第9話 変人の弟子 その①

ジリリリリーン、ジリリリリーン…

食堂で鳴り響く電話の音で飛び起きました。


皆さんのお世話に追われた大型連休がやっと終わり、自室でおせんべい片手にゴロゴロしてたらいつの間にか、うたた寝していてビックリ。

口元のおせんべいカスを気にしながら慌てて管理人室から食堂に出て電話にでる。

…そういえばここに来た当初は電話一つ出るだけで大騒ぎしてたっけなぁ。

私も成長したものだ

うふふふっ。


電話に出ると、相手は丁寧な男性だった。落ち着いた印象で低音で渋い感じで好きな声質。ナイチさんに取次お願いされたんだけど、ナイチさんの本名で所在を尋ねられて、思わず誰の事かわからなくなっちゃった。

そりゃそうだ、ここ以外で『ナイチさん』なんて呼ばれてないものね。

…管理人としてまだまだ自覚が足りないなぁ。

ナイチさんはまだ仕事から帰ってきてないので、帰宅し次第、折り返しの伝言を伝えることを約束し、連絡先を訪ねようとしたところに、ガラガラっと玄関の扉の開く音と共に「ただいま」と凛と透き通る声…

噂をすれば影…じゃないけどベストタイミング、ナイチさんお帰りなさい。


ピンクの花柄ブラウスに真っ赤なベルボトム。夜勤明けで疲れているだろうに、バッチリのメイク、サラッサラのベリーショートで癖っ毛の前髪が揺れて遊んでいる。おほほうっ!どこかの女優さんかと見とれてしまうわ。

「ナイチさん、ちょうどよかった。お電話です」私は色んな意味でニマニマしながらナイチさんに受話器を差し出す。

「私に?」…心当たりなさげにしているが、私はニマニマが止まらず「男の人」と、ちょっとだけ冷やかし気分も入れて、電話の向こう側の人を紹介した。

ナイチさんはやや困惑しながらも「あ、あぁ」と受話器を奪い取り、関わって欲しくないように私に背を向けてしまった。


これは間違いなく恋する乙女ではあ〜りませんか。あのナイチさんが恥じらっているのですよ。ここの住人の誰よりも男前で、兄貴肌で、喧嘩っぱやくて、大酒飲みのナイチさんがですよ。見た目は宝塚の男役みたいに凛々しくて、でも時折見せる可愛らしいところとか、もうたまらんのです。私が男に生まれてたら、いの一番に口説きにかかっちゃうものね。


そっかぁ…恋人いたのか…まぁいてもおかしくないんだけど…相手はどんな人だろうか…気になる…気になるぅぅ…


知らず知らずのうちに私はナイチさんの背に寄り添うように電話でのやり取りにそば耳を立ててしまっていた。

ナイチさんに「メッ」と叱られるまでこんなに接近してるとは自覚なかった。

…もう少しうまいことやればよかった…残念。

まぁ電話終ったら質問攻めにしちゃおう。うへへっ。


…あれっ、ナイチさん玄関開けっ放しじゃないですか…いやだわぁ、もう。

そんなにも電話口の相手が大事なのかしら。妬けちゃうじゃない。だから恋する乙女って困っちゃうのよね…


あれあれ?、玄関口にコソコソしてる影が見える。

「どなた様ですか?」の声掛けにもビクビクしてる…?

ナイチさんがこちらに気づき電話を中断し、玄関先の影に向かって「入っておいで、大丈夫だから。美結、その子よろしく」とまた電話に戻った。


ナイチさんの声に、ソロソロと玄関口に一人の少女が入ってくる。

あら可愛らしい

その子は真っ赤なベレーをかぶり、水玉模様の白いミニスカワンピースに真っ赤なタイツ。ショートボブがよく似合う、クリクリお目目のお人形さんみたいな子…一目でお嬢様と分かる雰囲気。小さな体に不釣り合いの大きな旅行バッグ大事そうに抱えている。…むむむ、もしや、もしかしたらそれはフェンディのバッグじゃないですか!

