我が名はテレパシー⑪




ゆっくりと近付くと操は目を開けた。 どうやら意識はあるらしい。


「この俺が、負けただと・・・? くそッ、無様な姿を・・・!」


操はゆっくりと顔を上げ久遠を見据える。


「畜生ッ! 早く俺を殺せよ! こんなみっともない姿を、いつまでも晒してんじゃねぇ! 早くやれ!!」


―――動く力は残っていないが、相変わらず口は元気なんだな。

―――そもそも俺はお前を殺す気がない。

―――俺はたった一人の超能力を持った男になる気はないからな。


動かない久遠を見て操は言う。


「・・・何だよ、俺を殺さないのか?」


コクリと頷いた。


「ッ、何なんだよ久遠は! 優しいかよ!! 心広過ぎるだろ!? 俺は久遠に散々酷いことをしてき・・・。 って、おい! 何をする!?」


久遠は操の身体をあちこちと触った。


―――特に目立った怪我はなさそうだな・・・。


「ははッ、止めろ、止めろって! はははッ」


痛いよりもどうやら身体を触られてくすぐったい方が強いらしい。


―――あんなに派手に吹っ飛ばされたのに、傷一つないとか。

―――どれだけコイツは頑丈なんだ?


触るのを止め上体を起こす。 一応これで勝負に勝ったということになるのだろうか。 本当に諦めてくれるのだろうか。 今日一日、操のせいで学校生活は滅茶苦茶になっていた。 

無関係の人を操るのも止めさせたいところだ。


「何だよ・・・ッ!」


ジッと見つめていたせいか、操が不満気な目で睨み付けてきた。 もし本当に人を殺しているのなら、それも許されることではない。 ただ何となく操にそのようなことができるとは思えなかった。


「・・・ちッ。 あぁ、そうだよ。 超能力者を殺してきたっていうのは嘘だ。 本当は初めて同類を見つけたのさ!」


何故かよく分からないが操は一人語り出す。 久遠という超能力者を見つけたのはオーラを感じ取ったからだが、最初はそれが何故かは分からなかった。 

だがしばらく尾行し観察している間に、強ノ助が久遠は凄い力を持っていると歌っているのを聞いたのだそうだ。


―――やっぱり馬鹿のせいなのかよ!


ただ今回の戦闘(?)で強ノ助の力で助かったのは言うまでもない。 結果オーライということにし、そこは気にしないことにした。


「俺は、今回は負けたが次は負けない! 折角見つけた超能力者なんだ! 絶対に勝ってやる!」


やはり操は諦めるつもりはないらしい。 ということで、ここで切り札を使うことにした。


『もし次に人様に迷惑をかけたら、夜寝る前に稲川〇二の厳選怪談二百連発を聞かせ続けるからな。 毎日だ!』


テレパシーで直接頭の中に叩き込むそれに抗うことなどできはしない。 操もそれを理解したのか、引きつった顔で頭をぶんぶんと振った。 これにて一件落着というわけだ。


『馬鹿、そろそろ山を下ろうか』

「おう」


そうして二人は去ろうとすると、再び背後から操の不満気な声が聞こえてきた。


「あ、おい! ちょっと待て! 俺を置いてどこへ行く気だ!?」


別に置いてどこへ行こうというつもりはない。 操のことを縛っているわけでも捕まえているわけでもない。 ただ終わったのだから帰るだけ。 まだ身体が満足に動かないのかもしれないが。


―――一応俺たちは敵同士だろ。

―――そこまで助ける気はない。


助けを求める操を置いて二人は下山した。 下っていると目の前に大きな岩が立ち塞がっていた。 まるで隕石が突き刺さったかのような巨大な岩が二人の行く手を塞いでいる。 


「うわぁ、何だこのデカい岩!」


強ノ助は口を大きく開けてそれを見上げていた。 無理もない。 あまりにも不自然な気がするのだ。


―――これもアイツの仕業か?

―――・・・いや、まさかな。

―――こんなに大きな岩、どれだけ人数を集めようが動かすのは不可能だ。


だが久遠はこの程度障害物にすらならないと思っていた。 もちろん久遠一人なら迂回するしかないだろうが今は強ノ助がいる。 

重力を扱える超能力者と判明した今、どんなに巨大な岩も重量なんてないに等しい。


「これ動かせるのかー?」


強ノ助は岩をどかそうとする。 先程の熊の数倍はあろうかという大岩を軽々と片手で、持ち上がる様子はなかった。


「ッ、重てぇ! ビクともしねぇな」

『重力を無力化したらどうだ?』

「重力? 何の話だ?」

「・・・」


久遠は悟ってしまう。 重力を扱えるというのが操のただの勘違いだったということを。


―――・・・何だよ。

―――この馬鹿、重力を操れないじゃないか。

―――馬鹿が同じ超能力者じゃなくて安心した。


それでも今日一日強ノ助の馬鹿力に助けられたことに違いはない。 強ノ助は大岩を動かすことはできなかったが、もっと別のものを動かすことができたのだ。


『仕方ない。 遠いが遠回りをしよう』

「おー」


歩きながら久遠は言った。


「・・・馬鹿、ありがとな」


それは強ノ助に対して初めて言葉を喋った瞬間だった。 しかし、強ノ助の耳には届いていなかったのかもしれない。


「ん? 何か言ったか?」

『別に』


テレパシーでなら聞き逃すことはないのだ。 久遠とのいつものやり取りに慣れてしまったのなら、初めての言葉が聞こえなかったとしても仕方がない。 

もう一度言うつもりはないし、それで感謝の気持ちがなくなるわけではない。


―――貸しができてしまったな。

―――まぁ、一度だけならテストの解答を教えてやってもいいだろう。

―――もちろんテスト後にな。


助けてくれた強ノ助の存在の大切さを少しだけ知ることができたのだ。



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