変化28.静かな日
「なんかさ、ちょっと緊張するね。ウチら昨日はもっと凄いことしてたのに」
「思い出しちゃうから止めて……。今日はほら、止めておくんでしょ? だから誘惑するようなことは止めてよ」
「誘惑してるつもりは無いんだけどー。我慢できなくなったら言ってね?」
そういうと、佐久間さんはベッドの上に座っている僕の足の間に自身の身体を滑り込ませてきた。
小さな子供にするように、僕は彼女のお腹の辺りを軽く抱きしめる。
お互いの体温が感じられてじんわりと温かくなってくる。
ベッドの上は軽く片付けて、タオルを敷いた。その……濡れとかういうのは全部処理した後なので問題ないと思う。不快感は何も感じない。
一緒にパソコンで動画を見るためにちょうどいい高さの椅子が無かったので、ベッドの上に座ることにしたんだけどさ…。
先ほどの発言でこのベッドの上で色々としたんだなと思い出してしまった。
完全に墓穴である。いいやもう、墓穴ついでに色々と聞いてしまえ。
「ちなみにさ、我慢できなくなったらどうするつもりなの……?」
「聞きたい?」
僕の問いかけに、彼女は僕の方に首だけを向けながらニヤニヤとした笑みを浮かべる。楽しそうだ。
いいだろう、このまま掘り進んでいこうじゃないか。
「聞きたいな、何する気なの?」
「うわぁ、昨日とはうってかわって積極的ー。エッチはできないけど、他にも色々と手段はあるでしょ?」
彼女はそういうと、少しだけ扇情的な動きをしながら舌を艶めかしく動かして唇を舐める。
やばい、こんなこと言われたら顔が熱くなってしまう。
「今日は、そうならないように我慢するよ」
「アハハ、照れないでよ。ウチもちょっと恥ずかしいんだからさ」
よく見ると佐久間さんは耳が赤くなっていた。そしてその照れをごまかすかのように僕に体重を預けてくる。
心地の良い重みを感じつつ。僕等はパソコンの動画を見る。
映しているのはラノベ原作のアニメだ。青春ラブコメで、少し不思議な要素もあってかなりの高評価を得ている。
見よう見ようと思って後回しにしていたんだけど、こうやって佐久間さんと一緒に見られて良かったと思う。
「なんかさ、懐かしいねこうやって二人でアニメ見るの」
「……そう言えばそうだね。高校の時はよく一緒に見てたっけ」
「ウチ、アニメ見るの自体久しぶりだなー。東京だとオタトークとかしてないからさぁ」
「そうなの? サークルとかは入ってないの?」
僕は自分を変えるためにサークルに入ってるけど、佐久間さんは東京の大学ではサークルに在籍しているんだろうか?
「サークルは二つに在籍してるよ。歴史系の文芸サークルと、イベントサークルのふたっつ」
「イベントサークルって……それ大丈夫なの?」
今の佐久間さんがイベントサークルって、飢えた猛犬の居る檻の中に生肉入れるようなものじゃない?
「まぁ、そっち目的の男子も多いみたいだけどねぇ……。実はお姉ちゃんが在籍してたサークルなんだよね」
「お姉さんの?」
「うん。そこでね、下心のある男を見分ける目を養えって言われてさ。だいぶ分かるようになったよ……そこでタケシが一番ってのも再認識できた」
「少年漫画の修行みたいだねソレ……危なくないの?」
ちょっとだけ僕は、まだ見ぬお姉さんに怒りの感情が湧いてしまう。そんな危ない場所に妹を放り込むなんて……いくら彼女が望んだとは言え……。
そんなことを考えてたら、ふいに僕の頬が摘ままれる。
「怒ってる? 大丈夫だよ、お姉ちゃんね……本当に危なかったら自分の名前を出せって言ってたから」
「そんなので、安全なの?」
「安全だよー。自己紹介の時にお姉ちゃんの名前言ったら、先輩の男子達が青い顔してたから」
何それ怖い。名前だけでそんなことになるってどういう事……?
「だから気を付ければ良いのは同年代の男子だけだったからさー。だからタケシが怒るようなことは起きなかったから、心配しないでね?」
「もうね、心配し過ぎて今更だよ。でもまぁ……もうそのサークルからは抜けてほしいかなぁ、僕としては」
「そだね。夏休み開けたらそっちは辞めるよ。居続ける意味は無いしね」
そのまま彼女が僕の方を向いて、頬に軽くキスをしてきた。
耳元でゴメンねと呟いて離れた彼女を僕は後ろからギュッと抱きしめると、お互いにパソコンの画面を見る。
アニメはちょうど1話目の終盤と言うところだ。
「そういえば、タケシはどんなサークルに入ってるの?」
「あぁ、僕はボランティアサークルに入ってるんだ。和也ともそこで知り合ったんだよ」
「西園クンって面白い人だねぇ。」
「割とアニメとかの趣味が合うんだよね。これもあいつにおすすめされたものだし」
僕等はそんな雑談をしながら、その日はベッドの上でダラダラと一日を過ごしていった。
遠距離恋愛をしていた彼女が黒ギャルになって帰ってきた件~僕の彼女寝取られてないですよね?!~ 結石 @kesseki
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