10
先生のことで頭いっぱいだったけど、詰め寄るアメリとか、変な夢を見たな。気分を変えたい。真剣を使うか。
いつもなら樹で作られた、──当たれば痛いけど、大きな怪我になりにくい方を選んでいる。修練場へ来るまでに鐘の音が聴こえた。俺が居なければ帰るだろうし。
左右のステンドグラス。様々な色をしながらも、差し込む光りは温かな陽をしている。光に沿い、視線を落とす。きらり。真剣に当たり跳ね返った。
「アメリ、まだ居たんだ」
俺の声が聴こえたのか、アメリは振り返る。ゆらゆら、頬を赤らめて。
「聞きたいことがあって、待ってました」
「聞きたいこと?」
なんだこれ。何か、なにかに似ている。そうだ。夢の内容と。…──嘘だろ、正夢だったのか!?
「シオン、答えてくれますよね?」
じりじり詰め寄ってくるアメリ。真剣を持った腕はダランと垂れ、剣先は地面の石と擦れ、不快な音となり耳にこびりつく。
「答えられる範囲でな……。剣が傷むから、地面から離さないか?」
「誰のことを思って、ぬいぐるみにキスをしたんですか!!」
急に力を入れたと思えば、上から振り下ろしてきた。ギリギリのところで構え、防ぐ。金属のぶつかる音が広がった。
「ぬいぐるみにキスって何だ、変なドリンクを飲んだ後は記憶が無いんだ……。迷惑をかけたなら謝るよ」
「覚えてないんですか?」
「身体が熱くなって寮を出たまでは覚えてるが、その後のことは全く」
「言い訳は聞きたくありません」アメリは剣先を半円描いたあと勢いよく振り払う。あまりの力に押され、俺が持っていた剣は宙を舞う。目と鼻の先、アメリは剣を向けてきた。「誰を好きか、答えてください。いいえ、違います。私と付き合いなさい」
「──…ハ、ハィ~」
勢いに流され、肯定してしまった。足の力が抜ける。続けてアメリもその場に尻をつけた。両手で顔を覆いながら。
もしや、恥ずかしがっているのか? 付き合えと言っておいて。
「あぁ~もう! 何なんですか、あのドリンクは」
「ドリンク……、は? アメリも飲んだっていうのか!?」
「マルテにお願いして、貰いました……。女子のほうでは、ぬいぐるみだったんです。でも効果は期待できないと知って……だとしたら、ドリンクの効果でキスしたという事になります……」
「覚えてないから、何ともいいようが無い……ん? ほんとに飲んだのか? 俺は覚えてないのに」
「シオンは、量が多かったみたいですよ」
あいつら、ほんと、ふざけ過ぎだ。そのせいで二日眠るって。
「付き合えと言ったよな? 信じていいか?」
「出来るなら、そうしたい気持ちはあります……」
「それじゃあ、あんな事や、こんな事も。問題は無いってことだな?」
「言い方に問題がありますよ!」
「付き合ってないと出来ないことだろう」
「そうですけど、恥ずかしいじゃないですか……」
その時になれば、俺だって戸惑う。アメリに嫌な思いはさせたくないからな。準備がまだなら、信じて待つよ。
手を伸ばす。思ったよりぎこちなくて、視線を上げたアメリの、綺麗な瞳と重なる。頭を撫でるだけなのに。互いに、ふっ──、と口元がゆるんだ。
とりあえずは、ここまで。
おしまい
君だけに、ちょっかいを掛けたいんだ 糸花てと @te4-3
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