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「これは面白いものになったなあ」
おじい様は喜んでいた。動画制作にあたり、色々と意見ももらった。私も、出来栄えには驚いている。
【中五条家の7六歩15分】これが、出来上がった動画のタイトルである。実際の撮影時間は10時間を超えている。
「関奈さんは、余計なものを入れない方がいいと思う」
一週間前、心之介は言った。
「どういうこと?」
「色々喋ったりとか、テロップ入れたりとか、そういうのが多いけど。でも、全部抜いて、美しい色を見せるべきだよ」
最近、将棋関係の動画を何本も見たのだけれど、確かにしゃべりとテロップが多い。どれだけ楽しませるキャラか、が重要だと感じていた。
「それで観る人がいるのかな」
「最初は少なくても、一度話題になれば。海外とかに受けるといいな」
そのあと話し合って決まったのが、「ひたすら初手を撮る」という企画だった。中五条家の様々な部屋で、様々な盤駒で、様々な衣装でとにかく初手を指す。できるだけ自然な光で。できるだけ音を足さずに。「必ず指す前に5秒は停止して」というのが心之介の指示だった。初手は、指す前から含まれる、という信念。
駒の並べ方も様々に工夫した。線の下に合わせて。升目の真ん中に。少し乱雑に。
髪型を変えたり、飲み物を置いてみたり。
少し笑顔で。焦った顔で。
撮影を続けていくうちに、不思議とすがすがしい気持ちになっていった。いつも私は、不安になりながら初手を指していた。
様々な対局相手も想像した。ベテランの人。若い人。男性棋士。女流棋士。対アマチュア。
初手を指すのが、少し苦しくなる瞬間もあった。対局を始めるということは、投了の可能性が生まれるということだった。意識したことのなかった、感覚。
【中五条家の7六歩15分】を公開した。予想通り最初はそれほど伸びなかった。
<中五条さん動画参戦!?>
<手が綺麗>
<中五条家すげー>
<ここにネタ将じーさんがいるのか>
再生数のわれに、つぶやきではにぎわっていた。しかし投稿から一日。
<将棋の美しさが詰まってますね。皆さんに見てほしいと思います>
ドルビア共和国のカリーカ大統領に紹介されたのだ。しかも三か国語で。再生数が急に増え、いくつか外国語のコメントも着いた。
世界中に見られているかもしれない。少し怖くて、ドキドキして、ちょっと嬉しかった。
心之介の気持ちが、少しわかった気がした。
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