チナチナマジック~帰り道は気をつけて~

さこゼロ

帰り道には危険がいっぱい⁉︎

「あれ、テツくんもコッチ?」


 小学校からの帰り道、奈乃は前を歩く男の子に気付いて声をかけた。


 夏休みも終わった二学期最初の日、5年2組に転校生がやってきた。


 それがテツくん。


 白い半袖Tシャツに黒いジャージの長ズボン、そして黒のランドセルを背負ったテツくんは奈乃の声に振り返った。


「あー…ゴメン、誰だっけ?」


「後ろの席の足立奈乃だよ」


「ああ、足立奈乃ちゃんか! ゴメンな、まだ覚えてなくて」


「まだ初日だもん、仕方ないよ」


 奈乃は三つ編みおさげを揺らしながら、クスクスと可愛く笑う。


「私もコッチだから一緒に帰ろ?」


「しょ…しょーがねーなー」


 テツくんは頭の後ろで両手を組むと、少し照れ臭そうにスタスタと歩き始めた。


 〜〜〜


「あ、オレんち、ここ」


 そのときテツくんが、新築の一軒家の前で立ち止まる。


「あ、ここ、工事してたトコ」


 ひと月程前から新しい家の工事が始まってた。この道は通学路なので、モチロン奈乃も知っていた。


「いーなー、新しいお家」


 奈乃が羨ましそうに新しいお家を見上げていると、


「あっれー、おかしいな」


 テツくんがランドセルをガサゴソと探りながら、困った声を出した。


「どうしたの?」


「うわーカギ忘れた。ちょっとインターホン押してみてくんない? もしかしたら母ちゃん帰ってるかもだし」


「うん、分かった」


 そうして奈乃は、インターホンをポンと押す。すると「はーい」と返事があった。


「あ、テツくん、お母さん居たよ。すみません、テツくんが鍵を忘れたみたいで、玄関を開けてもらえますか?」


「え⁉︎」


 女性の驚いた声がインターホン越しに聞こえると、何やら唐突に通話が切れた。


「あのー…」


 暫くして、ゆっくりと玄関が開き、中から若い女性が顔を覗かす。


「ウチにテツなんて子どもは居ませんけど…」


「ええっ⁉︎」


 衝撃の事実に、奈乃の瞳が真ん丸に開かれた。


 慌てて横を確認すると、座り込んでいた筈のテツくんの姿が何処にもない。


「あ、えっと…勘違いでした、ごめんなさいっ」


 奈乃は何度も頭を下げると、一目散に逃げ出した。


 〜〜〜


 翌朝、奈乃は自分の席で、頬を膨らませながら座っていた。テツくんに、文句でも言ってやらないと収まらない。


 するとテツくんは、チャイムの音ギリギリで教室に駆け込んで来た。


「テツくん、昨日…っ」


「奈乃ちゃん、昨日はゴメンな。お詫びに今日は、コンビニで駄菓子でも奢るから赦してよ」


 出鼻を挫かれた奈乃は、立ち上がった姿勢のまま口をパクパクとさせる。


「……分かった、赦す」


 そう言ってゆっくりと座席に座ると、奈乃は少し偉そうに両腕を組んだ。


 〜〜〜


 今日は珍しく、コンビニのレジが混雑していた。


 テツくんの持つ買い物カゴには、奈乃が選んだお菓子が3点入っている。全部で五十円ほどになるだろうか。


 そうして後ひとりで順番と言う時に、


「わりぃ、もう限界っ! オレちょっとトイレ行ってくる」


 テツくんは足踏みしながら買い物カゴを奈乃に渡すと、猛ダッシュでトイレへと駆けていく。


「あ、ちょっとテツくん」


「次の方、どーぞー」


 その時ちょうど前の人の会計が終わり、店員さんが奈乃に向けて声をかけた。


 奈乃は一瞬戸惑ったが、後ろの人の視線に負けて渋々レジへと進んでいく。


 それから会計を済ませて入り口の所で待っていたが、何故だかテツくんが全然出てこない。


 心配になった奈乃がトイレの前に移動すると、表示は使用中になっていた。


「テツくん、大丈夫ー? もしかしてお腹痛いのー?」


 するとザザーっと水の流れる音が聞こえてきて、奈乃はホッとひと安心する。


「もーテツくん、遅いよー…」


 しかし現れたのは、テツくんではなかった。


 お腹のデップリと太ったスーツ姿のおじさんだ。


「あ、お嬢ちゃん。次、使うのかい?」


「あ…ち、違います。使いません」


 奈乃は恥ずかしさで赤面すると、一目散に逃げ出した。


 〜〜〜


 翌日、奈乃は口での抗議を諦めた。