おぉ、本当にお嬢様でありましたか。一体全体こんな貧乏下宿にいかようでござんすか?

…あぁいけないいけない。お金持ちの匂いに惑わされ丁稚根性が出てきてしまった。我ながら情けない。


「なにかごようですか?」なるたけ平静を装い、丁寧に、そのいつまでもおどおどしているお嬢様に声かけしてみた。

お嬢様は、ごくりと生唾を飲み込み、精一杯の勇気を振り絞ってなにかを訪ねようとしている…


おっとぉ…これはもしや、この松竹梅荘にまつわる良からぬ噂を耳にしてしまっているのではないか?

毎朝のように物干し台から奇声を発する変人、全力疾走で走り出す七三。そして、かき鳴らされるギターや応援団の大声、かと思えば、お経のように流れ聞こえる落語。そして毎夜のように行われる宴会、鳴り響く怒声…

近所で松竹梅荘は、奇人変人大集合屋敷と言われているのはいたしかたない。


これでもあちこちご近所さんにはご機嫌伺いは立てているんだけど、うちの人たちは個人個人ではちゃんとしているんだけど、集まっちゃうと手に負えなくなる。

困ったもんだ…


お嬢様は、その可愛らしい唇からようやっと「あ、あの…」だけを絞り出す、私はうんうんと頷き、『大丈夫、私は奇人変人ではないのですよ、ですから安心してお話しくだせぇ』と菩薩半分丁稚半分の笑顔で話を促した。


「うるせー!」


と、急な怒鳴り声。


お嬢様は、いきなりの怒声に驚き、腰を抜かさないばかりの勢いで逃げ出してしまった。

私は、お嬢様を追おうかと思ったけど、怒声の発生元が気になり動けずにいた。

だって恋人とルンルン話してると思ってたナイチさんが怒鳴ってるんですもの。


ナイチさんは受話器を握り潰さん勢いで持ち

「わかったよ。もう二度と会わないよ。

遊び?…遊びだよ。決まってんだろ。

あんた嫁もいて子供いるじゃねぇーか。

せいぜいご家族を大事にすることだな。

…末永くお幸せになって地獄に落ちろ。じゃーな。」

と、言って受話器を叩きつけるように電話を切った。

ナイチさんは、電話のほうを向いたまま、激しく肩で呼吸をしている。


私は、息がつまりそうだった。

別に聞きたくて聞いたわけじゃないのだけれど、聞こえてきてしまった話が事実ならば…

ナイチさんは不倫をしていたことになる。

もちろんいけないことなのはわかってる。

でも…だからって…なんでナイチさんが?


精一杯の勇気をもってナイチさんに声をかけたの…呼びかける事しか出来なかったけど。

ナイチさんは一瞬ビクッてなって、大きく息をついてから、私の方に向き直り、満面の笑顔で「ふられちゃったよ」って…

私は訳が分からなくなって「ごめんなさい」って謝っちゃった。

ナイチさんはなんでか照れくさそうに「なんでお前が謝るんだよ」って言いながらソファーに腰を下ろし、煙草を探す。

…でも煙草をバックから探す指先が震えてるの。


あぁぁ気を使われてる…普通逆じゃない。

もっとしっかりしてよ私。

こういう時、なにか気を利いたこと言えないの私?

