第3話 譜捧者
「フホウモノ?」
次の日、俺は宗馬さんと駒を磨きながら話をしていた。
ちなみに昨日より今いる建物のすぐ隣のちょっと古い一軒家が俺の家となった。これについては宗馬さんに対して感謝しかない。
「譜捧者を知らないのかよ」
宗馬さんは呆れ半分で教えてくれた。
この国では将棋がとても盛んであり、一年に一度、名人と竜王が大会によって決まる。さらに名人と竜王で対局をし、最強の棋士を決めるそうだ。そしてその棋譜を神様に捧げる。そうすることで人類の将棋の進展を報告するのだそう。ちなみにその行事を『譜捧の儀』というらしい。譜捧者というのは名人と竜王のことを指すらしく、この世で将棋を指す者は全員それを目指すくらい名誉なのだそう。
名人はもう決まり、もうひとつの名誉である竜王を決める大会がそろそろ始まるのだそう。大会に出る人は『御三家』の門下生である必要があるらしい。
『御三家』とは大橋本家、大橋分家、伊藤家を指す言葉らしく、宗馬さんは大橋本家の当主だそうだ。
今は伊藤家の時代といえる程伊藤家が強いらしく、名人位は十年連続で取られているそうだ。しかも同じ人が十年取っているらしいからその人は相当の化け物だろう。竜王位の方もここ数年は大橋分家に取られて、大橋本家は蚊帳の外らしい。
「宗馬さんは出ないんですか?」
ちょっとした疑問をぶつけてみる。
「あ〜、おれは将棋指せないんだわ」
ん、将棋が指せない…?
「どうして当主をしているんですか?」
「まあ〜、そう思うわな。将棋指せないくせに『将棋御三家』の一当主をしてるんだもんな。まあ、俺以外に継ぐ者が居なくなったから仕方なくやっているようなもんだ」
「居なくなった?」
「兄が二人な。立て続けに死んじまった」
「そうだったんですか」
「二人とも将棋が好きでどっちが家を継ぐかで将棋を指していたこともあった」
「なんかすみません。思い出させてしまって」
「いや、まあおかげで職に困ることはなかったんだ。将棋についてはよく分からんが、今は家を継ぐことができて良かったっと思っとるわ」
そう宗馬さんが自嘲気味に笑ってそのあと、急に沈黙が訪れた。なんと声を掛ければいいのか分からない。浮かぶ言葉全てが軽々しく思えた。
そして沈黙を破って宗馬さんが話しかけてきた。
「竜王戦に出てみないか?」
大会に出て腕試しくらいはしてもいいんじゃないかと宗馬さんは付け足した。
前の世界で高校生竜王になって、ここで竜王になるのも悪くない。
俺は心良く出る意思を告げた。
神様の遊戯 ことふぎ @kotobuki999
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