 こうなったら、仕返ししてやらないと収まらない。


 下校時間になり、奈乃は少し離れた位置でテツくんの後をついて行った。


 するとそのとき何かに気付いたように、テツくんが突然走り出す。


 慌てて奈乃も駆け出した。


 しかし角をひとつ曲がったところで、その姿を見失ってしまう。


「あれー、気付かれちゃったのかなー?」


 奈乃は残念そうに呟いた。


 その次の瞬間、奈乃の目の前で、大きな音をたてて道路が爆発した。


「キャーーっ⁉︎」


 奈乃は悲鳴をあげて尻もちをつく。


「あ、お前っ⁉︎」


 そのとき屋根の上から声がしたかと思うと、誰かが奈乃のそばに下りてきた。


「あんだけ酷い目に合わせたのに、何でついて来てんだよ」


 聞き覚えのある声に奈乃が顔を向けると、そこにはテツくんが立っていた。


「テツくんっ⁉︎」


「ったく、ちょっと我慢してろよ」


 そう言ってテツくんは唐突に奈乃をお姫様抱っこで抱き上げると、ひょいと屋根の上に跳び上がる。


 その途端、今まで二人の居た場所が、再び大きな音をたてて爆発した。


 あまりの理解不能な展開に、奈乃は顔から血の気がサーっと引いていく。


「とにかく、しっかり掴まってろ」


「う、うん」


 言われるがままに、奈乃はテツくんの首筋に両腕を回した。


 そのおかげでフリーになった右腕を、テツくんが頭上に振り上げる。すると金色に光る無数の槍が、何もない空間に浮かび上がった。


「いけっ!」


 それから爆煙の向こうに現れた目玉のような化け物に向けて、その右腕を振り下ろした。


 〜〜〜


「あれは…何だったの?」


 奈乃は未だ震える声で、何とか質問を絞り出す。


「アイツらはワルベイダー。簡単に言や、侵略者だ侵略者」


「宇宙人って事?」


「うーん、どうなんだろーな、オレもよく知らね」


 そのとき突然、奈乃の目の前で光が収縮し始める。


「え、なに⁉︎」


「あーあ、やっぱり選ばれちゃったか」


 それからその光が奈乃の右手に吸い込まれると、見た事もない指輪が中指にはめられていた。


「選ばれたって、何に?」


「放課後バトラー。ま、アイツらと戦う戦士だな」


「戦う…って、えっ⁉︎ 私、戦えないよっ」


 テツくんの説明に、奈乃は慌てたように何度も首を横に振る。


「大丈夫だって、ちゃんと武器は貰えるから」


 その言葉に呼応するように、奈乃の目の前にガチャガチャの機械が現れた。それからコロンとカプセルが転がり落ちる。


 奈乃がそれを受け止めると、トリガータイプの非接触型体温計のような形に姿を変えた。


「何コレ?」


「おおーっ、それ超レア!」


「え、レア?」


「おう! 衛星レーザー照準器。ビルより大きな巨大怪獣も一撃で倒せる化け物装備」


「……それって、危なくないの?」


「大丈夫、照準器には電磁フィールドが展開されるから、安全だって書いてた」


「街は…?」


「お前、バカだなー。そんなの焼け野原に決まってるじゃん」


「こんな危ないの、使える訳ないよ!」


 奈乃はトリガーを地面に叩きつけた。しかし空中で光の粒子と化し、指輪の中に吸い込まれる。


「大丈夫だって、ポイントが貯まれば、またガチャが引けるから」


「それまでどうやって戦うの?」


「うーん、気合?」


「私、体育2だよーっ、そんなの絶対ムリだよー」


「分かった分かった。オレが巻き込んだってのもあるし、いい武器が出るまで面倒見てやるよ」


 そう言ってテツくんは、照れ臭そうにガシガシと頭を掻いた。


「ホントー?」


「ああ、本当」


「もう意地悪しない?」


「もうしない」


「じゃー約束」


 奈乃は嬉しそうに微笑むと、右手の小指をピンと立てる。


「あーもー分かったよ、約束」


 観念したようにテツくんも右手の小指を絡ませた。


「指切りげんまん、嘘ついたら…」

「指切りげんまん、嘘ついたら…」


「レーザー降ーらす。指切った!」


「コイツ怖ええええっ!」


 テツくんの悲痛な叫び声が、夕焼け空にどこまでも響き渡っていった。





 〜おしまい〜

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