再建24.和解
『主!! 説明を求めます!! なぜ主がこのような矮小な存在の下なのですか……!!』
「あらあらァ、その矮小な存在に傷つけられたじゃないあなた?」
『ウグッ……、そ……それは』
激高していた群れのボスは、ゾイックさんの揶揄うような言葉に声を詰まらせる。
矮小な存在……それはその通りだ。僕はまだ弱い。
そんな僕に傷を付けられたのは彼にとっては屈辱なのだろう。そこをゾイックさんは畳みかける。
「まぐれとか言わないわよねェ? 油断とか言わないわよねェ? 誇り高きフェンリルの名を冠する種族が……言い訳とかしないわよねェ」
非常に意地の悪い言い方で、なんだか襲われた僕の方が彼に同情してしまう。そんな同情を、きっと屈辱と感じてしまうだろうから言葉にはしないけれども。
『……結果は結果、言い訳は致しませぬ。しかし、それとこれとは別。主ほどの力を持つお方が誰かの下などと……』
「だから説明したでしょ」
『されておりませぬ。この矮小な……』
その瞬間、またボスは声を詰まらせた。
今度はゾイックさんの言葉に詰まったのではない。彼女がボスの頭にそっと、静かに……手を置いただけだ。
その顔には慈しむような微笑みを浮かべているのに、手を置かれたフェンリルは身体を硬直させてその目に恐怖の光を浮かべていた。
「ねェ、さっきから私の主を侮辱してるけどォ……それは私に対する侮辱ととっていいのかしらァ?」
『そ……そんなつもりは……!!』
「ねぇ、ヴィト? 貴方の意思は種族の意思、群れの意思、全体の総意よね? 種族全体で……私に逆らうのかしら……?」
静かなその言葉には確かな殺気が感じられた。それと同時に、彼女の身体の色が混沌としたものから輝く黄金に変わる。
何かその色に恐ろしさを感じた僕は、思わず声を上げていた。
「ゾイックさん、彼の……ヴィトさんの言うことはもっともだと思います。だから何をするつもりなのか知りませんが、納めていただけませんか?」
僕の言葉にゾイックさんは振り向いて僕に視線を移す。黄金の光はそのままで、目もくらみそうな眩しさに僕は少しだけ怯みそうになる。
「あらァ、ロニ君は無礼を働いた彼等を許すのォ?」
「許すも許さないも、侵入したのは僕等の方ですよ。謝るなら僕の方です」
「ふゥ~ん?」
黄金の光が徐々に混沌とした色に戻っていく。なんだろうか、こっちの色の方が気持ち悪いはずなのに、今はこの色がとても落ち着く。
「まァいいわァ。別に怒ってないしィ? 主の言うことは聞いておくわァ」
ゾイックさんはヴィトさんに触れていた手を引っ込めた。ひらひらとその手をふりながら、面白そうに笑っている。
「……何ですかその新しい主って」
「あら、私は貴方の傘下になったんだからァ……主と言っても差し支えないでしょ?」
「ゾイックさん、そういう意味ではロニは確かに主かもしれませんけど……私は別に主ではないでしょう?」
いや、アニサ。僕も主じゃ無いんだけど……。
でもそうだ。さっきゾイックさんは僕とアニサの肩に手を置いて主だと言った。その意味って……。
「あら、アニサちゃんも私の主よ。だってほら、将来はギルドの女将さんになるわけでしょ?」
「は……はぁ?!」
アニサが顔を真っ赤にして声を張り上げた。僕も声こそ上げなかったものの頬が熱くなる。
この人の言動、本気なんだか冗談なんだか分からない……。
ゾイックさんはカラカラと笑って、アニサはそんなゾイックさんに詰め寄っていた。
ブラック・フェンリルに囲まれているという異様な状況の中、二人は追いかけっこを始めてしまった。
「何をしてるんだか……それにしても、さっきのは何だったんだろ」
黄金の輝き。綺麗なのに冷たくて恐ろしいその光を思い出し、僕は身震いする。ゾイックさんはコロコロと色が変わる。
その時、僕の傍らにフェンリル……ヴィトさんが近づいてきていた。
そして、そのままペコリと頭を
『少年……助けてくれたことを感謝する。そして先ほどまでの無礼をここに謝罪しよう』
「……頭を上げてください。あなたにしてみれば僕みたいな若造が、あの人の上だと言われても納得はできないでしょう」
フルフルと首を振るヴィトさんは、僕の目を覗き込むように顔を近づけてきた。
『いや、納得したよ。少年……君には主の魔力の高まりが見えていたのでは?』
「魔力の高まり……ですか? ゾイックさんの身体が黄金に光ったのは分かりましたけど……」
あの黄金の光が魔力の高まりだったんだろうか? その言葉を聞くとヴィトさんは一人で納得したかのように何度も頷く。なんだかやけに人間臭い仕草だ。
『主の黄金の魔力を感じ取る……そんなことは我々にも不可能なのだ。主が認めたのも頷ける』
あれが魔力……。という事は、僕が見えているのは人の魔力という事なんだろうか?
でもどうやら、このヴィトさんは僕を認めてくれたようだ。
「僕等も勝手に縄張りに入ってすいませんでした」
『謝らないでくれ。主の主に頭を下げられてしまっては我々としても立つ瀬が無い』
「その主の主って、呼びにくくないですか? 僕はロニと言います。よろしくお願いします」
『……我はヴィトと言う。ロニ殿、こちらこそよろしくお願いする』
互いに自己紹介すると、ヴィトさんは前足を差し出してきた。これは……手に取っていいんだろうか?
僕はそのまま握手をするように前足を手に取った。
「あらあらァ? 仲良くなったようで良かったわァ」
いつの間にか僕等が手を取っている所にゾイックさんが現れた。後ろではアニサが息を切らしている。
『主……ロニ殿をこの森に連れてきたのはいかような理由で?』
「本当はねェ、ロニ君とアニサちゃんにはこの森で魔物達と戦ってもらう予定だったんだけどォ……」
「ゾイックさん……そんなこと考えてたんですか……」
過去形だけど、そんな恐ろしいことをやらせようとしていたのかこの人。せめて言っておいてほしかった。
「だけどねェ、あなた達が先に来ちゃったからァ……」
『我々より強い魔物はこの森にはおりませぬゆえ……近づいては来ないでしょう……』
「そうよねェ……だから……お願いがあるんだけどォ、聞いてくれる?」
……なんだろう、この人の事だから碌でもないお願いな気がする。
僕とヴィトさんはお互いに顔を見合わせると、静かに彼女の言葉を待つ。
「あなた達の誰でも良いから……ロニ君たちの修行相手についてきてくれないかしら?」
無能と呼ばれた僕の楽しい組織再建~横暴な先輩冒険者達が出て行ったので、僕は幼馴染達と最強の組織を作り直します。戻りたい?今更あなた達の席はありませんよ?~ 結石 @kesseki
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