「はーい。ケイちゃんもほら行こう?」


「あわわわ」


 ケイコが先に歩き出してしまった。私はそれを追いかけるために抱き付いていたケイちゃんをいったん離した。


 そして、私はケイちゃんの手を掴むと、ケイコの後ろを追った。




 それからいつも通り私はケイコの部屋で勉強会をやることになった。


 もちろんケイちゃんも一緒に。


 ただ、その日は勉強会の途中でケイコが母親に買い物を頼まれていたのを忘れたとか言って席を外した。


 今はケイコの部屋のローテーブルを挟んで、私とケイちゃんが二人で勉強をしていた。


 うん、私はたまにケイちゃんに……ちょっとだけ、ちょっとだけ、たまにちょっかいを出したりしながらだけど。


 そして、さらにその日はいつもと違うことがあった。


 ケイちゃんが可愛く赤面しているのはいつもと変わらないが……。


 ケイちゃんがゆっくり……そして、小さく口を開いた。


「ぁ、あの……」


「ん?」


「え、えっと」


「ん? ふふ、どうしたの? ケイちゃんとおしゃべり」


 ケイちゃんはかなりのあがり症らしく、ケイちゃんとの会話はかなり貴重。


 私はケイちゃんの言葉をワクワクしながら待機する。


「あの……」


「うん」


 ケイちゃんはいつにも増して赤面して、歯を食いしばっているようだった。


「えっと……あのあの」


「ゆっくりでいいよ? 一回深呼吸する?」


「……すうすう」


「ふふ、頑張って」


「は、はい。あ、あの……ぼ、僕と付き合ってください」


 ケイちゃんは私をまっすぐに見据えて……はっきりと言った。


 鈍感だとケイコに言われる私だが、今のケイちゃんの告白がご飯や買い物に付き合って欲しいと言う話ではないことがしっかりと分かった。


 私はケイちゃんの告白を受けて、ローテーブルを回り込んでケイちゃんに抱き付いた。


「うん。ありがとう。ケイちゃんの気持ちはちゃんと伝わったよ」


「あわわわ」


「けど、ごめんなさい」


「うぅ」


 ケイちゃんは俯き泣きそうになる。


 私はそんなケイちゃんの頭を優しく撫でる。そして、ゆっくり口を開いた


「落ち込まないでよ。これはケイちゃんのために言っているんだから」


「え?」


「ケイちゃんはきっと良い男になるんだよ。今こんなに可愛いんだし。将来、良い男になるよ。そうなった時、いっぱいの選択肢の中からちゃんといい女を選んで欲しいな」


「……わかった。将来……大人になったら付き合ってくれる?」


「その時になったら……たぶん、何の取り柄のない私じゃ、いい男になったケイちゃんの隣にいるのはふさわしくないかな」


「うんん、そ、そんなことない!」


「ふふ、ありがとう。ケイちゃん。やっぱり可愛いよぉ」


 私はケイちゃんを寄せて強く抱きしめた。すると、ケイちゃんはやっぱり赤面するのだった。




 十年後、私は社会人である。


 年齢は二十六歳になっていた。


 ただ、今日は正月休みに帰郷していてケイコと二人、某有名居酒屋で飲んでいた。


「うぅ……」


 私は空になったビールジョッキを抱えながら、机に頬を付けていた。


「オンサ、ちょっと飲み過ぎじゃない?」


「だってぇー。別れてくれってー」


 先月まで付き合っていた彼氏と別れた私。


 やっぱり、こだわり……結婚するまで体を許さないというのは重いのかなぁ。


 このままではアラサーのど真ん中にドストライクだよねぇー。


「はいはい、残念だったね。けど、アンタの彼氏は二股かけてた糞野郎でしょ? それに相手を孕ませたとか?」


「うう……それはそう……だけど! ビールおかわり!」


「あぁーもう飲み過ぎだって」


 これはもうヤケ酒である。


 ケイコは私の服を掴んで、止めようとしてくれるが。


 今の私は止められないよ。


 うん、止められない。




 それで三十分した時、私は世界が揺れて机に突っ伏していた。


 そんな私の体を誰かが揺らした。


「うぅ……私なんて」


「ユイさん、ユイさん」


 私は聞き覚えのある声を聞いて、体を起こした。そこには可愛らしい面影を残しつつもカッコよくなった男性……ケイちゃんがいた。


「え? ……ケイちゃん?」


「俺は……大人になった今でも好きだよ。ユイさん」


 私がケイちゃんの変貌に呆然としていると……ケイちゃんはニコリと笑った。




 十年後、友達の弟がカッコよくなってしまった件へと続く?



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