自分のふがいなさに、心の中で地団太踏み過ぎて地団太ダンスになっちゃってる私を他所に、ナイチさんは「そういや、さっきの子は?」って、人様の気遣いしちゃってる、本当にこの人はかっこよすぎるわい。


「ビックリして逃げ出しちゃいました」と引き留められなかった私の愚かさとナイチさんへの気遣いでないまぜになった顔をしながら伝えると

「なんだよ、せっかく道案内してやったのに」と、煙草に火をつけた。


すると玄関口からか細い声で「ご、ご、ごめんください」と、聞こえてきた。

みると玄関の扉に半分身を隠し、さっきもよりも強くカバンを抱きしめながらお嬢様が立っていた。


ナイチさんがフッと笑顔になり、「ごめんな大きな声だしちゃって、入りな入りな」と促してくれた。

お嬢様は、引きつった精一杯の笑顔を浮かべ、恐る恐る靴を脱ぎたたきにあがり靴をそろえている。

あぁスリッパでも用意しておけばよかった。…残念ながらここにはそんな小洒落たアイテムはない。買い揃えておかなければ…それにしても若いのにきちんとしてるわね。エライエライ。お姉さん感心しちゃったぞ。


お嬢様は、恐る恐る、玄関口から食堂に向かって歩いてくる。

…物凄い慎重に。まるで断崖絶壁を一歩一歩進んでいるかのように。

見かねたナイチさんが煙草をもみ消し、迎えに行こうとすると…


「腹から声出して!」

「おっしゅ!」

と、物干し台から、ご近所中に響き渡る大音量の怒声


お嬢様は「ピエェェェ」と悲鳴を上げ、二メートルは飛びあがったんじゃないかと思われるほどジャンプして、靴も履かずに再び玄関口から飛び出してしまった


あまりの光景に、ナイチさんと私で一瞬目をぱちくりさせたけど…

お嬢様を追いにナイチさんが、

物干し台の迷惑応援団を黙らせに私が行くと

目くばせで対応した。


「もう一丁!」

「おっしゅ!」

「もう一丁!」

「おっしゅ!」

「もう一丁!」

「おっしゅ!」

「ちがぁぁぁう!何回言ったらわかるんだ。『す』だ『す』!言ってみろ!」

「………しゅ!」

「ちがぁぁぁうぅぅ!すもものす!」

「しゅもものしゅ!」

「ちがぁぁぁぁう!すいかのす!」

「しゅいかのしゅ!」

「ちがぁぁぁうぅ!しゅきやきのしゅ!って俺が言えてねぇ」

「すきやきのす!」

「言えた?!!!」


「ご近所迷惑ですよ!」と、私が物干し台に飛び込むと、勢い余ってダンチョさんと九君に激突してしまった…哀れ二人は「なんでぇぇ」と悲鳴をあげながら物干し台から落下…見事に庭の木立に頭から突っ込んだ。


やっちまった…いくらなんでもやり過ぎた…二人とも木立から足だけを覗かせてピクピクしている。大丈夫かしら?怪我してないかしら?でもでもあれだけ応援団の練習は外でやって下さいってお願いしてたのに、やってたあなた達も悪いんですからね…えっと、だから…その…「押忍!」とだけピクピクしている足に声かけして、階下に戻った。


食堂では、ギャン泣きのお嬢様をナイチさんがなだめ、土で汚れてしまったタイツを拭いてあげていた。

そこにベストバッドタイミングで自称天才画家が自身を鼓舞する奇声を発しながら降りてきた。

「吾輩はぁぁ、昨日も今日も明日も天才だぁぁぁぁ!」


ようやく涙が収まり掛けていたお嬢様は、今度は鼻水も出しながら悲鳴をあげ逃げ出そうとする

…のを、なんとかナイチさんが片手を捕まえた…のはいいけれど、なんとかこの場から逃げようと走りまわる。…が、手をナイチさんにとられているので、ナイチさんの周りをグルグル走り回る羽目に。

ムンクさんは相変わらず奇声を上げ、いつのまにやら絵を描く定位位置と化した、ソファー横のカンバスに向かおうとしている。


ナイチさんがお嬢様にグルグル回されながらも、ムンクさんに黙れと怒鳴ってはいるが、またその怒鳴り声にお嬢様はパニックが加速し、更にナイチさんごとナイチさんの周りを回る。いい加減に目が回り、ナイチさんもお嬢様もフラフラとその場に倒れ込んでしまった。


