我が名はテレパシー⑨




一瞬時が止まったように思える程の衝撃を覚える。 まさかこんな身近に超能力者がいるとは思ってもみなかった。


―――・・・え、まさか、本当に?

―――馬鹿も超能力者なんて初めて聞いたぞ。

―――だから身体はあんなに小さいのに、怪力だったのか?

―――それなら納得できる。

―――でもだとしたら、どうして馬鹿からは超能力者だというオーラが伝わってこなかったんだ?

―――もしかして馬鹿過ぎてオーラが感じられないのか?


ボケっとしながら鼻をほじっている強ノ助をまじまじと見ていると、操が言った。


「今までオーラを感じなかったのは、お前が馬鹿過ぎるからなのか?」


―――うわ。

―――コイツと同じことを考えたくなかったな。


強ノ助は馬鹿過ぎると言われて何故か照れていた。 褒められていると思っているのだろう。


「ふッ、まぁいい。 二人がかりで来いよ。 俺は既にたくさんの人をそこら中に待機させているんだ。 この俺が負けるはずがない」


そう言って操は奇妙なポーズをとった。 片足と上げ両手を上げ、奇妙な戦闘態勢といった具合。 何をするのか分からないが、酷く動きにくそうに思える。


―――・・・ついにこの時が来てしまったか。

―――話し合いで解決するのは難しそうだな。

―――話している最中、どこから攻撃が飛んでくるのか分からない。

―――とりあえず馬鹿を広いところへ誘導させるか。


とりあえず距離を取ろうと走ったら、操が何故かこけたので、これ幸いと小屋から少し離れた。


『馬鹿、外へ出てこい』

「ん? おう」


強ノ助はテレパシーに素直に従う。 その時ゴロッという音が聞こえた。


―――何の音だ?


小屋の上を見ると一人の少女が転がりながら落ちてきていた。 先程のレンガを落としたのは彼女なのかもしれない。 かなり重そうだったが、落とすだけならできるだろう。


『馬鹿、上だ!』

「上? おっと」


小屋のドアの前で強ノ助は見事に少女を受け止めた。 強ノ助はイケメン風に恰好付けて言う。


「君、大丈夫かい? 怪我はない? よかったら俺が家まで送ってあげるよ。 一人だと危ないからね」


少女は当然マインドコントロール下にあるだろう。 だがそれでも、全身をブルリと震わせたのが分かった。


―――いや、止めておけ。

―――馬鹿と二人きりになった方が危ないからな。

―――つかその言い方は何だよ。

―――素直に気持ち悪い。


強ノ助は少女にフラれたらしい。 助けてもらったことは憶えていないのか、強烈なビンタを入れて走って逃げていった。 おそらくしばらくトラウマになるのは間違いない。


―――それにしてもあんなに小さな子まで待機しているとは。

―――扱いが適当過ぎる。

―――馬鹿が支えていなかったらどうなっていたことか・・・。


ふと真後ろからカチッという音が聞こえてきた。


―――何だ?


『馬鹿、俺に目がけてレンガを放り投げろ!』


念のためにそう送る。 強ノ助が行動に移そうとした瞬間、久遠は少し立ち位置をズラした。 レンガは久遠を通り過ぎ木に隠れていた一人の男に当たる。


「グハッ!」


見ると彼は銃を持っていた。 猟に使うタイプの銃で格好から見ても偽物とは思えない。 冷汗が流れる。 レンガが当たって気絶しただろう男のことを気遣う余裕はなかった。


―――うわ、猟師か。

―――操の奴、ガチで殺しにきているな。

―――俺は死ぬところだったぞ。


「久遠、大丈夫かー?」


相変わらず今の状況を強ノ助は把握できていないらしい。


―――まぁ、馬鹿が俺の指示を聞いてくれるだけいいか。


テレパシーで指示を出しているため操には聞かれない。 久遠と操が戦うはずだがその二人は動いておらず、真ん中にいる強ノ助だけが動くという異様な光景だった。 

ただ攻撃を受けるだけで、久遠からは攻め手がない不利な状況に変わりない。 相性以前にテレパシーが超能力として弱過ぎた。 

強ノ助のことを散々馬鹿にしてはいたが、彼がいなければ今頃無事で済んでいる保証はなかった。



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