対能力者演習


 0番隊に来て数日が経過したある日。指令等も無く、通常の業務等や鍛錬。デスクワークなどをしていると仕事場に成田さんが入って来た。


 「仕事が来たぞー、時期は今日。と言っても今回は3番隊との訓練だから演習つった方がいいんだろうけど」


 出る事は決まっているらしいので支度を整えながら気になってる事を確認する。


 「こっちからは誰が行くんですか?」


 「んー、とりあえず俺と廉君。俊介とみなちゃんと狂刻の五人って予定かな。遠出に出てる奴も居るからそこはまあ毎回全員って訳にはいかないからな」


 「なるほど。ありがとうございます」


 武装を整えて武器のメンテナンスをしている際に今日交流する3番隊の事を思い返す。


 3番隊は過去に一度だけ軽く戦場で目撃した事がある。基本的に他の隊との交流が少ないではあるのだが隊の数字が上に上がれば上がる程その交流が薄くなっていくのが基本で実際に3番隊より上の隊には会ったことすらなかった。それこそリーダーであるさんが初めてなくらいだ。


 「その感じじゃ交流は……ないか。確かに1〜3番隊はウチと密接にしてるから中々出会わないかもな」


 関わりがほぼ無いこちらの様子を見てそんなネタバラシをして和ませてくれる成田さんであった。


 ★


 集合場所である室内の戦闘施設に到着すると内部には既に3番隊の人達が居てこちらを見るなりざわざわと騒めきだす。


 「おい、あいつもしかしたらラックマンじゃねぇか?最年少の」


 「異動になったのは知ってたけど、まさか能力者になっちまったとはな」


 「運で能力者になったってんなら温くて笑っちまうな」


 会話の内容は何となくこちらにも聞こえてきて少し不快な気持ちになるが隣で軽く殺気を出している水無月さんを見て彼女を落ち着かせてるとうるさくなった現場を統率する者が現れた。


