新規一名様ご来店

 からんこらんとお店の扉を開けるとそこにはちょびひげを蓄えた執事という風体の男性がいた。


「いらっしゃいませ。お嬢様。ご利用は初めてですかね」とその男性は訪ねる。


「ええ…」と自分の場違いな普段着のワンピース姿が恥ずかしくてためらいがちに、綾子は答えた。


 その男性は大丈夫ですよっというように笑顔をつくり、お店のシステムの紹介をする。


 二階が漫画喫茶形式の個室であること、お店の入り口にも書いてあったドリンク一杯分の料金で滞在できること。勿論、横浜の山手にあるような一階の洋館風の素敵なスペースに空いていれば途中から移動して、お茶を楽しめることなどの説明を受けた。


 そして、その男性はいたずらっ子のように、自分だんせいの人差し指を口にあてて内緒ですよというように、綾子が心惹かれるあるサービスを伝える。


 それは、一曲分音楽の世界を追体験できるというまさかという内容だった。


 とりあえず、綾子や暖かい紅茶とそのサービスを頼むために、二階へ上がる。


そして、半信半疑に「いちご」っていう綾子みたいな女の子が、素直に好きな思いをアピールする歌をカラオケによくある機械から選曲し、リクエストした。


 イントロがはじまると、綾子の意識は今いる漫画喫茶からお兄ちゃんの最近は入れてくれない部屋のなかにいた。


 なんだから、ベットの下にあるエロ本でも見つけておばさんにチクってやろうかなぁと思いつつ、ベットの下を覗き込もうとしたいのに、曲がはじまると、どんなにお兄ちゃんのことが好きで楽しいのかが、走馬灯のように学校だったり、街中だったり、家だったり、服装もとりどりにかわり追体験する。


 気づけば一曲終わっているが、綾子は今の体験が夢だったか現実だったか悩んでしまう。


 そして、暖かい紅茶とサービスのル・モンドを食べながら、一瞬だけいつもの不平不満を忘れて幸せだったことに気づく。


 そして、機械をもう一度弄いじろうとするが、電源が入らない。


 電話しょうと受話器横の壁をみて、利用は一回につき、一回の注意書と男性がいってた注意事項を思い出す。


 3ヶ月に一回しか利用できないことを思いだし、がっくりするが、それでも3ヶ月後に今度は本当にデートするような曲を楽しみたいからどんな曲を選択したらいいんだろうかと妄想を広げる。


              fin




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川越音楽堂 紗里菜 @sarina03

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