ようやく、自己陶酔から目覚めたムンクさんが、へたり込む二人を見て「なにを遊んでおる?」と、冷やかすと。グルグルになりながらも「自分の部屋でやれ、変態絵描き」とナイチさんも返す。

お嬢様はまだ目の焦点が合わないでいたものの、ムンクさんを見つけ、いきなり頬を高揚させ

「先生!」

「先生?」

写楽さら?」

「さら?」

顔見知りのようなやりとりにナイチさんは二人の言葉をおうむ返しにした。


写楽さらと呼ばれたお嬢様は、ようやく顔見知りに会えた喜びからなのか「先生、先生」と連呼しムンクさんに飛びついた。…本当に飛びついた。


お嬢様は、逃げ出した時の瞬発力といい、ナイチさんに掴まれてるのに走り回る筋力といい、ムンクさんに飛びついたジャンプ力といい…身体能力は目を見張るものがある。なんとういか…侮れない子だ。


私が、物干し台の騒音対策を終え、食堂に降りてくると、いきなりのラブシーンだった。

あの、お嬢様はワンピースをはだけさせ、文字通りにムンクさんに抱きついている…というか抱っこされにいっている…自分の体格の倍もありそうな獲物を羽交い絞めにしている小動物のような見た目。


それでも…それでもだ。日中、日の高いうちから、若い男女が抱き着き合ってる。

うっひょーではないか!

おっとぉ、ナイチさんが唖然としておる。

い、い、いかん!

ナイチさんはほんの数分前に恋人…と、おそらくだが辛い恋愛を終えたばかり…傷心なのだ。

奇妙な抱きつきとはいえ、男女のラブシーン。

目に毒だ。

私は精一杯、ムンクさんとお嬢様のラブシーンが目に入らないように、ナイチさんの眼前で舞い踊ったわ。

「それぇ、チャンカチャンカチャンカチャンカ!」

「なに一人で舞いあがってんだ」

「ナイチさんも一緒に舞い上がりますか?」

と、ナイチさんの手を取って踊ろうとしたら、

「舞い踊るな!」って手を振りほどかれて「お前、だんだんココに馴染んできたな」

「はい、だって管理人ですから」

「毒されすぎだ」

…褒めたのよね。褒めたのかな?…う〜ん、どっちかわからないけど、私は悪い気はしなかったので褒められたとしましょう。


ムンクさんは、お嬢様からの熱烈(?)な抱きしめをなんとか振りほどき

「お前、何しに来たんだ」と、随分つっけんどんな質問をあびせた。

お嬢様は、乱れまくった洋服を正しながら満面の笑みを浮かべ「先生に会いに来たの」と、零れ落ちそうな目を潤ませながら言う。


なんとも意外なことだ。どう考えてもお嬢様はムンクさんに好意を抱いている。この数か月、寝食を共にした私だからこそ言えるけどムンクさんの奇行は目に余る。

曲者ぞろいの松竹梅荘の住人の中でも頭一つ飛び抜けているんじゃないだろうか…

頭髪はいつもボサボサだし、服のセンスは…ある意味お洒落だけれど、基本的に原色系で目に眩しいのが好きだし。スモックと呼ばれる油絵書いている時にするエプロンは汚れまくってるし、絵を描くかくときはいつもなにか叫んでいるし…

ロンリーウルフを気取ってはいるが、なにかと食堂にいる。自室で絵を書けばいいのに、気が付けばいっつも食堂で絵をかいてる。カッペさんに一度いたずら書きをされて激怒してたしなぁ…そんなにいやなら自室で書いたらいいじゃないと提案するものの、食堂の方がインスピレーションが湧くのだとか。