 「静粛に。まずは今日の演習の監督役になった相楽だ。演習内容としてはこれまでと変わらず対能力者を想定とした戦闘術の鍛錬だが、一部変更がある」


 相楽と名乗った彼の顔を見ると見覚えがあった。確か彼は3番隊の隊長でもあり戦場の戦果も有名な話が多い。


 そんな人が作戦を伝えていたのだがこちらの方を見て指を差す。


 「そこにいる彼。浜碧廉と能力者で戦闘をさせ、立ち回りやスキル。我々の動きに定着

させる謂わば勉強会だ。各々気になる事があればすぐ聞く様に」


 いつの間にか戦う事が決まっていた事に自分自身が一番驚くものの抗議する隙がない為何も言えずに押し黙ってしまう。


 そんな中で隊の中の一人で相楽に対して質問をする。


 「あの、彼は能力者ではないと聞いていますが先日の制圧作戦の情報が伏せられていて未知数な部分があるので実力的な所を少し聞きたいです」


 尤もな事を言っている。実力を知らぬままで相手を知るのは難しい事だとされる。相楽もそれを理解してかその問いに丁寧に対応する。


 「うむ、いいだろう。この者は先日の包囲殲滅作戦にて唯一の生還者であり、能力者と単騎で戦闘し初めて生き残った者だ」


 過去に同じような事をして亡くなった者達がいるという話を前に聞いた。自分もあとほんの少し遅かったら彼等と同じような末路を辿っていたのかもしれない。


 相楽の話に隊の皆が驚くが大した人間ではないというのは自分一番分かっている。問題はそこではなくて。


 「あのーすみません成田さん、俺はこの話今初めて聞いたんですが?」


 「んあーーー、ゴメン?」


 完全に伝え忘れていた様で成田さんは完全に惚けていた。恐らくはこの感じだと癖だと思うのでこちらがこれから付き合って行かなければならないものだと思いため息を付く。


 「もう良いですよ、ちょっと身体を動かしたいって思ってましたし。役に立てるかは分からないけど出来る事はやりますよ」


 「お手柔らかにお願いね〜?」


 茶化した言い方をする成田さんだが、この際だから戦闘力の差を知っておきたい。


 「それは無理な話ですね。全力以上の事はしないと能力者に立ち向かえないですから」


 「おー、こわ」


 手をひらひらと振りながら所定の位置に向かう成田さんを尻目にこちらも黙ってスタート地点に足を進めた。



 カウントダウンが行われてスタート音と共にリーダーに突っ込む。しかしその倒そうとする想いは最も容易く彼の能力の前に阻まれた。


 重力の個人に対する使用、重さが加わるだけで人は簡単に動けなくなったしまう。


 「ダメだねぇ、廉君。いきなり来るなんて行儀が悪くて相手出来ないよ。俺の能力、少しでも見てなかったのかい?」


 「前の任務の最後にあんなの見せられたら普通は真っ先に仕留めに行きますよ」


 グラビティ・ゼロ、おそらく個人に向けての使用は殆ど無いと考えられるその力は禁忌技というのに登録されており普段は使う事が認められてないと考えられる。


 「ここでは普通は良くない事だけどって、おお。やるねぇ?」


 彼が喋る間に銃弾を素早く撃ち込んで距離を取る。


 「良くあの状態から撃てるもんだね」


 「重力の負荷が掛かってる所で緩い場所があるように仕向けただけっ!?」


 同じく話す間に彼の能力の餌食になる所だった。横にすぐさま避けてから移動しながら思考を行う。


 「まあ面倒くさいからやってなかっただけだからそこはミスだったね」


 こちらを狙った重力に自身を守る重力。それらを除いても他に何かあるかも知れないと警戒しながら個人に掛ける重力に引っ掛からないように常に動く事を止めずに避け続けて銃を撃つ。


 しかしこのままでは状況が不利になる事に変わりはないのでここで少し仕掛ける為に真っ直ぐ向かう。


 「ぐっ!やはり無理か」


 大胆な行動を逃す敵ではないので重力に引っかかった際にわざと色々と武器を落として軽装にしておく。


 「さて、なんか試してたっぽいけど。結局囚われちゃったわけで……これでいいの?」


 「勿論、これで良い」


 既に手に持っていて重力下でも手放していなかった銃を撃ち彼の後方に転がっていた手榴弾に当てて起爆させる。


 即座に後方に退避して動きやすくする為に軽装にしつつ、アサルトライフルに切り替えて爆発で一時的に煙掛かった空間に銃弾を連続して撃ち込む。


 「はぁー怖い事すんねぇ廉君は。下手しなくても自分も食らう可能性あったろうに。まそういうぶっ飛んでる所がウチ向きで入ってる訳なんだけどね」


 無傷で重力で自身の周りに重力の壁を貼りながらガードする彼に戦慄するが構わずにこちらに対して能力を使用させない為に次々と銃弾を撃ち込み続ける。


 「効かないし守るって分かってましたから計算内です」


 「いやー照れるねー。銃弾をやめてくれたらもっと良いんだけど」


 この間に撃ち込んだ銃弾は凡そ数百発、そのどれもが無駄撃ちという形ではあるものの心情の変化として得られるものがあった。


 「無理です。って言いたいところですが諦めます。どうにもアイツがチラついて腹立ちますしね」


 脳裏に同じ様に銃弾を静止させるリョウキの存在。顔や体格は異なるものの、復讐の際に彼に試そうとしていた作戦を少し変える。


 「んで、ここからどうするの?何か仕掛けようとしてるみたいだけど」


 一歩も動かずにただひたすらにこちらを伺う成田さんは何かに備える体勢に変える。


 読まれていたのかもしれないが内容が把握された訳ではない。警戒心が増えただけで別段大した事はない。


 「幸いそっちから仕掛ける事は少ないみたいですし、好きにやりますよ」


 息を整えて覚悟を決めて再び彼の懐に入り込もうとする。


 「来るか、まあそれしか俺に対する正攻法無いからしょうがないっちゃしょうがないんだけど……来れるかね、それ?」


 近付くにつれて身体が動きにくくなり、肉体の反応が鈍くなる。


 対策として常に動き回る事によって変化を生み出して難を逃れながら彼の能力の重力化での戦闘術を編み出そうとするが少し上手くいかない。


 「くっ、まだ直近5メートル内まででは動き易く立ち回るのが出来ない」


 「甘いよね。実際にそれで勝てたら苦労しないよ。少しこっちの能力が理解出来たからといってそんなに簡単に攻略出来る訳無いじゃん。舐めすぎよ、俺は甘く美味しい敵じゃないんだぜ」


 脅威では無いのが実の所の真実だろう。しかしながらほんの少しの余裕僅かな慢心があればこそのこの作戦だと思っているので迷わずに惑わされずに自分のすべき動き回る行為を続けながら距離を詰める。


