6-4
「す、すごい人がいっぱい!」
「僕も緊張するよ」
刃菜子ちゃんの就位記念パーティー。多くの棋士や関係者が参加している。そんな中、うろうろしている二人組がいた。加島君と……彼より若そうな女の子。顔を近づけながら話して、とても親しそうに見える。
……加島君て、ひょっとしてすごくモテるの?
「妹の美鉾ちゃんだよ」
「わっ! 武藤さん、いきなりでびっくりしました」
「いやあ、中五条さんがずっと加島君のこと見てたから、なんか手助けできたらと思って」
「ずっと見てなんかいません」
向こうで、手を振っている人がいる。師匠だった。
「お久しぶりです。最近大活躍ですね」
「いやいや、中五条さんこそ」
目隠し20秒将棋トーナメント、多くのファンの予想に反して、チーム三銃士は圧倒的な強さで決勝トーナメントに進出していた。アカウントのつぶやきも好調で、ベテラン三人の人気がここに来て爆発している。
「あ、あ、臺先生」
「挨拶しておこうか」
「えっえっ」
加島君とその妹の美鉾さんもこちらにやってきた。
「臺先生、疲れ様です。あの、妹と写真撮ってもらえませんか」
「あ、はい。どうも。加島君の妹なんだ。いいよ」
「す、すみません!」
師匠と美鉾さんがスマホで写真を撮っていると、背後から圧を感じた。振り返るとそこには大きな体。元横綱の鷹昇龍だった。
「加島先生、久々だね!」
「はい、お世話になってます」
あんなにびくびくしていた加島君が、元横綱とは普通に話している。どうなっているんだろう。
「甥っ子ね、D2に上がったよ!」
「おめでとうございます」
「早く加島先生も横綱になってよ!」
「ははは、まだ幕内にも上がれてないので。頑張ります」
「ちょっとー、みんな集まってる!」
白いドレスに身を包んだ美少女が、こちらにとことこと駆けてきた。かわいい。本当にかわいい、本日の主役、妹弟子だった。
「おめでとうございます」
「なによ、改まって。それより美鉾ちゃん、せっかくだからみんなで撮ってもらおうよ」
「え、皆?」
「臺先生ぃ、武藤さん、鷹昇龍さん、加島君、あ、会長も升坂さんもこっちきてくださあい!」
美鉾ちゃんが呼び掛けて、私たちの周りに多くの人々が集まってきた。
「中五条さんも。おじい様がいないのが残念。今度は家に行って撮りましょうね」
「うん」
「写真、お願いできますか? こんな機会ないもの、絶対に撮らなくちゃ」
刃菜子ちゃんは、美鉾さんと肩を組んだ。そして、私たちは思い思いのポーズをとり、シャッターが切られた。
「なんか感動!」
「あの、刃菜子ちゃん、そんなにテンション高くなること?」
「なりますよ! だって、ネタ将大集合だもん!」
「え? 私は入るべきじゃ……」
「美鉾ちゃん、アップしちゃおうよ」
「いいんですか?」
「美鉾ちゃんの顔は隠さないとね」
「すごい感動です。リアルでプロのネタ将の人たちにこんなに会えるなんて」
「いやだから私はネタ将では……」
なんということだろう、気が付いたらここにいるのは私以外みんなネタ将だったのだ。
<福田さんの就位式で、みんなネタ将!>
その投稿は、100リツイートを達成した。
「いい写真じゃないか」
おじい様は、何度も言った。
「私の顔も隠してほしかったです」
「でも、わしにはいい表情に見えるが」
「それは……」
「楽しかったんだろ」
あの後、美鉾さんとも仲良くなった。武藤さんとゆっくり話せたのも初めてかもしれない。ネタ将はともかくとして、たしかに、一緒にいると楽しい人たちかもしれない。
「でもやっぱり、私はネタ将じゃないです」
「まあまあ。ネタ将はみんなそう言うらしいぞ?」
「……まったく」
やっぱり私は、ネタ将にはなりたくない。
#完
みんなネタ将 清水らくは @shimizurakuha
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