我が名はテレパシー⑫
数日が経ち、相変わらずというべきか穏やかな学校生活を送っていた。 操はあれから一切姿を見せることはない。 おそらくは切り札を匂わせたことが功を奏しているのだろう。
そうすると、もっぱらの問題は目の前の強ノ助である。
「おーい、久遠ー! 俺の話を聞いてんのかよー? 今日の給食は何か、って聞いてんだよー!」
久遠は席に着きイヤホンをしながら読書をしている。 ついでに言うなら、強ノ助が飛ばした大量の唾をハンカチで拭っているところだったりもする。
―――相変わらずうるさいな。
―――声が大きくてイヤホンをしていても普通に聞こえてくるぞ。
―――というか、馬鹿は何歳のつもりなんだよ。
―――この学校に給食なんてないぞ。
学校によっては配給されるところもあるのかもしれないが、少なくとも久遠の高校ではそのような制度はない。 各自用意するか、学校が業者と契約している学生食堂を利用するかの二択に分かれるのだ。
それに久遠はばっちり見て知っているのだが、強ノ助は既に授業中食事を摂っていた。 いや、食事といっていいのかは怪しい。 ピーナツバターのチューブに丸ごと吸い付いていたのだから。
「みんなー、席に着けー! 突然だが、今日は転校生を紹介するぞー」
教室に入ってきた担任がそう言った。 転校生の紹介がこんな時期のこんな時間になるだなんて聞いたことがない。 せめて朝のホームルームあたりでやるべきだろう。
―――転校生?
―――・・・何か複雑な事情でもあったのか?
強ノ助も大人しく席に着いた。 すると廊下から颯爽と現れた転校生というのは、超能力バトルをやり切った操だったのだ。
―――・・・は?
思わず声が出そうになってしまった。 操は爽やかに歯を光らせると頭を大きく下げて挨拶をした。
「今日からお世話になります! 皆(ミナ)操です! よろしくお願いします!!」
―――いや、突然過ぎて意味が分からないから。
―――あまりにも都合が良過ぎるだろ。
―――また俺と勝負しに来たのか?
―――それなら遠慮なく最終兵器、稲川淳〇の厳選怪談二百連発を使わせてもらうが。
―――ってか、皆を操るっていう名前、お前そのままじゃないか!
心の中で突っ込んでいる間に、操の席が決まろうとしていた。
「じゃあ席は・・・」
しかも操はとんでもないことを言い出したのだ。
「先生! 僕は久遠くんの隣がいいです!」
―――は?
「久遠? 久遠と知り合いなのか?」
「はい!」
「そうか、分かった。 知り合いが近くにいた方が馴染みやすいだろうからな。 久遠、操に色々と教えてやってくれよ」
―――・・・マジかよ。
―――いい加減にしてくれ。
操が隣に来た。 本来隣だった生徒はわざわざ移動したらしい。 もしかしたらマインドコントロールを使ったのかもしれないが、おそらくそうではないのだろう。
「よろしくお願いします!」
―――どうして敬語なんだよ。
休み時間になると強ノ助がやって来る。 ただそのようなことは関係なく操が突然言うのだ。
「久遠殿! 俺を弟子にしてください!!」
―――はぁ?
「ついでに貴方も! えーと、名前は・・・」
「おー、どこかで見たことがある顔だなぁ。 俺のことはゴウでいいぜぇ」
「ゴウ殿! 俺を弟子にしてください!」
―――馬鹿は止めておいた方がいいぞ。
―――コイツは超能力者ではないからな。
―――本当に馬鹿でただ怪力なだけだ。
―――それに俺は弟子なんていらない。
そのようなことを久遠が思っていることなんて全く知らず、何故か操と強ノ助は意気投合していた。
「お、何だ? ダチか? いいぜぇ」
「弟子なので色々と教えてください!」
「放課後、一緒にカラオケにでも行くか?」
「カラオケ、ですか? 歌の稽古ですか? 重たいマイクでも持つのかな・・・。 はい、是非!」
弟子ということは修行でもすると考えているのだろう。 当然だが強ノ助にはそんなつもりはなくただ遊びに出かけるつもりなのだ。
強ノ助は友達が増え喜んでいるが、弟子の意味が分からないようで二人の会話は噛み合っていない。 ただそのようなことは全く関係なく、久遠は頭痛の種がさらに増えたことに頭を悩ませる。
考えた結果、久遠は二人を無視し席を立った。 今日も一人で行動。 それが最善。 だが二人は当たり前のように付いてきた。
―――これからはいつも以上に賑やかになりそうだな。
―――鬱陶しい。
―――・・・でもまぁ、争わないならこれでもいいかもな。
久遠は少し微笑み空を見上げた。 煩わしい日常になってしまったが、平和な学校生活に安心する気持ちもあるのだ。
-END-
我が名はテレパシー ゆーり。 @koigokoro
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