 「この辺だね。そろそろ何かするんじゃないの?」


 成田さんも薄々理解しているという状況で作戦が少し成功するかどうか不安になる。しかし迷っていたら先にこちらが力尽きてしまう。


 迷うな、試さなければ何も得られない。


 ふとそこでかつての上司である大源隊長の言葉を思い出す。


 躓き続けている自分に言ったセリフだったのを覚えている。内容は大した事ない対人練習の事だった筈だ。


 今の状況と心がどこかでシンパシーを感じていたからあの言葉を思い返したのだろう。頭だけで考えて背負ってリスクに悩みすぎている。


 「ああ、覚悟は決まった。死ぬ気で勝つ」


 前進して勢いよく前に走りながら後ろに爆弾を投げるとそれをハンドガンで撃ち抜いて爆発による加速を行う。


 炸裂した威力の被害を背中で受けつつそのまま成田さんの前まで押し進み重力の壁に阻まれる。


 「自爆特攻じゃんそれ、毎回それだと命捨てに行ってるだk」


 刹那、再び発砲音と共に周囲が白煙に包まれて周囲が見えなくなる。


 少しだけ成田さんの意表を突かれた顔を見れたので良かった気がする。


 「おーい、大丈夫か?一応まだ続けるならやるけど」


 煙が晴れて辺りが見える様になると成田さんの胸元に銃弾が当たって出血している事に周囲が騒めく。


 しかしながらそれ以上にこちらの霰もない姿に目を痛める人のほうが多かったかもしれない。それだけ今回の傷は大きかった。


 「それ……防ぐん、すか。ちゃんと……意識は、保って、ます。もう、戦えないけど」


 リタイアの宣言と言える発言と共に即座に相楽が現場に介入して事を成す。


 「そこまでだ。決着は付いた。至急、浜碧廉を搬送して治療するように」




 浜碧が運ばれて行き、全体の休憩を取る事になると椅子に座る成田の隣に相楽が腰掛ける。


 「まさかお前が一撃を貰うとは思ってもなかったぞ。凄い奴だなあの浜碧廉という男」


 「そうだね、俺が本気でやってないって理解してそこに付け込んで全力以上の戦い方をして可能性を作ろうとしてた。普通じゃなくても諦めると踏んでたんだけど」


 ついでに能力の推定射程範囲、有効範囲、能力使用時の隙や連続使用時間なども調べていた様だがその殆どは活かされる事がなかった。


 時間が経てばもっと可能性を得られていたかも知れないと成田は少し冷や汗を掻く。


 「聞いていた話とは異なる形になってしまったな。本来は対面で肉体戦をしてその中で能力を軽く使った時にどうするかみたいな想定だった筈だが、あんなのは参考にならん」


 渋く唸る相楽。確かに尤もだと殆どが思うだろう。個人的な肉弾戦でも多少の自信のある成田であったがあの武器との組み合わせによる攻撃には中々対応出来る気がしないと思い返す。


 「ただの鑑賞会になってもんね。まあ全体の指揮は上がったんじゃない?みんな喜んでたよ。最後は血の気が引いてた人が少なからず居たみたいだけど」


 実際に目の前で見ても気分が良いものではない。出血多量に抉れた肉体、炭化した人体の一部に多少骨が見えている部分も存在してた。


 しかしながらそれ以上に勇気ある行動に心打たれる者の方が多かったという状況は案外このASFRECTは常軌を逸した集団だという事の証明なのかもしれない。


 「フォーチュンライザーとか噂で言われてるのか?アイツ。新世代と言われてはいるが他にも化け物クラスのがいるって事なのか」


 新しい流れへの抵抗感なのか相楽は歓迎した態度こそ取らないもののイマイチ良い反応ではなかった。


 「いやー、一応新世代の候補に能力者とか優秀な人材は居るけど流石にあそこまで優れた子は居ないんじゃないかな?俺が傷を負うなんて久しぶりの事だし。おそらく人生で5人目?とかだし」


 成田が肩を叩くと近くの胸筋付近に銃痕が相楽の目に入る。


 「傷、大丈夫か?弾丸を直接捻り込まれた様にも見えたが」


 「ああ、それは幸い途中で能力で止めて貫通させないようにしたからセーフだったけど危なかったもんな」


 幸い、というよりかは普段から能力をして使用しているのかもしれない。手を抜くタイプの人間ではあるものの、自身の危機には敏感な男だと成田の事を捉えている。しかしそれでも尚、浜碧の瞬発力には一本取られたという事なのだろう。


 「治癒も断られてたしな。意固地になって向きに能力使ったお前が悪い」


 「うっせ、廉君がガチだったの!あんな風に来られたら普通に戦うしかねぇじゃんか」


 仲間の治癒使いに回復を断られて怒られた事を根に持っているのだろう。態度が変化して少し捻くれ気味になってるのを見てより成田の対応を疑る。


 「つまり本気だったと?」


 「いや、本気ではないけどそれなりに対能力者戦くらいには使ってたとは思うよ」


 本心はなのだろうが、事実としては未だに驚いている。報告で耳に通していただけだったが実際に見るとこうも異端であるかが良く理解出来る。


 単騎で能力も持たずに戦闘を行える可能性の塊、能力者に如何に戦いを挑むのが良いかという立ち回り。そしてそれらは同時に相楽の心に火を付ける形として結果になった。


 「さて、俺も少し勇気付けられた事だし演習に戻るかね。ウチの隊の奴らもウズウズしてるようだし今日はいつもより多めにやることにするかね」


 浜碧の活躍に鼓舞されて演習をする為に立ち上がる。隊の皆を集め、これから先の可能性見た相楽は久しぶりに顔が嬉しさで軽く緩んでいた。

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