まぁ食堂はみんなの憩い場であってもいいとは思うんだけど…

皆さんが好き勝手やり過ぎるのは管理人としてどうかと思うのよね。

なんだか体育会系の部室みたいに乱雑だし…

でもちゃんと整理整頓して掃除はしてるのよ…私がだけど。


話は逸れたけどそんなムンクさんに好意を持つ女性?…女の子が現れたのは驚天動地だ。

とっつきにくい。何考えてるのかわかりづらい。

っと、いうのが私がムンクさんに抱いてる印象。根はいい人なんだろうけどね。


写楽さらと名乗ったお嬢様は、ここまで送ってくれたナイチさんに一生懸命にお礼を言い、

ナイチさんはどうってことないよと謙遜しながらも不満のそうなムンクさんに一瞥くれて、「おやすみ」と二階の自室に行こうとする。


すっかり忘れてたけど、電話台を横切るナイチの顔に影が差したように感じて、ナイチさんが傷心であることを思い出す。オロオロとお見送りしてた私に、「朝まで飲むぞ」ニコって微笑んでくれた。

…あぁまた気遣われてしまった…情けない、あぁ情けない。

何度も何度も頷くことでしかナイチさんの気遣いに返せない。

もっとしっかりしなくっちゃ。


まだ昼下がりに「おやすみ」と言って寝に行くナイチさんを不思議に思ったのか写楽さらちゃんは「お昼ですか?」と純粋そうな眼差しで問いかける。「時間に不規則な仕事なのよ」と返すと、へーって物凄く納得している。表情がコロコロ変わって面白いなこの子。


「先生、浮気しちゃいやですよ」と写楽さらちゃんはムンクさんの腕に抱きつくも「馬鹿言うな」と邪険に振り払われている。


写楽さらちゃん、幼く見えるけど、いくつくらいなんだろう…意外と大人だったりして20歳は行ってないと思うけど…物言いからしたらそれぐらいかな?


うひひひっ、いつも迷惑かけられてるんだから、ムンクさんからかってやろうっと


「あれあれあれあれ、ムンクさん、もしかしてもしかしたらぁ、彼女さんですか?」

写楽さらちゃんは元気よく「はい!」と返事するも、ムンクさんは「違う。吾輩が絵を教えていた生徒だ」と、

その言葉に打ちひしがれて、歌舞伎の女形宜しく、ヨヨヨヨッよ崩れ落ち「酷い、あんな仕打ちをしておいて生徒だなんて〜」と、袖で涙を拭く素振り。

そこまでやりますか、中々必死じゃありませんか。それらなば「幼気な女性になにをしたんですかぁあ、ムンクさぁん」と…ちと大袈裟と思うくらいにやってみた。


ムンクさんが一つ大きなため息を吐き「帰れ」と、私たちの三文芝居を切って捨てた。


写楽さらちゃんは、下唇を噛み「帰れません」と食い下がり「私は先生のところに泊まり込みで絵を教えてもらうんです!」


泊まり込み?

若い男女が三畳一間しかない狭い部屋で泊まり込み?

相手は血気盛んな若い女子、しかもお人形さんのような可愛らしい顔立ち、いくら奥手なムンクさんだって、仕舞には勢いに押されて魔が差してしまい…


「不純異性交遊〜!」

叫ばずにはいられなかった。

どうすればいういの?どうすればいいの?こういうのって警察?お巡りさん?誰かに助けを求めなくては…


玄関に走り出そうとしている私を、「違う違う違うから」ムンクさんが慌てて引き留める


「私の身体を弄んで!」と写楽さらちゃんは緊縛?ポーズでムンクさんを誘う。必死で「弄ぶか!」と緊縛?ポーズを解きにかかるムンクさん。


私にはその光景がいやらしいことにしか見えなくて

「ヌヌヌ、ヌードモデルをさせようと言うの?」と、自身がヌードモデルでもさせられたかの錯覚に陥りながら叫ぶしかなかった。



「ヌヌヌヌヌ、ヌードォォォ!」


二階から騒々しい声とともに愚かな男どもが駆け下りてくる

シンガーさん、カッペさん、コボンさん…

「誰が?誰が?ヌード?」

「管理人さんか?管理人さんがヌードか?」

「あちきがセクシーポーズ考案しますぜ。アハン。」

どんな地獄耳をしてるんだろうか…

さすがにムンクさんも呆れ果て「バカ」と吐き捨てた


いきなりの興奮しまくったバカ三人組の大声にビックリした写楽さらちゃんはムンクさんの影に隠れてビクビクしている。それを守っているムンクさん。

…あれあれ、まんざらではないのではないか…?


