我が名はテレパシー⑩




しばらくは戦闘が続いた。 操もいつの間にか小屋から出てきているが、操った人間をけしかけてくる感じだ。


―――・・・いつまで続ける気なんだ?

―――どれだけ人を用意したんだよ。


周りには気絶して倒れている人がたくさんいた。 ほとんど強ノ助がドラマの撮影と思ったまま暴れてくれたおかげである。 

動きも緩慢で複数人が同時にやってくることがなかったため打倒するのは容易かった。


―――死体みたいで気味が悪い。

―――一般の人にまで手を出したくないが、手加減する程の余裕がないんだよな。

―――・・・困った。


「おーい、久遠ー! 次はー?」


強ノ助が遠くで手を振りながら尋ねてくる。 未だにアクションシーンの撮影だと思っているのか、かなり恰好付けて楽しんでいる様子だ。


―――まだ暴れる体力があるのか。


『次はアイツの後ろだ。 誰かが潜んでいる』


そう送って操に目を配る。 久遠が辺りを警戒し、強ノ助がそこを攻撃する。


「おっけー」


強ノ助は石を拾い操に向かって思い切り投げた。 予想していたのか操はあっさりと避ける。 操を通り過ぎた石は茂みの奥にいるモノに当たった。 すると変な呻き声が聞こえる。


―――・・・ん?

―――今の声は人じゃない?

―――・・・もしかして熊か!?

―――アイツ、人以外も操れるのか・・・!


場所が森で助かっていた。 声を発するのは強ノ助だけのため周りが静かで物音が聞きやすい。 そこでふと操の異変に気付いた。


―――・・・ん?

―――アイツの表情が硬くなってきたな。

―――余裕がなくなってきたか?

―――人切れといったところか。


その油断が事故を呼んだ。 突然強ノ助の叫び声が聞こえる。


「ッ、久遠!!」


―――ん?


見ると自分の足元に大きな影が迫っていた。 後ろを振り向く間もなく久遠は大きな木の下敷きとなった。 そこには倒れた熊がいて、かなりの勢いで木に体当たりしたのだと分かった。


「久遠!」

『馬鹿、来るな!』

「ッ・・・」


近寄ろうとした強ノ助を止める。


―――アイツ、二匹同時に命令でもしたのか。

―――くそッ、油断していた。


人は一人ずつだが動物は複数操ることが可能なのかもしれない。 もっとも操は今日会ったばかりで能力の全てを知っているわけではない。 

久遠が奥の手を隠しているように操も何か隠している可能性はあるのだ。 操は冷や汗を流しながら勝ち誇ったように笑っている。


―――でも助かったな。

―――あまり重くない。

―――俺の後ろにある大きな岩がこの木を支えてくれている。

―――でも自力では抜け出せそうにないな。

―――その前に・・・。


『おい、馬鹿。 アイツの両足を持って振り回せ。 そしてそのまま木に向かって放り投げろ』

「お、おう!」


珍しく動揺しながらも強ノ助は言う通りにした。 操は怪力の強ノ助には抗えず、そのまま攻撃を受け木に放り投げられた。


―――傷が酷そうだな。

―――穏便に済ませたかったが、仕方がない。


動かなくなった操を見て強ノ助が久遠に駆け寄った。


「久遠! 今すぐに助けてやるからな!」


―――馬鹿に助けられるのは不本意だが、一人ではどうしようもないからな。

―――今だけは甘えよう。


強ノ助は木を軽々と持ち上げるとそのまま久遠を救助した。 自分の身を確認する。 どうやら怪我はないらしい。 久遠は木の下で座り込んでいる操のもとへと向かった。



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