しかし、バカ三人組は目ざとくムンクさんの影に隠れる美少女を見つけ

「おお、なんかいるぞ?」

「ムンクさん、まさか誘拐ですか?」

「遂にやっちまいましたかい?いつかはやると思ってたんでやんす。」

興奮して高揚しきっている三人に「話を聞け、こいつは…」と

写楽さらちゃんは「生徒だ」と説明しようとしている…

のを、今度はさせまいと写楽さらちゃんは、勇気を振り絞って「私は、先生の恋人の写楽さらです」と、持ち前の身体能力を生かし再びムンクさんに抱っこされに行く。


その身体能力と勇敢な言動と、『あのムンクに恋人が?!』とが相まって私も含めた四人で「おぉぉぉぉ!」と感嘆の声をあげる


ムンクさんは、恥ずかしさと困惑でないまぜになりながらも、写楽さらちゃんを引きはがし「お前帰れ!お前らも帰れ!」と怒鳴り散らした。

写楽さらちゃんはたじろいだけど、バカ三人は

「じゃぁ仲良くお家に帰るとするか」と、三々五々に散っていった。

ムンクさんは、これで邪魔なく写楽さらちゃんを説得しよう…と思ったのもつかの間

食堂の入り口から、玄関から、二階の降りきりから、

「帰ってきてる。ここお家!」

と、顔を出す三バカ


さすがのムンクさんも絶句せざるを得なかった。

そのムンクさんの隙を見過ごさず写楽さらちゃんは

「私、帰りません。家出してきたんです」

と、爆弾発言。

「おぉぉぉ!」と、興味津々の三バカと私。

「先生、一緒に暮らしましょう」

「おぉぉぉ!」と、四バカ。

「なにを言ってるんだお前は!」動揺しまくりムンクさん

「私、先生が好きです」純粋なお嬢様

「うっひょぉぉ!」と、四バカ

「そうじゃなくて、何をしてるんだ」自分を落ち着けるように言い聞かすムンクさん

「私、先生が好きです」と、盲目になっちゃってるお嬢様

「もっひょぉぉぉ!」と、興奮しまくり四バカ

「お前は、壊れたレコードか!繰り返すな」と、巧いこと言ってる風なムンクさん

「私は、先生の事が好きなんです!」頑固一徹お嬢様

「ばっひゃぁぁ!」もうお祭り騒ぎの四バカ

「あのな…」と困りまくって頭をかきむしるムンクさん


さすがにこれは可哀そうになってきたので

「私たちは、席を外してますね」と言うと、三バカは驚くくらいに反論争論罵詈雑言…ここぞとばかりに出歯亀根性丸出しで私に迫る…

もぅ、人の恋時を邪魔する人は犬…も歩けば棒にあたるだっけ?ですよ。

だがしかし、この興味の持ちようをどう逸らしたらいいものか…あぁそうだ!

「うわっ、ナイチさんそんなふしだらな、ほぼヌードで何やってるんですか?」

と、階段を指して言ってみると

「ヌヌヌ、ヌードォォ」

と、三バカは二階へ駆け上がっていった。

スケベとハサミは使いようね。


あまりの事に目を白黒させている写楽ちゃんと、バツが悪そうなムンクさんを残し

「ごゆっくり。うひひひ」と、ウィンクだけして私は三バカが戻ってくる前に部屋に閉じ込める算段に頭を巡らせた。


あぁ、早く奴らを閉じ込め、そば耳を立てたい

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